第103話 じゃあな…
すこし短いです。
きりのいいところで、切ったほうが、わかりやすいとおもったので…
「いいか、ドラ公」
人の上に立つってのは、ほんとうに大変なことだ。
ダンジョンの場合は、魔物だが、まあ、似たようなもんだ。
そんな重責を担うのは、誰だって嫌に決まってる。
そんなのを、ほいほいやりたがるやつは、まず、ロクなやつじゃねえ。でなければ、大英雄だ。
大英雄なんざ、めったに現れるわけがねえのさ。
…ってことは、自分から人の上に立ちたがる野郎は、まず、ガキみてえに、ただ、欲しいものを手に入れたがるだけの無責任な野郎だ。
だから、『ダンジョン・マスターなんて、お断り』ってヤツじゃねえと、安心して、ここを任せることなんてできねえのさ。
なるほど…、理由は、理解しました。
でも、「断られたら、どうしようもないのでは…?」
わたくしは、訪ねずにはいられませんでした。
………
主任さんは、少し、考えて、
「ああ、どうしようもねえな…」
………くっ
わたくしは、無性に罵倒したくなる衝動を抑えて、尋ねました。
その時は、「どうすればよいのですか?」
すると、主任さんは、にっこりと笑って、こう言いました。
「誠意をもって、頼みに頼んで、引き受けてもらうしかねえよ」
人の『心』を動かせるのは、やっぱ、『心』しかねえからな…
『策』で、どうにかなるもんじゃねえのさ…
「じゃあ、ドラ公、あとのことは頼んだぜ」
主任さんは、あっさり、そう言って、文字通り、消えていきました。
死んだのではありません。
転移したのです。
彼らが、生まれ育った惑星へと…
………
最初は、
「わたくしたちも、連れて行ってはくださらないのですか」
そう尋ねたものでした。
でも、主任さんは、しずかに首を振って、
「俺たちだって、ほんとうは、帰りたくねえんだ」
だが、『立場』ってもんがあってな、『責任』からは逃れられねえのよ…
そんなところに、
「おめえらを連れて行っても、ロクなことにはならねえ」
ここで暮らしたほうが、ずっと、幸せになれるだろうよ…
そんなふうに、言われたら、返す言葉もありません。
主任さんは、ぜったいに、嘘はつかない方でしたから。
それから、おめえらに、なにか『連絡』をとることも、もうねえからな。
あっちで、それをやると、簡単に『探知』されちまう。
見つかれば、きっと、おめえらを利用しようとするだろう。
だから、ほんとうに、お別れになる。
尋ねてえことが、あったら、今のうちに、しっかり聞いておくんだぞ…
………
そんなふうに、最後まで、わたくしたちのことを心配してくださる方でした。
………
………
……さようなら、主任さん
わたくしたちを、造ってくださって、ほんとうに、ありがとうございました。
………
わたくしは、目からオイルが漏れそうになりました。
………
「…ああ、そうだ、ドラ公」
忘れるところだった……と、また、主任さんが出現しました。
おめえが、スクラップにされたら、『真のダンジョン・マスター』に、このダンジョンを管理してもらえなくなるだろう。『真のダンジョン・マスター』を任命できるのは、おめえだけだからな…
かといって、おめえが潰された後、万が一にも、頭のおかしなやつに、ココを利用されるわけにはいかねえ…
だから、このダンジョンは、『自爆』することになってるからな…
「あっさり、潰されるんじゃねえぞ…いいな!」
そう、告げて、今度こそ、ほんとうに、消えてしまいました。
…………
…………
「なななななな…、なんですってぇーーーー!」
『自爆』の二字を聞いて、お別れの寂しさも、吹き飛びました。
…………
…………
でも、
まあ、
わざと、最後の最後に、『自爆』の件を伝えたのでしょう。
口は、悪いけれど、ほんとうに、やさしい方でしたから…