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リベリアーク  作者: イノリ・ガハラ
憎しみを取り戻した日
12/24

10

雷の魔導士が軽く手を上げる。それに呼応して五本の雷撃のうちの一本が主の前に転がる一人の男に襲い掛かった。よく見るとその男は修剣学院の男性教師だ。


「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁ熱いぃぃぃっっっ!やっやめてっっやめてくださぁぁぁがががが」

「そうかァ熱いか!そりゃあ熱いだろうなァ!ギャハハハハッ!」

雷の魔導士は笑みを浮かべ弄ぶようにして男性教師の腹を抉った。焼け焦げたその体からは煙が上がりやがて動かなくなる。周りの兵士たちは大盾と剣を構えているだけで呆然として見ているだけだ。助けに行く様子もないというよりかは、既に体が恐怖に囚われてしまって足が動かないといった方が正しいだろう。


「はーああ、死んじゃったァ」

地に転がる死体を見ながら満面の笑みで言い放った雷の魔導士に、ジランは狂気というものを感じざるを得なかった。


——状況が読めない。何故マギアの魔導士がウェルザリア兵と戦っている?これじゃまるで……


「敵は単騎で乗り込んできた。数で押し切れる。囲め囲め!」

大盾隊の後ろに身を隠している指揮官らしい兵士が声を上げる。


「オォォォォォォォッ!」

その声に中てられ、大盾の間からは飛び出した遊撃隊の兵士のうち、一人が正面、二人が左回り、三人が右回りで雷の魔導士を囲み、全方位から勢いをつけ一斉に斬りかかる。兵士の数は六人。雷撃の数は五本。六時の方向から順に右中段、左上段、左上段、右上段、右中段、右中段からの斬り込み。


しかしその刃が雷の魔導士に届くことはなかった。正面の兵士は雷の魔導士が手を伸ばした瞬間に現れた雷の槍に胸を貫かれ、それ以外の兵士は剣を振り下ろす前に、舞い踊るかのような挙動で迫った五本の雷撃に腹部を抉り飛ばされた。鎧はまるで布切れのように散り、防具としての役割を担えていない。うねる雷撃の光によって照らされた鮮血と肉を焦がす煙が傷口から上がり、うめき声を上げながら五人は倒れた。


「あががががががががががっ」

「苦しいかァ?苦しいよなァ~」

雷の槍で貫かれた一人は体を大きく痙攣させ、口から血を流しながら言葉にならない声を上げる。それに比例して雷の魔導士の口角も上がる。


「放て!」

「el prode fire!」

大通りの両側、建物の屋根の上から聞こえたのは魔法の詠唱。そこにいたのは二十人ほどのウェルザリア軍魔法部隊だった。腰に長剣は差しているが鎧は来ておらず、白を基調とし緑の刺繍が細やかに入った軍服を着ただけの軽装。その理由は、俊敏性を重視しているためで、敵の攻撃回避や近接戦闘の移動は付加魔法での運動能力向上で補っている。


両手を伸ばし形成された火の玉は、両翼から大通りの中央にいる雷の魔導士に向かって飛んで行く。全弾命中の軌道。しかし当たり前のように雷撃がそれを防ぐ。一本の雷撃が伸びて一薙ぎで全ての火の玉を打ち消したその景色は、まるで芸術のように美しくそして絶望的だった。


「おいおい一国の兵士がよォ、こんなガキでも使える魔法をよくもまあ真剣に。そんなに好きならくれてやるよ。el prode fire」

右手を伸ばし火の玉を一つ生成する。だがそれだけでは終わらなかった。


「大サービスだァ。オッッル”アァァァァァッッ!」

伸ばした手を大きく右に振り抜いた瞬間、雷の魔導士の前に火の玉が無数に現れ、その後左右の建物の屋根にいる魔法部隊に向かって高速で飛翔した。魔法部隊はあらかじめ詠唱していた付加魔法<phys prode flow>によって向上した跳躍力及び移動速度で、素早く散開し回避を試みる。屋根を蹴り大きく飛んだ魔法部隊は高速で飛翔する無数の火の玉の軌道からは間一髪でずれた。しかし、


「おいィ~、飛んだらただの的だぞ」

雷の魔導士が人差し指を少し動かした瞬間、直線的な軌道だった火の玉が急速に起動を変え、散開する魔法部隊らに全弾直撃した。衝撃で吹っ飛び動かなくなった兵士たちは、焦げた服に血を滲ませ煙を上げながら屋根の上にだらりと伏し、そのうちのいくつかは屋根の上からドサッと地面に転がり落ちる。


——一回の詠唱で……ありえない

今雷の魔導士が詠唱した魔法はウェルザリアの学院生でも使える第一階位魔法<fire>。火の玉を一つ作りだし放つことが出来る。だが雷の魔導士は複数の火の玉を作り出した。もちろん詠唱語句を変えれば作りだす火の玉の数を変更できる。魔法至上主義のマギアの魔導士ならそんな高等技術も容易く行えるだろう。しかしあいつは今、三節からなるただの<fire>で複数の火の玉を作り出した。それはもはや魔法の理から外れた行為だ。


「ギャハハハハッッ。害虫駆除は楽しいなァ!」

雷の魔導士は殺し合いを楽しんでいる。いやあいつからすれば殺し合いなどではなく単なる虐殺。自分が圧倒的優位な立場で、ずっとただ一方的に殺すのが楽しいのだろう。大人が子供をあしらうように、人間が家畜を蔑むように、ただあいつはまともな魔法を使えないウェルザリアの人間のことが滑稽で仕方ないのだ。


「ほらどうしたァ、もう終わりかよォ~」

雷の魔導士は残念そうな表情を浮かべて大きく伸びをする。


貴族も軍も腐れ教師も、この状況を見てやっと気付くだろう。今まで何の根拠も無く俺たちに語っていた事がただの理想であったことを。しかしもう遅い。事が起こってからでは意味がない。


——やっとこっちに帰って二人に会えたのに……二人、そうだフィーナとアラーシュは⁉

二人の顔が浮かんだ瞬間、全身から冷や汗が止まらなくなり心臓の鼓動が激しくなる。


——最後に会ったのは大通り、そこで二人と別れた。巻き込まれている可能性は……いや冷静になれ。考えろ。現在の位置から見て、雷の魔導士がこの町に侵攻を始めたのは恐らく陽がかなり暮れた辺りから。食材を買うだけなら巻き込まれる前にいつもの場所に帰っている。そう戻っているはずだ。なら俺が今すべきことは


「いやー、これはこれで楽しいんでけどさァ、もうちょっと刺激が欲しいんだよねェ。もっとこうオワォ!ってこっちがなるようなさァ。誰かいないかなァ?」

その呼びかけに答える者がいるはずもなく、辺りには木を食らう火の音が鳴り響くのみ。

マギアにとっては神の御業、ウェルザリアにとっては悪魔の禁術。それを使う雷の魔導士に対してここにいる全員為す術も無く立ち尽くす。


「そうかいないかー。アシュガルもいないみたいだしよォ、ならもう終わりにしようか。ilsilsea……」

雷の魔導士は狂気に満ちた笑みを浮かべながら詠唱をし始めた。


「大盾隊、密集隙無の構え。遊撃隊は何でもいい、魔法を放て」

指揮官の命令に従い、大盾隊は隙間が一切ない一列の壁を形成し、遊撃隊は剣を鞘に納めると<fire>を詠唱し放つ。だがそんな攻撃が届くはずもなく、五本の雷撃が撫でるように打ち消した。雷の魔導士はもはや爆風を心地いいというかのように、目を瞑りながら詠唱を続けている。魔法部隊といい遊撃隊といい第一階位魔法を使っているところを見るに、もう魔力が残り少ないのだろう。遊撃隊は続けて魔法を放つ。しかし目標に届きはしない。撃って消され撃って消され、そしてその時は来る


雷の魔導士はゆっくりと口角を上げ、恍惚の表情を浮かべながら最後の詠唱語句を口にした。

「voltagea」


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