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リベリアーク  作者: イノリ・ガハラ
プロローグ
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プロローグ

「ししょぉぉぉっ!」

辺りに男の子の叫び声が響き渡る。男の子は黒服を着た使用人五人に追われながら狭い小道を抜け、広場の中央に設置された首吊り台に向かって全速力で走っていた。


そこにいるのは先端がカールしたくせっ毛の茶髪を無造作に生やした髪型、シワのない若々しい顔、そして深い青色の瞳をしたややタレ目の男。


手を縛られぼろぼろの罪人服を着せられたその男の首には、薄汚れた縄が掛けられようとしている。


——早くししょうを助けないとっ。なんで、なんでししょうは殺されなきゃいけないんだ。なにも悪いことしてないのに。なんでっ!


しかし首吊り台の周りには多くの群衆が集まっており、なかなか前に進めない。男の子はそこに群がる人々を押し退けつつ、小さな体を駆使して人混みの中を無我夢中で縫って行く。


——なんでみんな見ているだけなんだっ。なんで誰も助けてくれないんだっ。お前たちがのうのうと暮らせているのもししょうのおかげなのにっ


だがそれも束の間、とうとう男の子は背後から伸びてきた黒服の使用人の手に捕まってしまった。手足を掴まれ持ち上げられながらも、男の子は必死にもがき叫んだ。


「ししょぉっっ!ししょぉぉぉっ!」

その声が届いているのかどうかは分からない。しかし無力な男の子が出来ることはそれしかなかった。だがその行為さえも許されることはなく、使用人の手が男の子の口を塞ぐ。


「んーーっんーーーっ」

それでも男の子は何度も叫ぶ。周りに群がる群衆の声も、首吊り台にいる処刑人の声も構わずに。その時、首吊り台の男が男の子の方へと向いた。二人の目線はお互いの瞳に交差する。その刹那はまるで、今だけ時間が止まったかの様だった。男は何かを口にすると、男の子へ穏やかに優しく笑いかけた。その直後、男の足元の床が開く。


「うわあああああああああああああああああああああ」

男の子には男が何を言ったのかは聞こえなかったし、笑顔の意味も分からなかった。ただ、今目の前で起きたその光景が嘘であってほしいという願いと、大切な人が自分の傍から居なくなるという怖さと、悲しみと、その原因を起こした奴らへの怒りと憎しみと、もう何もかもが混ざり合ってぐちゃぐちゃになったものが大粒の涙となって目から流れ、独り泣き叫ぶ事しか出来なかった。


「ッ!」

目が覚めると視界に入ったのは見慣れた天井、そして薄い布団を掛けてソファに横たわる自分の体。昨日の雷の魔導士との戦闘の後、師匠の家に帰ってきたことを思い出したジランは大きく息を吐く。


この夢を見るのはもう何度目だろうか。自分の人生の中で最も絶望した瞬間。親を、大人を、貴族を、国を憎み、人を信用しなくなったきっかけ。8年前のあの出来事は今でも色褪せる事は無く、黒々と脳裏に焼き付いている。そして、それが今の俺の、ジラン・ルクスギルフの行動原理だ。

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