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君と僕の生きる理由  作者: 心月みこと
3/8

嘘と過去と小説家

 今生きる小さな理由…。



 明日はいよいよ初登校。春夫と別れると少しだけ明日の事が心配になる。でも、このゴールデンウィーク中の春夫との思い出が私を勇気づけてくれる。

 家につくと私は誰もいない家に「ただいま」と言った。時刻は七時前。私は電気を一つもつけずに一度リビングへ行き仏壇の前に腰を下ろした。

「お父さん、お母さん。私ね明日から学校に行くことにしたよ。私の転校した高校にね、私のことをちゃんと理解してくれそうな人がいるの。まだ、私の話はそんなにしてないけどその人の話をきいてるだけで分かる。その人がいれば学校も怖くないよ。ちなみにその人春夫っていう名前なんだよ。名字は桜木、お母さんの大好きな桜だよ…おんなじだね」

 私はお父さんとお母さんにそう伝え少しだけ仏壇の前に居座ることにした。

 私の両親は二年前のゴールデンウィークに亡くなった。

 当時私は中学三年の受験生。夏からは勉強だけの毎日が待っている。そこそこ偏差値の高い高校に行きたかった私はやる気に満ち溢れていた。

 そんな私の姿をみていた両親が私の為にキャンプへ行く事を提案してくれた。私が夏休みに遊んでる暇がないと察したお父さんとお母さんが気をまわしてくれたんだろう。

 久々の家族旅行に私は大いに浮かれていた。でも、その気持ちは一日目の夜までだった。

 一日目の夜、両親は焼け死んだ。となりで騒いでいた若者たちのキャンプファイアの火が燃え移った事が原因らしい。その時私はテントからだと少し遠いところにあるトイレに行っていた。

 だから気付く事さえできなかった。それから私は激しい怒りと悲しみに呑み込まれた。

 何故気付いてた人は助けてくれなかったのか。

 そもそも気付いてすらいなかったのか。

 私が戻ってきた時周りの人はただ、火を眺めていた。

 そのくせ、火の中へ入ろうとする私を大人たちは力ずくで止める。何故止めるのかと。眺めていても火が消えることはない。ましてや両親が助かることもない。

 それからは自分に対しての怒りが込み上げてきた。何故近くにいなかったのか。そんなことを言っても仕方のないことなのは分かっている。でも、その時の私は仕方ないなんて少しも思えなかった。

 当たり前かもしれないけど、私はキャンプファイアをしてた若者達を恨んだ。周囲の人も恨んだ。自分も恨んだ。恨んだことでなにも変わらないのは知っている。

 でも、人としてそれは必然的な感情にすぎない。

 だから、私は考えた。

 人が死んで悲しいのは関わりがあるから。人と関わることでこの先辛いものが増えていくと悟った。

 私は人との関わりを自殺という言葉にのせて終わらそうと決意した。

 目の前で両親が焼け死んでいったのに生きていても楽しくなんかない。いくら時が経とうとも思い出せば辛くなる。それなら私も死んだほうがいい。当時そう思っていた私を救ってくれたのは私のおばあちゃんだった。

 私はおばあちゃんに引き取られ引っ越しをした。そしておばあちゃんの使っていた部屋まで譲ってもらった。

 おじいちゃんは私の生まれる前に亡くなっている。だから今は私との二人暮らし。でも、おばあちゃんはまた一人になる。本当はしちゃいけないのも知ってる。両親が望んでないのも知っている。何よりおばあちゃんが悲しむ。でも、自分で決めたことだからと、私は前もって買っておいた包丁を両手で握り刃を喉に近づける。怖かった。怖くて震えが止まらない。死ぬことがただ、ただ、怖い。

 けど、この先の未来に光は当たらない。生きる理由も見つからない。なら、私も死んでお父さんとお母さんのもとに行くしかない。唾を飲み込み、私は覚悟を決めた。

(さよなら、おばあちゃん、さよなら、みんな)

 その時。部屋の扉がスーっと開いた。そして、そこに立っていたのはおばあちゃんだ。

「花ちゃん」

 おばあちゃんの悲しそうな声が私の覚悟をゆるがす。でも、やめるわけにはいかない。

「ごめんね。おばあちゃんをまた一人にする形になって。でも、この先、生きてても私に光は届かないし、何一つとして楽しくないの。楽しい事だけが人生じゃないのは知ってる。けど、辛いだけの暗いだけの人生なら生きていきたくない。私は…弱いから!」

 私の目からは涙が溢れ出していた。おばあちゃんに気持ちを話したからなのか、感情が上手くコントロールできない。

 私はいつのまにか泣き崩れていた。

 そんな私をおばあちゃんは優しく包み込んでくれた。その、優しさの中には、力強さもあるような気がした。

「花ちゃんの気持ちは痛いほど分かるよ。花ちゃんはお父さんとお母さんが望まないことを知っていて決意したんだものね」

 そんな優しいおばあちゃんの言葉に私は「うん」と頷いた。声にならない分、力一杯頷いた。

「でもね、そんな包丁の一刺しや二刺しじゃ本当の意味で人は死ねないとおばあちゃんは思うの。花ちゃんの考える死ぬってことは魂を器からだすだけの作業だとおばあちゃん考えているんだよ」

 魂を出すだとか、器だとか私には難しすぎてほとんど理解ができない。

「わからないよ、そんな難しい事」

 私が呟いた一言に反応しておばあちゃんは私のあたまを撫でてくれた。私の中からは力が抜け私は包丁も床におろした。

「今の花ちゃんがやるべき事は二人の後を追うことじゃない。お父さんお母さんの残してくれたモノを大切に守っていくことよ」

「お父さんとお母さんは私に何を残してくれたの?何を大切にするの?突然死んだから、何もないじゃない」

 するとおばあちゃんはニコッと笑い優しく言った。

「花ちゃん自身だよ。お父さんとお母さんは花ちゃんを大切に育てた。そして、花ちゃんにその体を残してくれた。だから、お父さんとお母さんが大切にしてくれた花ちゃんを花ちゃん自身が傷つけちゃダメ」

 おばあちゃんの言葉の一つ一つが私の心の中に届き、とにかく泣いた。力尽きるまで泣いた。

 そのあとに何を話したのか、何をしたのかはよく覚えていない。

 でも、おばあちゃんの言葉に私は生かされた。おばあちゃん自身も子どもを亡くしてるんだ辛いに決まってる。なのに私のことを。

 その日から私の生きる理由ができた。それはおばあちゃんとの生活を楽しむこと。

 その理由はとても小さく、浅い。でも、私はおばあちゃんのいる世界だからこそ今は生きていける。

 それと鮮明に記憶に残ってることもある。それは、関わる人を最低限まで減らし、それ以外とは口を利かないようにしたこと。春夫もその内の一人だったはず。だから、春夫の言っていた口を利いてくれなくなった女の人が私かもしれない、と話を聞いてる時はかなりドキドキしていた。けど、そんなことはあり得ない。仮に私だったとしたらなんて言えばいいのかわからない。本当の自分を見つめなおすとやっぱり私なんかが春夫の人生に水を差すような真似をしちゃいけなかったのかと思ってしまう。

 私はまた仏壇に顔を向け話し出す。

「私ね、皆に隠してる事があるの。おばあちゃんにも、お父さんにも、お母さんにも誰にも言えてないこと」

 それは、私が自殺しようと思った本当の理由であり、人との関わりをやめようと思った本当の理由でもあり、高校に行っていなかった事とも深く繋がりのあること。でも、口にすることすら怖い。

「やっぱ、何でもないや…。明日からは学校も行くし、何一つ心配しないでね。あと春夫にさ、お父さんとお母さんの事とか色々話してみるよ」

 私はしっかりやっていくよ。あと少しだけ…。


★★★

 朝日の暖かい光に起こされた。いつもと何一つ変わりない。

 いや、少しだけいつもと違うことがある。今日は一緒に学校へ行く人が一人増える。

 いつもは、司と二人で学校に行っていたが今日は花火も加わわるらしい。

 なんで僕と司のとこに入ってくるんだ、とずっと思っていた。いや、過去形じゃない。ずっと思っている、の、現在進行形だ。

 同じ中学だった人だってこの高校には山程いる。この前の食事会にいた連中はほぼここの生徒だし。正直登校も一緒にいられるのは少しだけ鬱陶しい。

 まあ、若干一名喜びそうな奴もいるが。僕はため息をつきながら朝食をとり、その十五分後に家を出て集合場所の公園に向かった。家から公園までは二、三分。僕が公園に着くと司と花火はベンチに腰を掛け談笑していた。

(司のやろう。いつもは僕より遅いのに)

 僕が歩み寄ると二人は「おはよう」といい立ち上がった。僕も「おはよう」とだけいい、イヤホンを耳につけ音楽を聴きはじめる。

 司が何か僕に呟いてから歩き出した。この公園から高校までは十分足らずでつく。僕は仲良く話している二人の後ろにくっついてあるいた。勿論話の内容は丸っきりきこえてこない。

(司は好きな人と話せて幸せそうだな)

 僕はなんとも言えない初めての感情にかられている。すると司が僕を見て何か話しかけているのが伺えた。僕はイヤホンをとり「なに?」と聞き返す。

「ハルちゃん、花火ちゃんとクラス同じらしいよ。よかったじゃーん」まあ、何がいいのかは全くわからない。

 けど、花火は同じクラスなわけがない。僕のクラスには桜井なんて名字の人は一人もいない。

「桜井って名字の人はいないけど?」と否定した。すると花火が話にはいってきた。

「私、今は桜井じゃないからさ」

 司が驚いた顔をしている。僕も同じような顔だとは思うけど。まあ、無理もない。中学の頃は桜井で間違いなかったのだから。

 司は何を考えているのかわからないが、この時僕はやっぱり花火には何かあると確信した。両親の離婚か、そんなところだろうとは思いつつも考えるほど変な方向にいってしまう。

「じゃあ、今の名字は?」と司が花火にきいた。

「桜田だよ…」

(またこの顔だ)

 寂しそう。いや悲しそう?僕にはわかり得ない感情なんだろう。どことなくクールな感じもする。なんにせよ、親関係で何かあったに違いない。それと、あることに気がついた。

「そういえばさ、僕の後ろの席の人いないや」すると、司が笑いだした。

「桜木に桜田だもんね。ハルちゃんの後ろで確定じゃん」

 そんなことを話しているとあっという間に高校についた。

「じゃあね。ハルちゃん、花火ちゃん。あと、今日は俺集まりあるから先帰っててね」司にそう言われ「わかった」と僕が返事をした。

 花火も「じゃあね」と手を振っている。司はこう見えてスポーツ科だから、階が違う。まあ、スポーツといっても帰宅部にほぼ近い。

「ねえ」

 突然花火が話しかけてきた。

「なに?」

「今日の帰り、少しだけ散歩していかない?」

「何で一緒に帰る前提?」

「話したいことある」花火の目は真剣だった。だから「わかった」と言ってしまった。 

 それから花火は職員室に用があるといい職員室に向かった。

 だから僕は一人で教室に入っていった。連休明けの教室に入るとテンションが下がるところまで下がる。誰もがそうだとは思うけど。

 ただ、朝のホームルームで転校生の花火が来てからは今年一番の活気が出ていた。男子は花火をみて「かわいくね?」とか男らしい馬鹿発言で頬を赤く染めたり、女子に関しては「どんな子なんだろ」と用心深く観察していた。

 休み時間には隣なクラスからも人が来る始末だ。そんなノリが高校にいても怒りうるとは知らなかったので少し意外だった。

 チヤホヤされる花火の周囲がうるさくて、そっちに気を取られているだけで一日がかなり早く感じた。

 そして、六限目が終わり下校の時刻がやってきた。この時の僕には花火に聞きたい事がいくつかあった。大きく分けると一つになってしまうが…。

 学校での花火はこれまで僕が見てきた花火とは全く違う姿だった。誰に話し掛けられても無愛想。笑顔が花火の良いとこだと思っていたのに今日は一度も笑っていない。今思うと、朝から少し暗い感じだった。この感じは中三の時にそっくりだ。

 僕は靴を履き替えるため下駄箱へと足を進めた。花火は靴を履き替えたら校門で待てばいいと僕は思っていた。二人でいるだけでもなにかと面倒臭い事になるかもしれない。ただまぁ、それとなく着いていけばべつに違和感はないだろう。

(強いて言えば、僕がストーカーに見えるくらい?まずいな)

 僕は下駄箱に着き靴を出す。よく見ると、靴の中に紙が一枚入っていた。『土手にいる』とだけ書かれていた。まあ、花火で間違いないだろうと思い僕は土手に向かった。土手といってもどこにいるかはわからない。でも、僕と花火と土手となれば行く場所は一つしかない。

 しばらく歩き、目的の場所に着くと花火は既に座っていた。僕は花火に歩みより話しかけた。

「なんかあった?」

「とくに?」といい顔を合わせてくれない花火は分かりやすいタイプの人間だ。

「久しぶりに会ったのもここだよね。っていっても最近だけど」

「そう。中学の頃良く話をしてたのもここ。春夫と私の思い出の場所かな?」

「まあ、うん」

「ここはね、私と両親の思い出の散歩コースでもあるの」

「そうなんだー」

 花火の親が離婚とかをしてるかもって思うとなんて言えばいいのかわからなくなる。

 花火はしばらく黙り込んでいた。今日は空気が重い気がする。しばらくして花火が大きく息を吸って吐いた。

「親いないんだ、私。二人とも」

 花火のその発言に耳を疑った。離婚して片親がいないとかそういう訳じゃなく、いないって…。驚きを通り越して僕が黙り込んでいると花火は「知ってた?」ときいてきた。

「知らなかった。何かあるかもしれないとは思ってた。苗字変わったり親の話しなかったり…でも、、いないって…」

「想像なんか越えてるよね」と花火は虚しく笑った。

「私の両親は私が中三の時のゴールデンウィークに焼け死んだ。キャンプに行っててさ、家族でね。うちのテントの横でキャンプファイアしてる大学生くらいのグループがいて、その人達の火が燃え移ったらしいんだ。私はその時、少し離れたところにあるトイレに行ってたからなんもできなかった。火の中に入ることを大人に力ずくで止められて…」

 花火は一旦呼吸を整え、話を続け出した。

「笑っちゃうよね。親が大変な目にあってるのにトイレとか。それにテントの火事で死んじゃうのなんて、まぬけすぎるよ」花火はそう言って笑いだした。

 でも、まぬけだなんて、思ってもいないことを言ってることなんて顔を見れば誰でもわかる。無理に笑っていることも。とても辛かったことも。そして、今も辛いんだろう。

「無理して笑わなくていいじゃん。悲しいんでしょ、辛いんでしょ。その感情を素直に出してた方がずっと楽だよ」

「そうだよね、無理して笑っても、思ってもないことを言っても。春夫は人として賢いから簡単に見抜かれちゃうよね」

「僕が賢いかは知らない。でも、苦しい笑顔ほど惨めなモノはないと僕は思うんだ」僕がそういうと花火は何回も頷いた。

「私の両親が亡くなってから私元気無くなってさ。でもおばあちゃんと話して、いろんな言葉もらって、今はなんとかやれてるって感じなんだ」

 その発言中ですら、悲しみに満ちていて、感情必死に押し殺しているような感じだった。なぜ、花火のような素敵な人がこんなに酷い目にあうのか。神様がいるなら殴ってやりたいくらいだ。

 しばらくして、花火が少し笑顔になり話してきた。

「なんか、おばあちゃん様々だな~」

 花火にとってのおばあちゃんはとても大きな存在なんだ。

 でも、花火のおばあちゃんはどうやって花火を立ち直らせたのだろうか。両親が亡くなった女の子をここまで立ち直らせるなんて誰しもができることじゃない。一度会って話してみたい。なんて思っていると花火がまた、話し出した。

「自分の口でこのこと人に話すの初めてのなんだ。春夫に話したのはなんとなくで理由はないよ。けど、春夫といると楽しいんだ。他の誰といるよりもさ…」

 僕はなんて言えばいいのかわからない。だから黙り込むと言う楽で卑怯な手を使わせてもらった。

「重い話になってごめんね」と花火に謝られた。

「うん、いいよ」

 僕は、花火という人間が知りたくて関わりを持つことにした。今の話でなんとなく、桜田花火という人の成り立ちが少しずつわかってきた。

 辛さのどん底に手を差し伸べてくれたのはおばあちゃんで、でも、その辛さに勝った花火だって凄いんだ。僕とは一味も二味も違う。結果的に僕は花火を認めているんだ。認めるという表現じゃ上から目線にも思えるが、これは尊敬に近いものだ。

 今まで辛かった分、これからは幸せになってもらいたいと僕は心の底から思えた。そしてこの話を聞いた僕はどうしても花火に一つにお願いしたいことができた。

「これからさ、花火のおばあちゃんに会いたい。会わせてほしい」

 僕の無茶苦茶な発言に花火は驚きを隠せない状態になった。けどどうしても、花火の心を救った人と話してみたいという気持ちは強かった。

「んー、べつにいいけど少し歩くよ?」

 花火は意外と早く了承してくれた。

「全然大丈夫」

「でも、何でおばあちゃんに会いたいの?」

「花火を救った人と話してみたい。それだけじゃ理由にならない?」

 他にも理由はある。花火の腕を隠しているブレスレットの事もききたいし。でも一番の理由は今花火に言ったままだ。

 花火は「理由なる!」といい、すこし笑顔がこぼれた。

 それから僕と花火は病院に向かった。本当に今日会わせてくれるとは思っていなかったため、少しだけ緊張している。

 知りたいのはブレスレットのこと。あと、どうやって花火を救ったのか。けどそればっかりは会話から感じとるしかないか。

 でもブレスレットのことは花火の前できけるわけがない。と色々考えていると花火に「ねえ」と話しかけられた。花火をみるとかなり真剣な顔つきだった。

「なに?」

「一つお願いがあるんだけどさ、聞いてもらってもいい?」

「あー、いいよ」

 僕が花火に無理言って病院に押し掛けるようなものだ。僕にできることならなんでも力になってあげたい。それが今の僕の素直な気持ち。

「私の彼氏になって…」

「は?い?」

 花火は僕をおちょくっているのか。それとも本気で言ってるのか。けど、花火が僕の彼女と考えた時に不思議と自分の中ではしっくりきてしまう。でも、再開してから一週間も経っていないのに、気が早すぎるとも思う。僕が、イエスとノーで迷っていると。

「あっ!違う!」と花火が声をあげた。

 首をかしげる僕に花火は苦笑いを浮かべながら話し始めた。

「彼氏のフリをして。私のおばちゃんの前でだけ」

「あー、そう言うことね」



 僕はバカか。花火ほど素敵な女性は男にだってモテるはず。僕なんかに恋愛的興味は一つも無いに決まってる。 

 考え方が少し近という、ただそれだけの関係。告白されたかもと思い込んだ自分がバカみたいだ。

「あれれ?そんな残念そうな顔して…私にコクられてると思って期待しちゃった?」

 うふふと笑う花火からはさっきの真剣さはまるで無く、それに罠にはめられたような気がして少し腹が立った。

「日本語すら使えないのか、とがっかりしてただけだよ」

「へー」

 花火のニヤついた表情は僕の発言を全く信じてないという何よりの証拠だ。僕は歩くスピードを少し速めて花火を視界から消した。

「春夫、先に行くのはいいけど病院知らないでしょ?」 

「市立病院の場所くらい誰でも知ってるし、花火のおばあちゃんの居そうな病院くらい、もう検討がついてるよ」

 僕らの住んでるところの市立病院は老人ホームのサービスもあるから、お年寄りが入院するのにこれ程いい所はない。近くにもう一つ大きい病院がある。けど、あっちは重い病気をもってる人や、生死に関わる怪我をしたときに行くところだ。花火の表情をみる限りその病院にはいないだろう。僕はこの数秒でここまで推理できてしまう。まるで探偵みたいだと自分では密かに思っている。

「春夫は小説家みたいだね」花火の発言に疑問が生まれる。

「なんで小説家?推理したんだから探偵でしょ」

 つい自分の考えたことが口に出てしまった。僕の発言を聞いて花火は大きな声で笑った。

「それっぽい理屈を並べて、分かった気になってるけど正解じゃない。でも、考える早さとうぬぼれが小説家みたいってこと」

「うぬぼれって。てか、病院ちがうの?」

「うん、もう一つの方だよ。二分の一を外すような探偵誰も雇わないよー」

「一言余計なんだよ」

 花火はいつものように僕との言い合いをして楽しんでいるようだったが僕はなんて言えばいいのかわからない。だから前の話題を無理やりもってくることにした。

「そういえば、なんで彼氏のフリ?」

「ん?あー。おばあちゃんに彼氏いるって言ったことあってさ。未だに信じてないのが少し悔しいんだよね」

「いや、信じてないならいいじゃん。嘘バレてるからって張り合う必要ないでしょ」

「嘘じゃないよ。その時はいたんだよ。でも別れちゃったから」

 やっぱり花火のことを好きになる男はいる。こんな素敵な女性に惚れない人は少ないだろう。

(それはいいすぎか。実際僕も認めてるだけで好意はない)

「なるほどね。わかった。彼氏のフリするよ」

「なんで、別れたの?とかきかないの?」確かに気になる所ではある。でも興味があると思われたくないから僕は「興味ない」とだけ言った。

「素っ気ないねー」といい、沈黙したまま病院についた。病院についたのは夕方五時半頃だった。

 僕は花火についていきエスカレーターに乗った。

「何階?」

「八階」

「以外に高いんだね」僕の適当な一言に花火がいちいち食いついてくる。

「建物の中なのに八階って怖いの?」そう言って笑ってくる花火がなんだか楽しそうで僕はちょっぴり嬉しい。

「そんなことない」と僕が少し笑いなが言うと花火が僕の腕をを肘で突き、じゃれてくる。

 病棟の八階に着くとナースステーションにいる人に挨拶をして病室に向かった。

「ここだよ!」

「八七一号室って」僕は思わず笑ってしまった。

「気づくの早いね。流石はいんちき探偵」

 ここでも僕の探偵ネタを持ってくる辺りかなり気に入っているようだ。

「これって自分達で部屋決めたの?」僕がそう聞くと、花火は「違う違う」と首を横にふった。

「でも、おばあちゃんはこの号室気に入ってるよ」

「だろうね」僕がそう言うと花火はいきなりドアを二回ノックした。

「ちょっとまってよ」なんて、言ってる僕のことなんかお構いなしにドアを開ける花火。

「おばあちゃん入るよ」

「失礼します」僕も花火の後に続いて入る。

「あら、今日は花ちゃんのお友達も一緒なのね」

「いや、彼氏よ」花火はこの時、明らかにおばあちゃんから目を背けた。根っから嘘がつけないタイプなのだろうか。おばあちゃんが花火を信じないのも分からなくもない気がした。

「お兄ちゃん。お名前は?」

「あっ、遅くなってすいません。春夫といいます」

「そう。春夫くん、花火と付き合っているのはあなたで間違いないかい?」

「え?」

 花火があっさりとだが紹介したのにも関わらず僕にもきいてくるとは予想外だった。

「違うのかい?」

 戸惑う僕の横から殺気のようなものを感じる。僕が隣の花火をみると殺気は確信に変わった。僕は慌てて返事をした。

「そうです。花火さんとお付き合いさせていただいてます」僕の演技のレベルは致命的で花火のこともうかうかバカにできない。怖すぎて横を向けない。

(なんだ、この修羅場的な状況)

「そうかい。そうかい。よろしく頼みますね」

 信じた?嘘だ。あの動揺っぷりを見ても尚、僕を信じてくれた。いや、違う。僕じゃなく花火を信じたんだ。

 花火を信じているおばあちゃんに嘘をつくなんて気が引ける。でも、言ってしまったからには引けない。

 僕はおばあちゃんに「はい」とだけ返事をした。

 次に僕がするべきことは花火を病室から追い出すこと。

 作戦一。飲み物を買ってきてもらう。

「花火喉乾いた。何か買ってきて」と僕が耳打ちすると、

「はい、これ」とお茶を渡された。

「準備がいいね」

「たまたま、余ってたからあげるよ」

 作戦一が失敗に終わった。

 作戦二。水をたくさん飲ませてトイレに。いや、そんな現実味の無いことが通用する訳ない。

「なにおどおどしてるの?落ち着きなよ」

 花火にそう言われ一度深呼吸をして心を落ち着かせた。

「ごめん。緊張しちゃってさ」ハハハと笑って誤魔化す。すると、おばあちゃんが花火に話しかけた。

「花ちゃん。下のコンビニでクリームパン買ってきてくれないかい?」

「えー」花火は凄く嫌そうな顔をした。病人の頼み事だと言うのにそんなことお構いなしの仏頂面をする花火をみて僕は少し笑った。

「頼むよ~」とおばちゃんもなかなか強情だった。根気負けした花火は仕方ないと言い、席を立った。

「すぐ戻ってくるから。おばあちゃんの事よろしくね」

「わかった」僕がそう言うと花火は病室を後にした。

 そして、おばあちゃんと二人になれた。というより、おばあちゃんが僕の真意に気がついてくれたのかもしれない。なんとなくだが、おばあちゃんが花火を誘導したように思えた。

「あの、ありがとうございます」

「なんのことだい?」

 僕がそう言うとおばあちゃんは目をそらして何の事か分からないフリをしていた。花火の嘘が下手なのはおばあちゃん譲りでもあると思った。

「あの。おばあちゃんに聞いておきたい事がありまして」

 僕がそう言うとおばあちゃんは、頷き口角を少しあげた。その笑顔はとても優しくて温かいくて、歳をとった女神様をみているようだ。きっと若い頃とても綺麗な人だったんだろうと僕は勝手なイメージをしてしまった。

「春夫くんも花火を病室からだそうとしてたってことだよね?」

(僕も?ってことはおばあちゃんも?)

「はい」

「途中から気がついたけどね、あんな程度じゃ花ちゃんは動かないわね。石に魂が入ったようなモノだからね」といい笑っているがおばあちゃんのギャグはレベルが高すぎて面白いのか、そうでないのかも分からないかった。だから愛想笑いに勤しんだ。

「あの、おばあちゃんも僕に話が?」

「ええ」

 おばあちゃんの顔から笑顔は消え、真剣な顔つきに変わっていた。切り替えの早さが僕とは比べ物にならない。これが大人ってやつなのかとまた勝手なイメージをした。

「おばあちゃんの話はなんですか?」

「春夫くんから話してもらえるとありがたいな」

「じゃ、じゃあ、僕から」

 年上の人の言うことが全て正しいとは思わない。でも、おばあちゃんが僕が先に話た方がいいというならそうなんだろう。と思わされてしまう。

「単刀直入に聞きます。花火さんのつけてるブレスレットはご両親の物ですか?」僕の発言におばあちゃんは少し驚いている。

「花ちゃんは春夫くんにどこまで話たんだい?」

「両親が亡くなり、元気がなくなったけどおばあちゃんのおかげで元気が戻った。みたいな事をききました」

 おばあちゃんは急に難しい顔になりなにかを考えだした。

「上野動物園に行ったのは春夫くん?」

「はい」

「そうだったのかい」おばあちゃんがとても悲しそうな顔になっていた。僕にはその表情の意味が分からずにいた。それにしても、昨日の事をもう聞いてるなんて話が早いと思った。

「花火さん、昨日もいらしたんですね」

「どこへ?」

「病院にです」

「昨日は来ていないよ?どうしてだい?」

「あー、いや。動物園に行ったのは昨日の事なので情報が早いなと思いまして…」

「え?」おばあちゃんが目を丸くした。

「花ちゃんと動物園に行くのは昨日が初めてなのかい?」

「はい。花火さんも昨日動物園は初めてだと言ってたんですが以前にも誰かと?」

「そういうことね、偶然て恐ろしいわね」おばあちゃんはそう言って笑みを浮かべ話を続けた。

「春夫くんと昨日行ったのなら二回目になるはずよ。きっと一回目は無かったことにしてるのね」

 花火は一回目を無かったことにしたのか、その一回目で何があったのか僕はなにも知る余地が無かった。

「春夫くん。花火との動物園に行く前にどこかであったりしたかい?」

「少し前ですけど中学の頃の人達との食事会で一年ぶりくらいに」

 僕はその時の事を詳しくおばあちゃんに話した。再会した場所。僕が怒って食事会を抜け出したこと。帰り際に花火に言われたこと。すべてを話終えるとおばあちゃんは泣きそうな顔になってしまった。

「おばあちゃん?」

「春夫くん。あなたは花ちゃんのやっとできた理解者なんだ。春夫くんに一つだけ言っておくことがあるわ」

 僕は「なんですか?」ときいた

「花ちゃんにはあなたに話してない過去がある」

「話してない過去ですか?」

「そう。聞くか聞かないかは春夫くんが決めてほしい。知りたいのなら私の知ってるだけを教えるわ」

 花火が僕に話していないこと。それを聞けばブレスレットの事もわかるかもしれない。花火の事ももっとわかるかもしれない。けど…。

「きかないです」と僕は言いきった。すると「なぜだい?」とおばあちゃんは真剣な顔つきで僕を見ながらそう聞いてきた。

「花火さんから直接、言ってもらえない限り僕は聞いてもなにもしてあげられません。ただの自己満足は嫌ですから」

 すると、おばあちゃんは優しい顔つきに戻り僕をみて微笑んだ。なんとなくだが僕の緊張が溶けた瞬間だった。

「春夫くんは頭がいいわ。そして強い。春夫くんだけは花ちゃんとずっと仲良くしていてほしいわね」といい、おばあちゃんはニコニコ笑っていた。すると、丁度よく花火が帰ってきた

「おばあちゃん。クリームパン買ってきたよ」

「あら、花ちゃん早かったのね」

「急いだもん!」と二人とも笑顔で話している。すると花火が僕にも話しかけてきた。

「春夫もなんかほしいかなって思ってあんパン買ってきたよ。食べれるよね?」

 本当に花火は気が利くいい人だ。

「食べれるよ。ありがとう」

「いいえ」

 おばあちゃんと話した数分間は僕にとっては何時間にも感じられた。

 ただ、花火の事を知りたかったという僕の自己中心的な考えをおばあちゃんが変えてくれた。やっぱり、花火のおばあちゃんには人の心を動かす不思議な力があると実感できた。僕はおばあちゃんに会って、こんな人になりたいと、人の心を動かすことのできるの職に就きたいと心から思うようになった。

 それからは一時間ほど三人で談笑した。時刻は夜七時前。

「じゃあ、私達そろそろ帰るね」

 僕が花火の顔をみると病院に来た時よりスッキリとした顔立ちになっていた。

「そうね。春夫くんもいつでも来ていいからね?部屋の号室は、ハナビだから覚えやすいわよ」

「一回で覚えました」といい二人で笑った。この一時間位で花火のおばあちゃんとかなり仲良くなった。

「じゃあ、気を付けて帰るんだよ」

「うん。じゃあ、おやすみー」

「おやすみなさい」

 花火のあとに僕も挨拶をして病室を出た。

 病院を出てからは少し考え事をしていた。人の心を動かすことのできる職業はなにかと。

「ねえ?なにか、考えてるでしょ」

「えっ、あーうん」

「世界征服とか?」

「奇跡的にギャグセンスゼロだね」

「おばあちゃんのところに居たときの笑顔はどこにいっちゃったんだろうね」

 花火の表情が不機嫌そうになってることに僕は今気がついた。

「僕の事?」

「当たり前でしょ」

「元気だよ」

「笑顔。スマイル。分かる?ドゥーユーアンダァースタンドゥ?」といいながら花火が僕に詰め寄ってくる。英語の発音が微妙に違うところが妙に面白かった。

「感情入りすぎて発音が破滅的になってるよ」と僕がいい顔を見合わせて笑った。僕は花火と笑えるこの時間が一番好きかもしれない。

「花火といて楽しいよ」

 何気ない一言に花火は過剰に反応して僕を見上げた。

「遅い、遅い。今さら?」といいニコッと微笑んだ。

「僕は、人の心を動かせるような職に就きたい」

 花火は何の話?と言わんばかりの顔をしてきたけど僕の話を止めることはしなかった。それどころか、意見までくれた。

「無理じゃない?人の心は動かせるかも知れないけど春夫は先生とか向いてないと思うし、それ以外の職があれば良いけど」

 花火の最もな意見に僕も頷く。

「花火はなんならやれると思う?」

「無理」と即答された。あまりの早さに少し笑ってしまう。

「僕じゃ無理か」

「人の心を動かすことのできる職に就きたいか…」

「そう」

 花火は「んー」といいながら美術であった考える人みたいなポーズをしている。顎をさわってるとこくらいしか共通点はないが。すると、花火が「あっ!」と声をあげた。何かひらめいたのかもしれない。

「物書きは?」

「絵は昔から苦手なんだよ。それこそ無理だ」

 僕がそう言うと花火は首を横にふって「違うよ」と言った。そして話を続けた。

「本だよ。本。なんか難しいやつとかよくあるじゃん」

「でも、そう簡単に手に取ってくれるとは限らないでしょ」花火は僕にすぐ却下され、少し不貞腐れてしまった。

「あっ」

「なによ」

 僕の声に花火は退屈そうな表情で反応した

「小説だよ」

「小説書くの?春夫のしたいことと少し違くない?」

「違うどころかドンピシャ。僕は大切なことのきっかけを小説のストーリーからもらったりしてるんだ。これは、僕だけに限ったことじゃないと思う」

「確かにドラマとかでも影響されることって多いよね。こんな人になりたいって思って性格を真似てみたりとか」花火も納得している感じだ。

「となるとあとは努力あるのみ。頑張ってみるか!」といい僕は背伸びをした。

「もう書き出すの?」

「まさか。まだ先の話でしょ」

「じゃあさ、土曜日空いてる?」

「なにそれ、僕の話と関係ないじゃん。空いてるけど」

「空いてるんかい」とくだらない漫才のような事をして少し楽しんだ。

「次はどこに行きたいの?」僕の質問に「んー」と考える花火。しばらくして花火が行きたいところを喋りだした。

「次はプラネタリウム。そのあとは、水族館。あとはピクニックも捨てがたい。あっ、海は絶対行きたい」

「そんなにしたいことあるなら彼氏とか友達作ればいいじゃん」

「今は、春夫で我慢してるの。いつかイケメンを捕まえるための蓄えとして」といい僕に向かって、ベー、と舌をだしてきた。

「蓄えね、仕方ないな」と僕が適当に言うと花火がニヤニヤしている。この顔は。

「残念がるなって」と花火に背中を押された。いや叩かれた。花火がニヤニヤしてる時は自意識過剰な発言をしてくる時だ。

「花火のことは鬱陶しい位にしか思ってないよ」

「嘘だ。さっきは楽しいって言ってた。鬱陶しいとは思ってないな」とニヤニヤしてる花火。この表情もなれてくるとかわいいもんだ。まあ、少なからず気にさわるってことに違いはない。

「余計な詮索はしないでよ」

「図星か!」

「図星」僕がいつになく素直に敗けを認めたからか花火が少し黙りこんだ。でも、すぐにうふふと笑いだした。

 それから花火とは別れ、僕は一人になった。一人になると花火との事を自然と考え出してしまう。

 今日、おばあちゃんが言ってた花火は僕に隠してることがいくつあるのかはわからない。でも、そんなことは関係のないこと。花火の過去になにがあろうとも今の花火は僕にとっては初めての理解者なんだ。花火にとっても僕が理解者になれているのなら僕はそれだけでいい。

 花火と別れた後に歩く夜道はとても暗く静かな道だ。けど、花火の事を思い出すとそれだけで、この夜道をも明るく見えてしまいそうになる。僕にはまだ、この感情に名前をつける勇気はなかった。

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