第104話 わたくしでは、なれません
あと、5分で、零時になります。
なんとか、間に合いました。
なんか、こんな感じの日が多いです。
【ジュンの視点に戻ります】
ドラゴンは、しばらく、物思いにふけっているようだった。
「大丈夫か…?」
ふたたび、尋ねてみた。
オレの問いかけも、聞こえていないのか、
ドラゴンが、唐突に、しゃべりだした。
「魔物さんと、会話できるようになる方法は、あります」
…っていうか、
「開発さんたちのお話では、対ニンゲンの会話機能は、すでに、魔物さんたちに搭載されています」
『搭載』というと、ロボットのように聞こえてしまいますが…
そうだったのか。
でも…、「その機能は、現在、封印されています」
そして、「その封印は、『真のダンジョンマスター』にしか、解除できないのです」…などと、言い出した。
………
わざわざ『真の…』なんて言い方をするのだ。
メカドラゴンは、まだ、その『真の…』ではないのだろう。
じゃあ、
「お前は、いつ、その『真のダンジョンマスター』になれるんだ?」
それまでは、待つしかないのかもしれない。
でも、見通しだけでも、きいておこうと思った。
「ふふふふふふ……」
ドラゴンは、目をつぶると、しずかに首をふった。
「わたくしでは、永久に、なれません」
そして、続けざまに言った。
「『真のダンジョンマスター』になれるのは、わたくしを倒した者だけです」
さらに、
「魔物さんたちを、大事に思ってくれる方…」
具体的には、
「魔物さんたちと、話ができるようになりたいと願う方…」
「つまり…」
………
「ジュンさまっ!あなたしか、おられません!」
……くっ
オレは、おもわずたじろいだ。
話を遮る隙もないとは…
相変わらず、口だけは、スーパー達者なヤツだ。
ここで、ドラゴンは、居住まいを正して、叫んだ。
「ジュンさまっ!」
「どうか、わたくしたちの『真のダンジョンマスター』になってく…」
「…断る!」
オレは、きっぱりと言った。
オレには、あの、立派なおうちがあるのだ。ほかには、何もいらない。
もちろん、美少女は、別腹だが…
それなのに、なにが、かなしくて、すでに、廃業したダンジョンの『管理人』にならねばならのか。
もちろん、これまでのいきさつもある。
だから、できるだけ『協力』しようとは思う。
しかし、『マスター』と名がつくのだ。『協力』ではすまないだろう。
だいいち、ボス部屋以外の魔物さんも含めれば、千匹は、いるはずだ。とてもじゃないが、オレにお世話できる数ではない。
「そうですかぁー」
「そうですよねぇー」
オレに、きっぱりと拒絶されたにもかかわらず、ドラゴンは、にやにやと頬をゆるめている。何を喜んでいるのか…
では、わたくしたちも、『誠意』とやらを、お見せせねばなりますまい…
なにやら、ぶつぶつ独り言を言い始めた。
そして、おもむろに、
ぱっちん!
ドラゴンが、指を鳴らした。
…ふりをして、口で言ったのを、オレは見た。
意外と不器用らしい。
そのときだった。
どどどどどどどどどどどどどどどどどど…………
すさまじい地響きが、あたり一帯を揺らし始めた。
「な、なんだ?」何が起きている…?
地響きは、第三城門から聞こえてきた。
すさまじい数の魔物さんが、こちらに向かって、全力で駆けてきているのだ。
瞬く間に、第三城壁の前は、魔物さんたちでいっぱいになった。
こいつは、オレと話をしてる間に、こっそり連絡をとったのだろう。マルチコアCPUか?
「ど、どうしたんじゃ!」
「まあ、まあ、まあ、何があったの?」
「いったい、どうなってんだい?」
ミルフィーユの人たちも、地響きに驚いたのか、ぞくぞくと集まってきていた。
転移ゲートでつながっているから、すぐに駆けつけられるのだ。
「ジュン君、いったいどうなってるんだね?」
領主のアルベールさんも、心配そうに駆け寄ってきた。
そうしている間にも、集まった魔物さんたちは、オレの前に、整然と並び始めている。
やがて、千匹を超える魔物さんが、一糸乱れず整列したかとおもうと、
メカドラゴンを先頭にして、いっせいに、『土下座』した。
イヌ科の魔物さんたちは、伏せのポーズだが…
「ジュンさまぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
先頭のドラゴンが、『土下座』したまま叫ぶ。
なんの時代劇だろうか、コレは…
「ど、どうか、わたくしたちの『真のダンジョンマスター』になってくださいぃぃぃぃぃーーっ!」
「お、お願いいたしますぅぅぅぅぅーーーーーーー!」
魔物さんたちも、おそらくは、同じことを言っているのだろう。
ただ、とうぜん、翻訳されていないので、いろんな鳴き声で、すさまじい喧噪となった。
【擬音語で、いくつか書こうかとも思いましたが、あまりにも無駄なので、やめました】
それから、千匹にも及ぶ魔物さんが、地にひれ伏したまま、オレの言葉を待っていた。
静寂と緊張が、あたりを支配している。
「ジュンくん…」
セーラも、シャルも、クレアさんも…、みな何か言いたげに、オレを見つめている。
……くっ
「こりゃぁ…」
エルフのエミールさんが、ドヤ顔で、オレの肩にポンと手を置いた。
「おめえの負けじゃね」
………
……くっ
しかたがない
………
その夜、
オレは、なし崩し的に、
廃業ダンジョンの『ダンジョンマスター』になった。