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君と僕の生きる理由  作者: 心月みこと
5/8

君を癒す方法

 あれから約二週間の時間が過ぎた。この二週間僕の頭の中で常に考えているは花火のこと。

 なぜ、両親の残してくれた身体を傷つける必要があったのか、と。つまりリストカットをしていたということを僕は考えている。

 それをやる真意はなんだ、なぜするようになったのかなど分からないといけないことが考えれば考えるほどでてきてしまう。

 ネットの情報によれば、『心の痛みの限界を迎えた証拠』『いじめられた時や大切な人に捨てられた時におこる感情からくる苦痛を和らげるための自分勝手な手段』など。いろいろとあるらしい。

 花火は花火なりになにか悩みがあったのかもしれない。けど、理由があろうとなかろうと花火のしたことは両親の気持ちを踏みにじることに変わらない。ましてや両親を亡くして命の重さとかを身にしみてわかっているはずなのに。花火はそんなことする人じゃないと決めつけていた分裏切られたという気持ちが強く込み上げてしまう。

 けど、それ以上に花火のあの悲しそうな顔が僕の心には一番鋭く、深く、そして長く突き刺さっている。

 キーンコーン、カーンコーン

 授業終了のベルとともに僕は我にかえる。

(大事な授業の時にまで花火のこと考えてるなんてな、さすがに気持ち悪いよな。フラれたのに)

 僕と花火はもうすでに切れた縁なのに僕はまだ、心の中では繋ぎ止められるとすら思っているのかもしれない。そんな事はできないと知っているし、なにより花火は僕から見たらちょっとした罪人のようなものだ。僕が重すぎるのかもしれない、でも。

 一日の授業を一通り終え、僕は昇降口へむかい階段をおりはじめる。昇降口につくと靴をはきかえ外に出る。 

 外に出ると一人こちらを見てじっとたっていることがわかるが、逆光で誰だかよくわからない。僕は歩み寄るとその人が誰なのか理解する。

「どうしたの?今日は部活ないの?」

「ないよ。だから、久々に一緒に帰らない?ハルちゃん」

 司と帰るとなると本当に久しぶりのことだろう。花火とのことが起きてからは一度も一緒に帰っていない。つまり二週間ぶりということになる。でも、僕は断ろうと思っている。理由はただ一つだ。

 花火のことを考えている僕と一緒に帰っても司楽しくないと思うからだ。本当は花火のことを誰かに話して少しだけでも自分についている重荷をはずしたいと思っているが、花火に『春夫に私は荷が重いよ』と言われたことを思い出すとやっぱり話せない。司と帰ることになれば結局は相談をしてしまう。

「ごめん。今日は寄り道していくから先帰ってていいよ」

「寄り道?大賛成」と司は逆にテンションがあがってしまったようで無邪気な子どものよう僕の袖を引っ張りだす。

「早くいこうよ。どこ行きたいの?本屋?映画?それともゲーセンか?いや、カラオケも捨てがたいね」

 ここまで目をギラギラさせてる司を断ることは僕にはできない。仕方ないからと今日は司と遊ぶという予定に変更した。

「まだ、決めてない。本屋でいんじゃない?」

 僕の言い方が暗かったのか司は少し黙り混んでしまった。少しの間僕たちの中に沈黙が続いた。そのしんみりとした空気のなか司が沈黙を破った。

「本屋に行く前にさ、土手にいかない?この時間は夕日が川の水面に反射して綺麗なんだよ」

 もともと、家に帰る以外の予定はなかったし、今日は司と遊ぶと決めていたから特に断る理由もなく僕は頷き歩きだす。

 それに、なにか気を使われているよなそんな感じが最初からしていて気になっていた。おそらくなにか大事な話でもあるんだろう。

(好きな人でもできたのかな?)

 僕と司は土手に向かって歩いている時には一言も話すことなく、もくもくと歩みを進めた。ただ、そんな時でさえも僕は花火のことが頭からぬけていない。

 考えているとかそういうのではないが花火の笑った顔、怒った顔、照れている顔、そして悲しそうな顔すべてが頭のなかを順番にまわっている。少ない思い出が僕を一番苦しめているとつくづく思う。

 そんなことを頭の中でしているうちに目的の土手に到着していた。

「通学路の反対側に来るのってあんまりないけど案外近いもんだね」

「そうだね」 

 ここからはいつも歩いている土手が見えている。いつもの通学路の近くの橋を渡り反対側に行くとちょうど夕日と川が同じ方向にみえ司のいった通り水面に反射して綺麗に見える。

 夕日が上からも下からも僕を照らしてくれる。まるで今の僕の心を上からも下からも励ましてくれているかように。少しずつ僕の頭の中が整理されていくような感じがしてきている。というよりは素直になってくるという感じか。

 本当はわかっていたんだと思う。リストカットなんかどうでもいいという事に。本当はフラれた事実をリストカットをしている人だから、という大きなモノに隠していたかっただけ。嫌われるように仕向けて男をフルなんていつも通りの優しい花火だ。けど、リストカットをするということは何かしら理由がある。それだけは知りたいと思っている。自分の気持ちが少しずつまとまってきたところで司が話しはじめる。

「ハルちゃん。大変だったんだよね。花火ちゃんのことはさ学校の噂できいてるよ」

(皆は知っていたんだな。隠す必要なんてなかったのか)

「それでハルちゃんはどうするつもり?工藤と高嶺に話でも聞きに行くつもり?」

「ん?工藤?高嶺?聞くって何を?あの二人何か関係あるの?」

 司との話があまりにも噛み合っていないような気がしてならない。もしかすると、僕らはお互い違うことを指しているのかもしれない。

「ハルちゃんはなに考えてたの?」

「花火がリストカットしてたからなんでそんなことできるんだろうなって」

 僕の発言に司は一度考えすぐに頷きだした。司の持っている情報と何か繋がるものがあったのかもしれない。

「ハルちゃんのクラスでは、リスカをしてるっていう噂があるのか。でもさ、それ信じる?噂だけかも知れないじゃん」

 司の噂だけだと信じたい気持ちは痛いほどにわかるが僕は自分の目で見たものを否定することはできない。

「リストカットは花火本人に見せられたんだよ。リストカットを言い訳みたいに濁されてフラれたんだよ。僕はさ」

「告白したんだ。でも、なおさら納得がいくよ。たぶん、リストカットという噂は出回ってないよ」

「それはよかったんだよね」

「たぶんね。それより、そのリスカみて話聞いてあげたり、慰めたりとかしたの?フラれたのは辛いけどそれとこれとは関係ないと思うよ」

 その真っ直ぐで正しい司の言葉の矢が僕の胸にいくつも突き刺さってくる。今思えば話くらいきけばよかったと後悔している。けど、あの時の僕の精神状態はまともではなかった。はじめて女性にフラれ、その追い討ちをかけるかのようにリストカットというモノを見せられ正直怖がっていた。

 誰に?花火に?いや違う人間という闇にも光にもなりうる生き物に。

「きいてない。慰めてもない。僕は人より賢くて余裕のある大人に近い高校生だとか思ってたけど全然そんな立派な人間じゃなかった。人の気持ちすら感じ取ってやることもできず、自意識過剰に生きている人として浅い人間だったんだ。中学の頃からなにも変わらない」

 自分の心の内から湧き出る言葉たちを口にすると僕の目からは涙が流れ出してくる。一人で泣いていたあの日の夜とは違う。今は隣に友達がいてくれる。話を聞いてくれる友達が。

「ハルちゃんの言う通り何もも変わってないよ。自分を正確に見つめることができて人のためにも自分のためにも涙がでるなんてそれだけで十分じゃないか」

「けど、僕に花火は荷が重いって…」

「花火ちゃんがいってたの?」

「うん」と僕は頷いた。

「花火ちゃんがそう言うならそうかもしれないね。でも、ハルちゃんは今人として成長しようとしているんだと思うよ。僕にはそうやってもがいているように見えるよ。だから、次は荷が重いなんて言われないさ」

「根拠のない話だな」

 そういって僕は二週間ぶりに笑った。司に元気づけられる日がくるなんて思いもしなかった。いつもは、司の悩みをきいて僕が正しい方へとヒントをだしているような、人としては教えてあげてた側だったのに。

 そんなことでさえも僕のうぬぼれだったことに今気づかされる。 

 ありがとう、と心の中で呟き僕は話を変える。

「それで、花火の噂ってのはどんな話?」

「気持ち落ち着いたの?明日でもいいけど」

「もう大丈夫だよ。今すぐ教えてほしい」

司は一度頷きすぐ話はじめる。

「花火ちゃんは、中学三年の時に辛い出来事があってね、それと関係する噂で少しういていたんだ。その出来事が両親の自殺」

 自殺?確か花火の両親は事故のようなもので亡くなったときいている。自殺なんておかしい。そもそも司は誰からその事を。

「花火の両親が亡くなったこと誰から聞いたの?」

「誰って、中学の時かなり話題になったよ。情報に疎い僕でさえ知ってるんだからみんな知ってるよ。もしかしてハルちゃん初耳?」

「いや、耳にしたことはあるけど、あの噂花火のことだったのか」

 今思うと誰かの親が自殺したとかなんとかって話を皆しているときがあったな。でも、それが花火のことだとは一切知らなかった。

 当時の僕はそれだけ興味がなかったんだろう。けど、少しだけ覚えている。確かその自殺…まさか。

「曖昧な記憶だから間違ってるかもしれないけどさ、花火が両親を…」これ以上僕の口からは言葉が出てこなかった。かわりに司が話を続けた。

「花火ちゃんは両親を自殺に追いやったらしい」

 確か両親が死んだときのお金を手にするためにとかなんとか。かなりひどい話だったから僕は目を叛けていたんだ。

(花火はそんなことしないだろう。けど…)

 僕の頭には花火のリストカットの事が浮かんでくる。なぜか、花火は自殺に追いやっていないと言い切れない自分がいる。

「ハルちゃん!」

 呆然と立つ春夫に司は話しかけるが全く声が届いていないようだった。

 この時僕は一気にいろんな感情がでてきて押さえることに手一杯だった。もし、花火が両親を自殺に追いやった事が本当だとしてなぜ僕に嘘の話をしたのか。

 本当のことを言えないのならそんな話に持っていかなければよかったのに、なんでわざわざ。

そう思うといてもたってもいられなくなり気がつくと僕は走り出していた。

「ハルちゃん」

 後ろから声が聞こえたのと同時に誰かに腕を引っ張られる。

 プー!

 (えっ)

「危ねえだろ。死ぬぞ!」とトラックの運転手が怒鳴り付けてきた。

「すみません」と司が謝りその場はなんとかなった。

「なにしてんだよ。死にたいのかよ」と声をあらげている司を見て僕は正気に戻った。

 もし、司に腕を引っ張られなければ僕はここで死んでいたかもしれない。本当にそこの浅い人間だなと思い少し自分に呆れた。

「ハルちゃんは、花火ちゃんを信じてやれないの?急に走り出して。噂と花火ちゃんどっちを信じるのさ。ハルちゃんが信じないで誰が信じてやれるんだよ」

「花火を信じる…」

 自分の愚かさに気がつくときというのは思っていたよりも意外な時だった。

「花火は人の痛みを理解して判断するだけの頭と、手をさしのべてやることのできる優しさがある。本当の事は多数決で決まってるんじゃない。それに、花火が僕に両親のことを話したとき本当に寂しいそうな顔をしていたんだ。花火は花火。人の本質は噂じゃ見抜けない」

 今、僕の中で決心がついたことそれは僕の目に映ってきた花火という人間を信じ抜くこと。

「やっとハルちゃんらしくなってきたんじゃない?確かに花火ちゃんは両親を自殺に追いやるなんて事するような人じゃない。そんなの関わりのある人なら分かること」

 司の言うとおり。けど、そうなるとひとつ疑問がでてくる。なぜ、花火の友達までもその噂を信じ込んでしまったのか。花火が浮いていたということは誰も助けてくれなかったといっているようなものだ。この噂にはなにかあると僕は思い込んだ。

「けど、この真相はどうやって見つけんの?見つけるのには無理がありそうだけど」司

 は真相を明らかにして公表することで花火を助けられると考えてたのいるのだろうが、それをすると人はころっと変わり今までの花火にしてきた態度を忘れてしまう。それに今は真相を明らかにすることよりも大事なことがある。

「真相を明らかにすることよりも大事なことがあるよ」

「なに?噂を流したやつを見つけるの?」

「見つけたってなんもかわらないでしょ」

「たしかに。じゃあなに?」そういって司は首をかしげる。 

「心の支えになってあげること。両親を亡くしてただでさえ精神的にボロボロだったのにそこから友達にも誤解され追い討ちをかけられてる。女の人だからとかじゃなく、人の心はそんなに強くできていないからとっくに花火の心は限界を迎えていると思う。たとえ過去のことだとしてもそう簡単にその傷は癒えない」

「けどさ、その傷癒す事ってすごく難しくない?傷を癒す策はあるの?」

「確実とは言えないけどあるにはある」

 策というか、なんとか花火に自信をつけさせるようにする方法は思いついている。僕は親が毎日毎日遅くに帰ってくるため、辛い思いをし続けていた。

 そんな時でも僕を一人にしなかった唯一の物がある。それが本だ。本は人の心をその本の色に染めることができてしまう。もちろん、辛い時本だけに助けられた訳じゃない。一番は人の温もりを感じることだと僕は思っている。だけど、僕じゃ花火には届かない。

 人としての癒しはあたえられないが本からの癒しはあたえることができると思う。つまり、花火のために小説を書くということ。

 悲しい話の時人は泣いてしまう。面白い話の時人は笑う。そして、物語から共感するものがあるとなぜか、安心する。自分も頑張ろうと思えるようになり自信が少しだけでてくる。

 だから、僕は花火の言っていた生きる理由を題材にストーリーを書いて花火には読んでもらい、少しでも生きることに希望をもってもらいたい。

「ハルちゃんの答えを楽しみにしてるよ。ハルちゃんなら花火ちゃんの唯一の人になれるよ」

 司の顔はスッキリしていてなにかが吹っ切れたかのようだ。そして、司は僕を一度みて「頑張れ」と呟き一人帰っていった。

 さすがは司だと思う。僕の性格をかなりわかってくれているんだろう。これから僕がすぐに行動に移すと思って一人にさせてくれている。

(何度もありがとう)

 それから僕は原稿用紙を百枚ほど購入し、急いで家に帰った。家に着くとすぐに自分の部屋へいきストーリーを固めていった。花火を本で勇気づけるといっても書き手の力がないと心は動かされない。本など書いたことのない僕からすれば花火の支えになれるほどの物が書けるかというところが一番心配だ。

 けど、やってみなければなにも始まらないと思い僕はすぐに書き始めることにした。

 そしてある程度時間が経った頃下の階から声がした。

「春夫ー。晩御飯できたよ」母さんが呼んでいるのに気がつき「わかったー」と返事をした。

 人間の集中力というものは計り知れないものがある。

 書き出してから約二時間もの間一度も休憩せずに書き続けていた。一段落がつくと一気に疲れが身体にやってくる。こんな感じは今まで味わったことがない。だが、本を書くことがただ楽しいという事を知ってしまった。なにはともあれ、母さんが待ってるのですぐにしたにおりることにした。

「春夫なんかあった?」

「なんで?」

「この前まで落ち込んでるようにみえたのに今はスッキリしてる感じするからさ」

 やっぱり、親だなと思わされる瞬間だった。親は子どものことなんて全てお見通しなんだろう。そして、子どものことを一番に考えているんだろう。その親がいないというのはどれ程辛いことなのか。

 友達がいなくなっていくのはどれほど悲しいのか。くだらない噂のせいで花火の人生は壊されそうになってしまっている。そんなので花火に自殺なんかしてほしくない。もっと花火とは一緒にいたい。たとえそれを花火が拒んだとしても花火には幸せになってもらいたい。そう思う僕の気持ちはずっと変わらないのだろう。

「やることが見つかったんだよね」

「へぇ、よかったじゃん」といい母さんは微笑んだ。その笑顔は温かく僕に力をあたえてくれる。僕は数分で晩御飯をたいらげ「御馳走様」といい自分の部屋へいきすぐに続きを書きはじめる。

 次の日は運が良いことに土曜日だから学校がない。僕は二日間とおしで書き続けた。寝ることさえせずにひたすら書き続けた。眠気にはブラックコーヒーで打ち勝ち少ない気力を小説を書く楽しさでなんとか繋ぎとめた。その成果があって日曜の正午には約三分の一が終わっていた。でも、自分の書いた物に自信を持つことがどうしてもできない。

(人に読んでもらった感想がほしいよな)

 そう思い司に読んでもらおうと思ったが一番に読んでもらいたい人の姿が僕の脳裏を過った。すぐに外出する準備をし、原稿用紙をもち僕は家を飛び出した。

 家から数十分歩き目的の場所に辿り着いた。二日ぶりに外に出ると季節はすっかり夏になっていてすごく暑くなっていた。家にこもっていた僕からしたら歩くことでさえ辛かった。けど、その程度で断念するような甘い気持ちで見せたいと思った訳じゃない。

 そうまでしても読んでもらいたかった人は花火のおばあちゃんだ。

 僕が小説を書こうと思ったきっかけの人で僕にとっては人生の航路を示してくれた特別な人。やっぱり、一番は司でも花火でもなくおばあちゃんに読んでもらいたいというのが僕個人の気持ちだった。

 病院に入ると冷房がかかっており、少し寒いくらいに感じられた。 

 それから、すぐに八七一号室に向かった。花火のことが好きだとおばあちゃんに暴露した日から一度も来ていなかったからか、ドアを開けるのがものすごく緊張してしまう。だが、ドアを思いきって開けた。開けたときにノックをしていないことに僕は気がつきドアを開けてからノックをした。そんなことを書き消すかのように僕は挨拶をした。

「お久しぶりです」突然僕が現れたからおばあちゃんは驚いているように見える。

「久しぶりね、それとノックは入る前にするものよ」

 うふふと笑いながらそう話してくれた。僕は、あははと笑い誤魔化す。

 あたりを見渡してみたが花火らしき姿はなかった。今日に関して言えばそれが一番都合がいい。だから、単刀直入に話し出すことにした。

「僕は、おばあちゃんと話してみてこんなにも厚みのある人にあったのは、初めてだと思いました。人の心を動かすことのできる人に会えたからそんな人に憧れたからこそ、僕もそんな人になりたいと思いました」

「急にどうしたんだい?」僕が一気に話そうとするもんだからおばあちゃんは少し驚いていた。けど、簡潔に説明して早く読んでもらわないと花火が来てしまうかもしれない。

「それで、人の心の支えになったり、心を変えたりすることのできる仕事はなにかと思ったときに僕は小説を書こうと決めました。僕は本の中のストーリーに何回も助けられてきています。今度は僕が本で人の心の助けになりたいんです」

「そうかい。十七歳で立派じゃないか」といい微笑むおばあちゃんはいつになく落ち着いているようにみえた。まるでこうなることを見透かされていたような気にさえなってきてしまう。

「それで、三分の一ほどできたんですけどやっぱり、人に読んでもらって感想が聞きたいと思いまして」僕が少し照れながらそう言うとおばあちゃんは「是非見せておくれ」と手を差し出してくれる。 

 僕は原稿用紙をだしおばあちゃんに手渡した。原稿用紙を手にするとおばあちゃんが話し出した。

「これだけ書いて三分の一なのかい。すごい量なんだね」

「えー、まあ」

 おばあちゃんは眼鏡をかけ読み始める。人に読まれるというのはなんだかすごく緊張する。おばあちゃんが真剣に読んでいるとその表情などちょっとした変化に目がいってしまう。けど、僕に今やれることは読み終わるまでじっと待つことのみ。

「春夫くん。春夫くん」

「あっ、はい」

 誰かに名前を呼ばれあわてて返事をすると目の前に座っていたのはおばあちゃんだった。おばあちゃんが読み終わるのを待っているうちに寝てしまっていたようだ。二日間も寝ていないとじっとしていることができないと思い知る。

「ごめんね。ゆっくり寝させてあげたかったんだけど起こしちゃって」

「いえ、全然」

 そういい、机を見ると全て読み終わったように原稿用紙が綺麗におかれていた。するとおばあちゃんが話し始めた。

「春夫くん。この話はすごいかもしれないわ。読み進める度に心に語りかけられているような。一つ一つのセリフが心に染み渡る感じ、なんとも言えないわ」

 おばあちゃんの和らいだ表情を見る限り嘘偽りのないことを言っているのだと僕は確信した。それと同時に自信がわいてきた。

「ありがとうございます。次は完成したら一番に持ってきます」

 僕がそう言い残し病室を出ようとすると後ろからおばあちゃんが「ありがとうね」と呟いた。

 そのありがとうは花火のことを題材にして書いていることに気がついたからだろうか。

 読む限りわかる人にはわかるようになっていると思う。僕は一度おばあちゃんの方を振り返り「お世話になってますから」といい病室をあとにした。

 外に出ると空はオレンジ色に染まっていた。時間を確認すると病院に来てから二時間以上もたっていることに気がつく。夕焼けのなか僕は一人歩く。おばあちゃんの表情を思い出すだけで足取りがいつもより軽くなり早く続きを書きたくなる。いつも通りの帰り道でさえ僕は今書いている小説の話を考えている。この小説を書くということは花火のために始めたのに、この二日間で僕にとってはなくてはならない大切な事になってしまっていた。

 それから、約一ヶ月の時間が過ぎた頃だった。僕のペンが止まりだしてしまう。

 話の六割はできているのに残りの四割に繋げることが思っていたよりも遥かに難しい。この話を完成させるためには見つけるべき答えがある。それは、生きる意味がないとか、生きる価値がないとか、自分のことをそう思ってる人をどうやって納得させるのかまたは、どう癒すのか。なんて言ってあげればいいのか。その答えが見つからなければ話は一向に進まないだろう。

 いくら考えても考えは浮かぶことなく、ネットで調べてみてもでてくるのは誰かが残した名言集のようなものばかり。部屋にこもっていてもなにも変わらないことに気がつき僕は本屋へと足を進める。

(本屋なんて一ヶ月ぶり位だな)

 本屋につきブラブラしながら色々な本を手に取り読んでみたりする。この時間ほど僕の回復薬になるものはないとおもっている。棚にパンパンに詰められた本、そしてその匂い。ここにあるものは僕の好きなものだらけだ。どこにいるよりも本屋にいるときが一番落ち着く。そう思いながら歩いていると一冊の本が僕の目にとまった。

 タイトルは『生きることに意味も価値も必要ない。』というものだった。この本は文庫本とは、違い哲学的な本だ。棚でいうとビジネスとか心理学とかそっちの方にある少し厚めの本。僕はこれを大人本と言っているが他にいってる人を見たことがない。

 一ページめくるとそこにはこう書かれている。『生きることの意味や価値は生きた先にわかるものだ』

 若いうちに生きている意味や価値なんてものは誰しもがわからないこと。意味がないとか、価値がないとか色々思うときは誰しもあると思うが、そんなときでも意味と価値は必ず存在している。

 あなたが知らないだけであなたに引かれている人は必ずいます。

 その事に気がついていないだけです。だから、意味や価値がないから命を絶とうとするなどはしないことを勧めます。きっと、あなたを大切におもっている人がいつの日かあなたにあなたの生きる意味や価値を教えてくれます。

 今はただ一生懸命生きてみてください。

 僕はこの一ページを読みすぐにこの本を購入することにした。購入後すぐに家に帰りこの本を読みながら花火と照らし合わせ、小説のヒロインと照らし合わせ気がつくと僕のペンはまた、動き出していた。

 僕は本を通して誰に何を伝えたかったのか、果たして花火だけに伝えたくて書いていたのか。そんなことない。自分の書いた本を読んだ人全員がなにかを受け取ってもらえると嬉しい。そう思って書いている。その感情に気がついてから、この話が終わるまでにはそう長くはかからなかった。

 残りの四割と言っても原稿用紙百枚以上はあるから二週間ほどかかってしまっていた。夏休みに入ったという事もあって一日をとても長く使うことができた。だから、今日は朝から自分の書いたものの読み直しと修正を時間があればしていくようにする。

 そして、明日は病院へいきいよいよ、おばあちゃんに全てを見せる。この予定をたて僕は作業に取りかかった。今日一日かけ、修正と失くした時のためのコピーまで全て済ませた。

 翌日の昼頃に病院につき、僕の完成した小説を読んでもらうため八七一号室へむかう。僕が病室に入るとおばあちゃんは手を伸ばし原稿をくれと言うようにジェスチャーしてくれた。

 早く読みたいと言われているようですごく幸せな気持ちに溢れてしまう。僕が原稿用紙を手渡すとおばあちゃんはあることに気がついた。

「おや、この前とは紙の材質が違うね」

 本当によく気がつく人だと僕は思いながら少し笑って説明する。

「きのう、僕が読んでみて手直しをしていたら原稿用紙がぐちゃぐちゃしちゃったんで書き直したんですよ。新しい紙買いに行ったんですけど同じものがなくて。けど、内容は自信ありますよ」

「別に紙はなんでもいいわ。書いてあるのならなんだって」

 おばあちゃんは優しく笑い一度原稿用紙を机におく。

「春夫くん、しっかり寝れてるかい?顔色悪いよ」

「大丈夫です。昨日はちゃんと寝たんで」

 僕がそう言うとおばあちゃんはなにか思い詰めたような顔で僕を見つめる。

「花ちゃんの事はもういいのよ?この前花ちゃんから話はきいたわ。二人に何があったのか。詳しくね。春夫くんがここまでする必要はないのよ」

 そう言うおばあちゃんの声は震えていて今にも泣いてしまいそうだ。

 けど、僕は躊躇うことなく一言だけ言った。

「僕には僕なりの理由があります」

「どんなだい?」と首をかしげるおばあちゃんに僕は真剣に話す。

「理由は、その本のなかにあります。分かりずらかったらその本読んだあとにでも答えます。まずは読んでみてください」

 僕がそういうとおばあちゃんはうなずき原稿を手にもち読み始めた。今日は寝ることなくじっとおばあちゃんをみていた。ニヤッとしたり唾を飲み込み目が真剣になったり、泣いたりと色々な表情を見ることができた。

 そして、いつの間にかおばあちゃんは読み終わっていた。結局僕は寝てしまっていたようだ。僕が起きたことに気がつくとおばあちゃんはベットの下のシーツに手を入れる。

「なにしてるんですか?」

 僕がそう聞くとおばあちゃんは「あった」といい封筒を取り出した。

「これは?」といい僕は首をかしげる。

「これはね、花ちゃんの両親が残した遺書」

「でも、花火さんの両親は事故みたいな…」この時僕の頭のなかには二つ有り得るであろう事が浮かんでいた。

 一つは普段からいつ死んでもいいようにと遺書を残しているような人だった場合。だとしたら、両親二人とも遺書が残っているのは少しおかしいと思う。花火の親が二人とも遺書を普段から残すタイプなのかもしれないがそんな確率かなり低いだろう。つまり、二つ目が有力と言うことになる。

 二つ目は事故ではなく自殺だった場合だ。それなら、遺書があってもおかしくない、辻褄も全て合う。

「もしかして、自殺だったんですか。失礼なことを聞いてしまってすいません」

「いいのよ。あなたの言うとおり自殺よ」

 一切の間が空くこともなくおばあちゃんは答えてくれた。それでも、いつも通り冷静なままに見受けられた。

「中学の頃に噂になっていました」

「やっぱりそうだったのかい。そうなんじゃないかと思ってはいたんだけどね」といい物凄く悲しそうな表情をするなどおばあちゃんはどこか花火と似ているように見えてしまう。

「花火さんがなにか言ってたんですか?」

「ええ。お父さんとお母さんは自殺じゃなくて事故だよね。って何度も何度も聞かれたわ。今思うとその噂が花ちゃんにとっては苦痛だったんだわ。それがきっかけで自殺をしようとまで思ったんだと思うわ。私が悪いんだわ」

 おばあちゃんは言うだけのことを言い切り泣き出してしまった。

「おばあちゃんは悪くないよ」と僕が言うとおばあちゃんは首を大きく横に降りはなしだす。

「あの二人が自殺した時にたまたまキャンプファイアーをしている人がいて、皆は事故だと思い込んだらしいの。花ちゃんはその時の周りの大人が事故だと言っていたからすっかりそれを信じたわ。けど、警察の人の目は欺けないむのなのよね。自殺だとすぐに言われてね。でも、花ちゃんには事故であったと言うことにしたかったのよ。私自身なんて言ってあげたらいいのか。わからなくて」

「なぜ、花火さんの両親は自殺を?」

「保険金よ。三年以上の会員なら自殺でも保険金がおりることがあるのよ。花ちゃんのお父さんはね、仕事でのミスで会社をリストラされ多額の借金を抱えていたわ。けど、二人分の保険金があれば花ちゃんを裕福に育てられると考えて自殺を決意したわ」

「けど、お金なんか無くても花火さんは…」

「ええ。わかっていたわ。親失格なのはわかっていたんだけど、多額の借金を花ちゃんにまで背負わせたくないとお父さんの意思が固くてというより、あの二人は逃げたのよ人生から。けど、その事をちゃんと説明しておけば今頃こんなにも深い傷になることはなかったに違いないわ」

「花火さんを想った上での決断が逆に苦しめてしまっただけじゃないですか」

「逆とかはないわ、私が苦しめたのよ。謝っても謝りきれないわ。けど、あなたの本を読んで決心したわ。全て話さないと花ちゃんは前に進めないものね」

「そうですね。それに僕は苦しみを抱えていた花火さんを傷をおっていた花火さんを好きになったんですよ」

 僕がそう言うとおばあちゃんは僕の手を握り「ありがとう。ありがとう」と何度もお礼を言い続けた。

「勝手に好きになっただけですよ。お礼をされるほどの事じゃないですよ。逆に僕がお礼をしたいくらいですよ」僕がそう言うとおばあちゃんは少し明るくなり話始める。

「春夫くんの書いた小説ならきっと、花火の人生の何かにはなると思うわ」

「そうですか?」と僕は少し照れるがおばあちゃんは真剣な顔つきで僕の名前を呼ぶ。

「春夫くん」

「はい」

 僕も真剣な顔つきになり話聞く準備をする。

「花ちゃんにこの小説を渡すときにこの遺書も一緒に渡してもらいたいんだけどいいかい?」

「かまわないですけど。おばあちゃんが渡した方がいいんじゃないんですか?」

「あなたの小説を読んだあとすぐに見てもらいたいの。そう手紙に書いておくわ」

 そういいおばあちゃんはメモ用紙をとり手紙を書き出した。

「わかりました」

 そしておばちゃんが書き終わると

「なにからなにまでごめんね」と言い出した。

「いや、全然いいんですよ。それが花火さんのためになれるのなら」

 そう言うとおばあちゃんは僕を見て微笑む。

 おばあちゃんの笑顔を見てから、僕は挨拶をして病室を出ることにした。

「それじゃあ、失礼します」

「花ちゃんとこには今日いくのかい?」

「はい、早めにいくつもりです」

「そうかい。気を付けてね」

「はい」といい病室をあとにした。

 そして、一旦家に帰って少ししてから花火の家に向かうことにした。外はすっかり日が落ちていて夜になっていた。十九時頃に花火の家の近くについた。

 僕は一度コンビニによりメモ帳をちぎり自分の電話番号を書き袋の中へいれた。再開した時は花火の方から連絡先を渡してきたのにいつの間にか僕から渡すようになってるなんて人生は予想外で楽しいものだ。

 でも辛いこと方が多い、今日だってこのあと辛いことが起きるかもしれない。

(ネガティブになるな、僕)

 そう、自分を言い聞かせ僕は花火の家の前まで歩いた。コンビニからなのでほんの数分でついてしまった。蘇る嫌な記憶たちを書き消しインターフォンを押すが誰も出てこない。ポストを見てみると何もたまっていないので一応ポストはみてるようだと思い。小説と遺書をポストの中へいれる。

 用がすみ僕は一人夜道を歩く。すると正面から男女が歩いてくる。

(僕と花火もあんなときがあったんだよな。付き合ってた訳じゃないけど)

 その虚しさは僕のことを容赦なく痛め付ける。そして、正面の二人が街灯の光に照らされる。その時の僕はあり得ないものを見てしまっていた。

「あっ。春夫。お前ここで何してんの?」

「春夫…」

 正面から歩いてきていた男女は工藤と花火。思いもよらぬ状況に僕は言葉を失ってしまう。すると、痺れをきらした工藤が近寄ってくる。

「花火の家にでも行ってたのか?ストーカーか?なんとか言えって」

 工藤に胸ぐらを捕まれたとき僕の脳裏に司の言葉がよぎる。

(工藤と高嶺に話でも聞くつもり?)

 こいつが花火のリストカットにつながるやつなんだと思うと無性にイライラが止まらなくなってきた。

「君こそ、なにしてんの?」

 そういい僕が睨みかえすと工藤の拳が僕の頬を強打した。あまりの怒りに痛みすら感じない。花火はなぜ工藤には近寄っているのか、もしかしたらまた僕の早とちりで彼は花火を救ってくれているのかもしれない。考えすぎてなんか嫌になってきた。僕は立ち上がり、工藤に一言呟いた。

「ごめん。もういいや。疲れちゃったよ」といい僕は歩きだす。

「は?なんのことだよ。おい」と工藤は後ろから怒鳴り散らしてくる。

 それを花火が止める声が聞こえる。あんな短気の何がいいのか僕にはわからないが一緒にいるということはそう言うことだろう。僕だってもう成長したんだ。花火が幸せならそれでいいと思っている。たとえ、相手が工藤だったとしてもそれで。

(花火、君に残してやれるものは僕の書いた小説しかない。それが少しでも君の支えになれればいいな)

 君が生きてさえいればいいんだ。今までありがとう…。

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