表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リベリアーク  作者: イノリ・ガハラ
憎しみを取り戻した日
4/24

2

「魔法と剣とでは魔法のほうが圧倒的に有利だとほとんどの人が思っているだろう。しかしそんなことはない」

広い教室に屈強な体型の男性教師の声が響く。


教室の中は前方の教壇に向かって横長の四人用の机が並べられており、後ろにいくにつれて机の位置が緩やかに高くなるようになっている。天井は高く開放感があり、息苦しさを感じることはない。白亜の壁にはシンプルなデザインの模様が掘られており、教室の左側の大きな窓から注ぐ陽の光が気分を爽快にさせる。


生徒たちは自分の好きな場所に複数人で固まって座っている人もいれば一人で座っている人もいる自由な講義体型の中、ジランたち三人は四列目の窓側の席にいた。


「魔力量の1とは火の玉を作る第一階位魔法<fire>一回分を基準としている」

男性教師は言い終えると魔法式<el prode fire>を唱え右手で顔の大きさほどの火の玉を作ってみせた。


「このことはみんな知っているだろう。これを何発も撃てるならいいんだが、残念ながら人間の魔力保有量の平均は40から50ほどしかないんだ。しかも、すぐに撃たず今しているような詠唱後待機状態でも少しずつ魔力を消費しているし、持続魔法を使えばその魔法が続く限り魔力を供給しなければならない。それに魔法は上位、高位のものになるほど詠唱の時間が長くなるから隙ができやすいんだ。まあ魔力保有量は訓練すれば増えるし、詠唱前待機状態という最後の一句前まで先に唱え上げ待機する方法なら、どんなに長い詠唱の魔法でも最後の一句を唱えれば即座に発動できる。その状態の時に他の言葉を口にすれば詠唱前待機状態が解かれてしまうので、誰かと話すことはできないがな。だが、ここで言いたいのは魔法を使用する際の魔力消費量に対して魔力保有量が圧倒的に少ない、つまり立ち回り次第では剣でも太刀打ちが可能ということだ」

男性教師は強く確信した様子で言った。


——馬鹿馬鹿しい

ジランは教師の妄言に呆れる。


事実として、剣と魔法では圧倒的に魔法の方が有利だ。実際の戦いになれば遠くから魔法を撃ち込まれて終わりになる。こっちができることは精々剣を抜くくらいだろう。それなのに何故、教壇に立つあの教師があんなふざけたことを言えるのか。それは六十年前の戦争以降ウェルザリアとマギアは戦争をしていないからだ。戦争が過去の物となり戦争を想像でしか語れない、だからあのような発言ができる。


ウェルザリアは魔法を捨てた。その理由は、六十年前のウェルザリア南北戦争、別名ウェルザリア内線で多種多様な非人道的、大量殺戮魔法が使われ大勢の人がその犠牲となったために、二度とこのような惨事を起こさないようにとウェルザリア議会が魔法を規制する法を制定したからだ。そのため、魔法への国民の意識は年齢層が上がるにつれ悪や罪という意識が強く、特に六十年前の戦争を体験した親を持つ世代、現在の年齢で言うと四十から五十代の人々は魔法=悪という概念が根っこから染み付いている。しかし、ウェルザリアは魔法を完全には捨てていない。実際は第三階位以上の魔法を禁止にしているだけだ。それに軍では一部の第三階位以上の魔法を使用しているらしい。


魔法を捨てたといいつつも結局、多少は魔法に頼っているこの状況に矛盾を感じるウェルザリア国民も少なくはないが、しかしその矛盾を見て見ぬふりをし、魔法に頼らざるを得ない状況にウェルザリアはある。


その状況とはウェルザリアと敵対している国、六十年前の戦争の最大で最悪の産物。


マギア帝国の存在だ。


マギア帝国は六十年前のウェルザリア議会魔法推進派がウェルザリア南北戦争を経て分裂して出来た国であり、元々は同じウェルザリアの同志であった。ウェルザリアの北側と隣接しているマギア帝国は、ウェルザリアとは真逆の魔法主軸国家。マギア帝国では剣が、ウェルザリアであるところの魔法のように嫌われている。しかも嫌悪の度合いはウェルザリアよりも激しい。そんな国が隣にあるため、ウェルザリアは魔法に頼らざるを得ない。


ウェルザリアは剣、マギアは魔法、武力だけならマギアが圧倒的優位。しかし前述したように六十年前の戦争以降ウェルザリアとマギアは戦争をしてはいない。いや出来ないのだ。


魔法というのは短時間で大きな力を発生させることが出来る代物だが、便利な力にはそれ相応の対価が必要となる。魔法の場合はもちろん魔力。だが魔法を使用するための必要魔力量に対して人の魔力量はとても少なく、魔法を使用する戦争は総じて短期決戦を主軸としなければならない。しかし人や物の流れが悪いマギアでは短期間での物資の投入が困難であり、万が一短期決戦が失敗に終われば戦争をする以上敵国からの物資提供は無くなるため、そこに待っているのは同じ国民どうしで限りある物資を奪い合う秩序が崩壊した地獄。特にウェルザリアはマギアが最も資源を頼っている国であるため、ウェルザリアを攻撃するということは自国を攻撃しているのとほぼ同等の行為だ。


またウェルザリアとマギアの国境のほとんどはベンネヴィス山脈という巨大な天然要害が占めており、ウェルザリアの北側がマギアと接しているとはいっても両国が行き来できる陸地は北西のリバプールと北東のシェルフィールドの二つの都市しかない。


それに加えマギアの領地はウェルザリアの三分の一も無いのにもかかわらず、人口はウェルザリアの二分の一ほどいるが、マギアの土地はウェルザリアほど肥えておらず、農耕に適している土地が少ない。そしてマギアはウェルザリアに比べて各領主の権力が大きく、ウェルザリアのようなまとまりのある一つの国というよりかは、領主の自己主張が激しい小さな国が無理やりくっついていると言った方が正しい。


そのため食料やその他の物資が不足し、人や物の流れも悪く、だからマギアは戦争を仕掛けることは疎か自給自足することもできず、ウェルザリアを含む周辺国に資源を頼っているのが現状だ。


しかしいつまでもこの状況が続くとは限らない。もしマギアと戦争になった時、国や大人たちはどう対応するのか。魔法の制限を解除して戦うのか。それとも解除されずとも魔法を使い、法を破りながらも民を守るために戦うのか。はたまた法を、国を盲信し魔法は使わず剣のみで戦うのか。


気づけば最後の退屈な講義の終了を意味する鐘が学院内に響き渡っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ