第100話 おなかがいたくなるのじゃ
いま、書き終わりました。
じつは、きのう、「Win10」移行も含めて、部屋のPCの構成?を、徹夜で変更しました(笑)。
これで、ようやく一段落したので、ほんとうに、ほっとしています。
今回で、第100話になりました。あいかわらず「なかずとばず?」なので(笑)、なにか、あがく程度のことは、しなくちゃいけないのかなと思います。これからちょっと、考えてみます。
今回も、お読みいただき、ありがとうございます。
騎士団長の話は続いた。
いくら街が潤うためとは言っても、
「治安が悪化しては何にもならないからね」
ここは、賢帝の治める帝都なのだ。
ごくふつうの市民が、安心して、日々の生活を楽しめるような都市でなければならない。短い期間とはいっても、無法者に怯えて暮らすようなことがあってはならないのだ。
そこで、街なかの巡回を強化するために、オレの力を借りたいとのことだった。
オレ自身というより、むしろ、オレの『知り合い』の力を借りたいのだろう…
まあ、ようするに、『しっかり治安を守った上で、がっちり儲けよう』という、はなはだ都合のよい計画だ。
これが、騎士団長の、ひとつめの依頼だった。
***************
「こっちだ!急げっ!」
騎士団長が、建物の陰に駆け込んだ。
二人の兵士も、たちまち追いついて、物陰に突入していった。
オレたちも、足を速めた。
このあたりは、人影もまばらだ。街の人を脅かすこともない。
「また、よろしく頼むね」
オレは、ケルベロスさんに、声をかけた。
大きな頭がふたつ、こちらを向く。
「ほっほっ…、承知しておりますぞ」
「ふむ…、コツは、つかめてきましたのでな」
笑顔?で応えてくれた。
なかなか楽しんでいるようだ。
「ZZZZ…」
真ん中の頭は、相変わらず、寝ている。
さぼっているわけではないそうだ。
こうして、交替で睡眠をとるらしい。
「みなで、起きておっても、することがありませんのでな…」
「…ふたりも、起きておれば、じゅうぶんなのですぞ」
まあ、いままでは、畑を耕したり、羊を誘導したり、そんな毎日でしたからな…
ふたりの頭が、しみじみ語っていた。
騎士団長たちの後を追っていくと、建物の陰から、定番チンピラ風のしゃべり声が聞こえてきた。
「オイオイ…」
「道を訪ねちゃ、いけねえっていうのかよ」
「そうだ、そうだ…」
「騎士さまだからって、横暴すぎじゃねえのか」
なかなか定番の開き直りだったが、
「こういうのを、食券乱売っていうんじゃね」
「おお、そうだぜ!」
「そのとおりだぜ!」
「おめえ、いいこと言うぜ!」
わが意を得たりと、パチパチ拍手しはじめた。
…………
なるほど、気の毒な若者たちのようだ…
…………
「じゃあ、よろしくおねがいします」
オレは、ケルベロスさんに、ぺこりと頭を下げた。
ふたりの頭は、しずかにうなずくと、建物の陰に入っていった。
「がるるるるるるるるるるるる…………」
「ぐるるるるるるるるるるるる…………」
「ZZZZ…」
低い低いうなり声が、あたりに響き渡った。
地面が揺れている感じすらする。
腹の奥底まで、ぐいぐい響いてくる声だ。
便秘がちな人には朗報だろうか。
「「「「「「「ひいいいいいいいいっ!」」」」」」」
若者が、悲鳴をあげながら、建物の陰から飛び出してきた。七・八人は、いた。
明るいうちから、かなり酒を飲んいたのだろう。ひどく酒臭い悲鳴だった。
こんなに、簡単に逃がしたのだ。
おそらく、まだ、未遂だったのだろう。
建物の陰に入っていくと、女の子がふたり、へなへなと地面に座り込んでいる。ケルベロスさんを見て、震えていた。
恩知らずと、言えなくもないが、無理もないことだった。
大の男が、悲鳴を上げて逃げ出す迫力なのだ。
オレは、リュックから、シャルを出した。
シャルは、少し前に、ケルベロスさんから、じっくり抱きながら降ろして、リュックにしまっておいた。
ケルベロスさんのことは、ひと目で気に入ったらしいが、
「あの声を聴くと、おなかが痛くなるのじゃ…」
そういって、おなかを押さえているので、亜空間で待機させることにしたのだ。お尻を洗うトイレもあるしね。
リュックから飛び出ると、シャルはすぐに、女の子たちに駆け寄った。自分の役割をしっかり理解している。賢い姫さまなのだ。
「もう、大丈夫じゃ!」
「シャルちゃん…」
「姫さま…」
シャルのかわいい声を聴いて、ふたりの女の子は、ほっとした顔になった。
衣服に乱れたようすはない。間に合ってよかったと、しみじみ思った。
女の子たちは、シャルと同じ制服を着ていた。オレと同じ年ごろの学院生だった。もしかすると、同級生?かもしれない。
あのかわいい制服に、ミニスカートは、狙われやすいのだなと、あらためて思った。
何としても、あのミニだけは、守り抜かねばならない。オレは、この依頼に、かすかだが、使命感を覚えた。
連中が『道を訪ねた』のは、本当らしい。
だが、そのまま、大勢で周りを取り囲んで、この建物の陰まで、連れ込んだという。
計画的な感じもするから、捕まえるべきだったかもしれない。
………
ああいう連中まで、牢屋に入れてしまうと、
「すぐに牢屋が満杯になってしまってね」
オレの考えていることを察したのか、騎士団長さんから話しかけてきた。
でも、これだけ、恐ろしい目に遭ったのだ。
「しばらくは大人しくしてるだろうさ」
それに、これからは、
「街中で頻繁に、ケルベロスたちを目にするだろうしね」
ふと、目をやると、シャルといっしょに、ふたりの女の子たちも、ケルベロスさんを撫でていた。
恩知らずのままにならずには、すんだようだ。
シャルは、幼いながらも、なかなかに、気配りのできる姫様だった。
巡回協力の依頼を受けたとき、ドラマの『警察犬』を思い出した。
それで、ケルベロスさんに頼んでみたのだが、やはり、当たりだったようだ。
こうして、『帝都巡回ケルベロス部隊』が誕生した。
のちに、彼らは、『帝都の守護神』とも呼ばれるようになるが、これはまた別の話だ。
「ほっほっ…、みな、帝都観光に行けると、大喜びですぞ」
ケルベロスさんたちも、楽しみにしているようだ。
まちがいなく、巡回程度には、『オーバースペック』の戦闘力なのだ。
観光気分でも、大丈夫だった。