二チャリ
──────4歳になった
魔力・超能力の訓練は風邪をひいたりした時以外は毎日、欠かさず行っている。
それに追加で母さんの魔法レッスンが始まった。
これはね、キュレネのおまけのような扱いなんだ。
できる妹がいると辛い……という体裁でキュレネと示し合わせをして『魔法がイマイチな子』としてレッスンに同席させてもらっている。
話が出来る様になるとキュレネは魔法の上達を誇りに思うようで目立つ事に嫌悪感がない。
まぁ魔法が普通にあるこの世界なら別段に隠す事も無いだろう。俺は目立ちたくはないけどね。
さて、レッスンと言っても母さんが夜に絵本を読む時のような、優しい声で魔法の種類や扱い方をゆっくり口伝してくれる。いい母親だよ。
母さんが冒険者として魔法使いの専門職として得た経験を合間に聞けるので、話の全てが興味深いし面白い。
俺は魔力が少ない子と思われているので、もう少し大きくなったら父さんが武道や剣術を教えてくれるそうだ。
「キュレネこれからは大切な話よ、よく聞いてね?魔法には適性があるのよ」
「てきせい?」
そう…俺は知らなかったんだけど、神様が見せてくれたようにこの異世界での魔法の自然属性には大別して火・水・土・風・光・闇があり、この星で運用されている属性魔法を使えるのは、そのうちの2つ、多くて3つまでが適性となっている。
例えば 火・光や、水・風・闇のように。
その適性に合わない属性魔法を人が使うと神に見放された状態になり、魂と身体に重篤なダメージ負荷がかかり寿命を縮める事になる。
こぇぇぇ!マジか!?キュレネに属性魔法の練習とか隠れてしなくて良かった!妹を殺す所だったぜぇ!
しかし…… 神に見放された状態か…… 細胞の中にある魔素と属性に何か関係しているんだろうか?
ちなみに俺は神様の加護があり全ての魔法属性と超能力が使えるようだ。知らずに隠れ使ってみた事があるんだよ…… 俺、死ななくて良かった自然属性と肉体の相関なんて知らなかったし……
俺が自然属性全て使えるのがバレたら面倒くさそうだなぁ……
っと、いかんいかん意識を母さんの話に戻す。
「魔法適性は…そうね……2人が6歳になった時に街で調べてもらいましょっか!」
────6歳か地球で言うなら小学生一年生の年齢だな。
グスッ孫の入学式を思い出すわ。ランドセル姿が初々しくてよかった!写真パシャパシャしていて引かれたけども!
「シノもそれで良いかしら?…… あんた何泣いてるの?」
「…… グスグス…… いや、俺は魔法イマイチだし魔法適性検査はいいよ」
母さんは優しい顔で微笑んで俺を撫でる。美人な人だなぁ
「シノ…… 自然属性適正が1種類だけでも剣と併せて鍛えたら強くなれるわ。自暴自棄にならないで魔法適性受けましょう?」
いや全属性使えますし超能力もあります。この辺は心が痛いです!…… まぁそれでも子供らしく振る舞いますよ!ええ!
前世の営業スマイルのように二チャリと笑う。
「はい母さん!」
「……なんかシノの笑顔から打算の匂いがする」
失礼な!可愛い4歳の息子に何言うのさ!
★☆
さて、4歳になり家の回りだけは自由に歩けるようになった。
それで分かったんだけど俺が転生した場所はちょい田舎だ。
限界集落とかではなく人口は少ないが若い人も居て生活できるように村が機能している。
村を囲うように縦2メートルほどの壁が建造されていて、広さ東京ドーム一つ半程の土地に人々の営みがある。
この星の環境ではこの村は、それ程田舎ではないみたいだけど…… 地球、しかも日本から来た俺としては
「田舎だなぁ……」と呟いてしまうのだ。
村の周囲は草原と森しかない。他の場所が本当にあるのか怪しいぐらい地平に伸びた街道が南北に続いている。
「雄大だなぁ…… 」
それら風景を大空から見下ろしながら観察している。
飛んでる?魔法でかよチート野郎めと思いました?残念!これは超能力の方の飛行を使って上空待機しているだけです!
風魔法でも同じような事が出来るんだけど、魔力を使うと勘が良い、例えば母さんなんかには飛んでいるのがバレてしまう可能性がある。
今の高度は上空300メートル位だろうか?
東京タワー展望台より少し上でホバリングしている
んだけど些か寒い。
上空は寒いだろうと厚着してきて良かった。季節は春過ぎなのに寒いの?大丈夫この子?風邪かしら?という母さんの目線が酷く寒かったがそれよりも寒い。
キュレネとの対応が大分違うよね。ちくしょう。自業自得なんだけども!やはり娘…… いや、孫娘が可愛いからその気持ちも分かるんですけども!
まぁ、いっか!ここまで上空なら魔法の訓練が出来るだろうと来たんだし色々考えても仕方ない。
「よしよし。とりあえず全ての属性を満遍なく使ってみよう」
この高度よりも更に上空に向けてまずは火の魔法を使う
火は俺が広げた手からゆっくり上に上がってポピッと呆気なく消える。
…… まぁ今はこんなもんかな?練習あるのみだな…… 家では目立った訓練が出来ないからな
今はこんなもん、こんなもん。決して神様の加護あるのに成長遅いなとか思ってない。ホントホント。
気をとりなおして水、風と様々な自然属性で魔法を放っていくと体に倦怠感を覚えはじめる。魔力が切れかかっているんだろう。
しかし俺には超能力がある。意識がある限りは飛行維持できる。
適度に練習を重ねてこれ以上は4歳の体を酷使するのも良くないなと魔法訓練を止めて地面にむかう。
寒いし疲れた…… 早く休もうと俺は焦っていた。家の裏にでも降りたら家族や近所に見られないだろうとたかを括ってもいた。
ス───ッと家の裏地に着地すると家の窓から衣摺れ音と視線を感じる。
え?ヤバイ!
焦って振り返るとパァーッ!と効果音がつきそうな笑顔のキュレネと目が合ったのだった。