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リベリアーク  作者: イノリ・ガハラ
憎しみを取り戻した日
6/24

4

シェルフィールドには都市の中心を担っている特区という場所がある。その場所は城壁で囲まれており、ほかの都市と同じ様に城壁内に一般平民は住めない。住むことができるのは当然ながら貴族、そして少数ではあるが富裕層の平民と領主から特権を貰った商人や職人である。この都市はウェルザリア最大の貿易都市であるがため特権商人が多く存在し、その者たちが特区内に屋敷を構えることも少なくない。また、シェルフィールドでは貴族が好むガラス、鏡細工の生産が盛んに行われており、貴族に直接雇われた職人たちは特区内に住むことを許され生産を行っている。


その特区には、シェルフィールドの都市全体で分けられている区切りと同じように四区に区切られており、ジランが連れてこられたのはシェルフィールド特区内西区に位置する国の屋敷だ。木独特の香りと美しい赤銅色が定番で客人を招く際によく使われている木造建築のこの屋敷は、領主に任命された際に国から貸し出されたものであるため、領主の座から退任する際には国に返還しなければならないが、ほとんどの領主はその屋敷を私物化している。


「ホーランデルス卿、客人をお連れしました」

衛兵は礼をすると体の向きを変え、自分の持ち場へと帰っていく。


「ようこそジラン。よく来たな」

「いえ」

ジランは素っ気なく返す。


白のズボンに赤茶色の豪勢な上着を身に纏い、長い髪を後ろで整えたこの男の名はルイトボルト・ホーランデルス、一等貴族伯爵位でこの町シェルフィールドの領主だ。リーズ、シェルフィールドの関係は両領主による人力と尽力、互いの寛容な政策により従来のマギア・ウェルザリア間とは思えない程の友好的な関係を築く事が出来たということだったが、その第一人者がまさにこのホーランデルス卿なのだ。


たかがマギア領内の一都市、しかしその功績はマギアとの友好的な関係を望む人々からは支持され、今後マギアとウェルザリアの関係を担う人材として期待されている。


——だがどれだけいい顔をしようと、俺にとってこいつは……

人生の中で最も黒い場面が頭の中で再生される。


「ついて来なさい」

その言葉にジランは現実へと引き戻された。

「はい」


赤銅色の折り返し階段を上っていく。踊り場には紫色の花を入れた花瓶が三つ置かれており、上がった先の廊下の壁には絵画がずらりと掛け並んでいる。その光景は来客用の屋敷だけあってやはり金の掛け方が違う。貴族社会では物に金を掛ける事は自らの力、財力を誇示する手段であり、そこから既に駆け引きは始まる。もし一般平民が使うような安価で質に悪い物を客に出したとすれば、この貴族は財力が乏しいと判断されてしまい様々な交渉、特に政治的交渉は不利となるのだ。だから貴族は物に金を掛ける。とはいえそれが自らの自尊心や物欲、自己顕示欲を満たす事と紙一重だと言うこともまた事実である。


突き当りまで歩いた廊下を左に曲がり少し進むと、右手にある扉の前で立ち止まった。ホーランデルス卿はドアノブに手を掛ける。


「ここだ」

招かれたその部屋は壁と同じ色の背の低いテーブルと、ふかふか柔らかそうな白いソファが中央に設置され、壁際にある棚には芸術品とも見て取れる皿や壺が飾られていた


「今日は急な来客があってね。後で代わりの者が来るから少し待っていてくれ」

そう言いホーランデルス卿は部屋を出る。


——わざわざ呼んでおいて他のやつを優先するとは、あのくそ野郎が。しかしまああいつも俺の親の被害者か


しばらくしてドアをノックする音が聞こえる。どうぞと返事をすると、黒と白を基調とした飾り気のない使用人服を着た男が一人部屋へと入ってきた。グラスと白色で文字が刻まれた緑色の半透明の瓶が載せられたトレイを右手に、左手には本を数冊といくつかの書類を持っている。


「お待たせしましたジラン様」

「構わない」

男は軽く礼をすると手に持った両方を机に置き、そのままジランの対面に座ると続けた。


「本日は主に代わり私が務めさせていただきます」

「出来るだけ手早くしてくれ」


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