戦うべきだろう!
野獣国の王城に北東にある狸獣人の里が殲滅された事が伝わったのは惨劇から5時間後の夕方だった。
殲滅を知らせたのは男性の鳥獣人で、彼はその惨劇の時に気候が暖かくなりだした空を偶然にも遊覧していた。
これは、人族の旅団の風魔法が起こした風が巻き起こした奇跡といえる。
人族の魔法はスクリーンを作り、巻き上がる風が大気を攪拌して鳥獣人に届けた…… 鳥獣人が気付かなければ、王都にここまで早く危機を知る術がなかったのだから人族の作戦はある意味では失敗したとも言える。
また鳥獣人の飛行していた高度も良かった。地平線が見える程に高く飛んでいたので軍勢に見つからずに済んだのだ。
彼は、惨劇の目撃者として急いで王都へ命を削りながら自然属性適正違反の魔法を使いながら長距離の飛行をした。
辿り着いた王城で国王に惨劇のそれを知らせると、まるで枯れ木のようになって死んでしまったのだった。
「ホンマに、おおきにな…おおきにな… 風魔法を使ってここまで飛んでくれたんやな…… 。彼の適正魔法やなかったんやな…… 皆、彼が自然に還るよう黙禱を…… 」
風魔法に乗り命を削って飛んでくれた鳥の獣人に黙禱をすると、遺体から魔素が溢れて王やその場にいる家臣や王女に経験値として吸収された。
この光景を見て泣いている者がいる。
命を賭した自己犠牲への感動か…… または知り合いだったのだろう。
その啜り哭く声は周りを悲しみから、怒りへと塗り替えて王城は戦へと向き始めた。
「─────という事があったんや……」
宿屋で王女が俺とワルフに伝えた。
…… おそらくは『逃げろ』という裏の意味もあるんだろう。王女の顔に沈痛と寂しさが浮かんでいた。
「ふぅ〜む…… どの位で聖教軍はここまで来るんだ? 」
俺の質問に王女は涙で瞳を揺らして俯く。
「鳥獣人の勇者が風魔法で滑空するように飛んで5時間ほどやから…… 明後日には野獣国の王都前に到着するやろうな…… 」
ベッド際に座る俺の隣に腰をよせて、ジッと悲しそうに王女が見てくる。
「なぁシノ…… ウチの事を…… せめて忘れんといてな? 」
零れる涙を拭ってやり、クスッと笑いながら俺は立ち上がる。
「バカだなぁ…… 本当にバカだわ」
「ひぐぅ!…… やっぱり人族は獣人を愛してくれへんのやな…… うぅぅぅ…… 」
俺の言葉に王女は真っ赤になり、顔を手で隠し泣き出した。
「違う違う!…… 違うって!手伝うよ! 」
「え!? 」
キョトンと声に出そうな顔を王女が俺に向ける。あー目が真っ赤だわ…… マジ泣きじゃないですかぁ…… すみません言葉のチョイスに失敗しました。
「…… 逃げないよ。俺も戦うって…… 泣くなよ! 」
ニッと笑い安心させると、みるみる王女はブワーッと笑顔になる!
「アンタええ男やなぁ…… さらに!さらに惚れるわ! 」
コロコロと顔の変わる王女と一緒に俺は笑った。
「キ…… キュレネちゃんに…… 」
「ここで脅すかよワルフ! 」
しっかりと、この場の空気になりながら話を聞いていたワルフに殺意を覚えた。
…… ワルフはそれから穴を掘った。
…… 穴を掘って掘って…… 数時間もすると、自分が立ちながらでもスッポリ入る程のものになっていた。
「逃げても金が無いしのぅ…… 敵に鉢合のも嫌じゃから終わるまでここで隠れておく! 」
「テメーは、清々しいほどにクズだな! 」
俺のツッコミにフンと鼻で答えて、酒とパンと干し肉を持って穴に入るワルフ。
「シノ様、戦争が終わってから…… また」
「また会わねえよ!」
ワルフはゴソゴソと入り口を草で偽装した木の板で塞ぎ閉じこもってしまいやがった。
さすがの王女もこれには眉を顰める。
「シノ様! ワシ見えんか? ワシ見えんか!? 」
自分の安全を第一に確認しようとするワルフにイラッとしたので宿屋の食堂から蜂蜜を譲ってもらい、ワルフホールに蜂蜜をたらしておく。
…… 蟻にでも噛まれろ。
ベタベタなハチミツが穴の中に垂れてきて気持ち悪いのかワルフが何か叫ぶ…… なになに?
「あ…… 甘い! ヌルヌル祭りは1人でやるもんじゃないぞ! 」
「あぁアホだわ。」
「ホンマ、シノは何でこんなオッちゃんと一緒におんのかウチにはわかへんわ…… 」
ソッ…… とワルフ穴の蓋の上に岩を乗せて俺たちは王城へ行こうとする。
「!!あ! 開かん!! シノ様ー! も…… もう敵が来たか!? 」
そう叫ぶとワルフは息を殺して静かになった。
…… そこで俺は残り全量のハチミツをワルフ穴の蓋と岩の間からテローッっと流し込んだ。
カタッカタッと少し蓋が動くがベタベタ蜂蜜で濡れる中、声を殺しているワルフ。ここまでくると大したもんだわ。
面白いのでワルフをそのまま放っておいて王城へと向かった。歩き始めると王女ワルフ穴をチラチラと見る。
「あのオッちゃんええん? 」
とワルフを心配するが…… うーんワルフは今、どうでもいいや!
「アーユルヴェーダ! アーユルヴェーダ!癒しの空間でワルフもホッコリだから大丈夫! 」
と投げやりに王女に返した。
★☆
王城では戦いの準備をしていた。
止められるかな? 俺…… 人族だし…… と思ったが……
「あぁ! 王女の婚約者の! いらっしゃいませシノーンさん!」
という兵士の言葉で簡単に通された。
婚約者にいつなったの?
「ウチ…… 知らない」
「…… ねえ?」
「──────お父さん! 」
「おおアイ…… シノさん来てくれはったんですか? やはりウチの婿になりはる人でんな!獣人に尽くしてくれると?エライですわ! 」
国王がワザと大声で分かりやすく俺を紹介する。
俺が野獣国の敵ではないと家臣に伝える為だろうと頷くと国王は笑顔で返して来て俺の肩をパンパンと叩く。
フレンドリーな所を目にして、俺を知らない周りの獣人の目が大分と柔らかくなったのを感じる。
「シノさん…… あの…… ドワーフのワルフさんは? 今、野獣国は武器と防具を作る鍛冶屋が足りませんねんや…… 危急なんで手伝って貰えると助かりますねんけども……? 」
野獣国の王都には鍛治の素材はあるが鍛冶屋の数が足りないのだという。
「ワルフは穴にいます」
「穴? 」
「はい穴です。多分、役に立ちません」
王が王女を見ると、王女は引き攣った笑顔でコクコクと頷く。
ワルフを当てにしていた所もあるんだろね…… 部屋の空気が重くなる中で俺が声を出す。
「大丈夫! 俺が錬金術で増産するから! 」
シーン…… と更に重い空気が流れる。
「シノさん…… 場を明るくするギャグになってませんがな…… 冷え冷えですがな…… 」
「シノ…… 笑えんわ命かかってんのに錬金術て…… 御伽噺やないか…… ええ男やと惚れたのに少しガッカリやわ……」
王と王女に残念な目を向けられる。グゥ悲しい。
そうか…… 俺が錬金術を使える事を知らないんだったな…… ここで隠したらこの人達を救えないしな!よし!
いつも持ち歩いている魔法のカバンから拳程の大きさのチタンを取り出して、全属性魔法を込めて錬金術を発動する。
七色の光が溢れると王城の会議室にいる獣人全員が目を見開き動きを止める。
─────ナイフ!
そう念じると錬金術により形が形成されたチタンのナイフが出来上がった。
「ね? 錬金術できるでしょ? 」
俺の営業スマイルにしばらく誰もが口を開けられなかった。
「ホンマもんや…… ウチの旦那さんはホンマもんやわ! 」
王女が飛び上がり喜び俺に抱きつき頬にキスをする。国王は怒らずにその行動に対して笑顔でうなずいた。
え? 本当に親公認にされたら嫌なんですけど!?俺、冒険するんですけど?
でも声を出して断れば、人族の軍と通じていると家臣が俺を疑うかもしれない…… 何これ?
納得いかないなぁ〜という顔をしながら武器素材のある所に案内される。
そこで鍛冶をするゴリラの獣人に錬金術を見せてドンドンと剣や槍やらと防具を量産していく。
「すごいすごいバナナ食う? 」
「うおー! 本当に錬金術だ! バナナ食う? 」
圧倒的バナナ推しのゴリラ獣人の筋肉のグロさに引きながら錬金術を使い続ける。
魔力が足りなくなれば仮眠して起きたらまた錬金術を繰り返し、翌日には王城に備蓄していた武器素材が無くなるだけの量を作成できた。
王城の武器や防具を作りまくったから…… 魔力量がかなり鍛えられたと思う。
最後の方になると、錬金術を連続発動しながら生成数をたくさん熟しても魔力切れを感じないようになっていた。
「あれ?俺って人間だったよね?」
一国を守備するぐらいの鍛治作業を終えた自分に怖さすら感じるシノーンだった。




