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プロローグ

このたび新作を投稿いたします。

なお、こちらの作品は現在不定期更新を予定しておりますので

ご注意ください。

 そこはある世界、地球とは全く違う異世界でひとつの戦いがあった。

 魔王と呼ばれるそれはその世界において存在した王国と魔王軍と呼ばれた者たちの戦いである。魔王は多くの魔物を召喚し、世界に戦いを挑んだ。一方、王国は強大な魔王軍に対抗するため、異世界より勇者を召喚した。

 そして戦いは激戦を極め、多くの犠牲を払って王国が勝利したのであった。

 それから遙かな時が過ぎ、そこはある世界の一部分。ある一つの大陸に存在する広大な荒野があった。赤土混じりの大地が広がり、転々と岩が転がっている。そして空は厚く黒い雲が広がり、昼にもかかわらず薄暗い。そんな何もない荒野で多くの怒号が響き渡っていた。


 そこで行われているのは剣や槍を持った兵士たちと異形の者たちの死闘であった。異形の者は人の形をしているものの、それは断じて人ではない。大きさは普通の人の二倍ほどはあり、肌は緑色のゴツゴツしたまるでワニのようなものだ。腕は長くその先には鋭い五つの爪がついたの手がついており、それらを合わせて足のかかとの辺りにまで伸びている。頭には髪の毛の一本も生えておらず、そのすべてが体と同じようになっている。そして人の顔にあるべき目や鼻、口などは一切無く、その代わり顔の中心にはまるで目のような赤色の光を放つ物体があった。

 その異形の者は目の前に立ちふさがる兵士たちを邪魔だと言わんばかりにその鋭いつめで切り裂いていき、そのたびに兵士たちの断末魔の叫び声が響き渡る。だが彼らも黙ってやられるほど愚かではない。死角に入り込むとそこから切りつける者や集団で一斉に襲いかかり滅多刺しにするなどだ。また、がんばっているのは彼らだけではない。フードに身を包んだ魔法使いやその手に弓を持った弓兵なども負けていない。彼らは後方から兵士たちを支援するべく、次から次へと攻撃を放っている。しかし未だその勝敗がつくような気配はなく戦いは混沌としている。そのような死闘が行われている中、別の場所でも死闘が行われていた。


 この荒野より更に先に進むと大きなクレーター状のくぼみのような場所がある。辺りには草の一つも生えておらずゴツゴツした岩で覆われているが、ここではある二人の戦いが行われていた。


 一人は銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳の少女である。着ている服は黒を基調としたドレスだ。そしてその上から紫色のマントを羽織っている。彼女はクレーターの中心辺りで宙に浮かびながら周囲に白色のバリアのようなものを展開している。更にその周りにいくつもの魔方陣を展開し、そこから手のひらにのる程度の大きさの青白い丸い球をまるで機関銃の方に次々にある方向に狙って放っていた。


 そこにはもう一人の人物がいた。黒い髪に黒い瞳で銀色の胸当てを付けている彼は左手に装備している腕輪から発せられる青い盾状のバリアを出してその攻撃を凌いでいる。そして右手に持っている白色の粒子のようなものを纏った一振りの剣を握りしめて一気に大地を蹴った。


 銀髪の少女はそれに対して少々ばらけていた砲火を集中させて攻撃し始めた。それにより更にその弾幕の密度が上がり青白い球は彼の持っている光の盾に次々と命中する。その攻撃はまさにそれは戦場を飛び交う銃弾の嵐のように激しく容赦のないものであり、それに耐えられなくなっているのか盾には徐々にひびが入り始め今にも壊れそうな状態になった。しかし彼はそれに怯むことなく真っ直ぐに彼女に向かってただ一心不乱に走り続ける。


 まったく止まらない様子に驚いた少女は砲撃をやめると魔方陣を瞬時に別の物に変形させる。次の瞬間にはそこから同じ青白い色をしたビームのような物を複数本放った。そしてそれは真っ直ぐに彼に向かって一直線に伸びていく。今まさに彼に命中しようとしたときだ。


 彼は背中から青白い光を噴出させ一気に空中に向かって飛んだ。その動きについて行けずすべて地上に命中しそこにある土などを抉りながら爆発しあちこちに破片が飛び散る。しかし彼はそんな光景など目もくれず少女よりも高い位置に着くと剣を真っ直ぐ構える。そして背中の光を噴出させるとそこに向かって一直線に突撃した。それに対して少女は新たな魔方陣を自分の盾にするかのように展開し、その刹那には彼が持つ剣と魔方陣は衝突した。魔方陣と剣の境には青白い火花が散り、周辺はその衝突による衝撃波が吹き荒れている。


「うおおおおお!」

「はあああああ!」


 互いに声を上げながらその衝突は続くが完全に拮抗しているため勝負がつくことはない。やがて両者は反発するように正反対に勢いよく飛ばされる。だがどちらも空中ですぐに体勢を直しうまく着地する。青年は剣を構え、少女は魔方陣を展開する。


 そして再び両者が激突しようとしたときにそれは起こった。

 それは光の球。それも一つや二つではない。無数という言葉がぴったりなほどだ。それが放物線を描くように宙を飛び、そして二人に向かって落ちていく。

 その現象にどちらもが気づいた。そしてそれがどのようなものであるかもだ。

 片方は呆けた顔、もう片方は焦りの顔。


 少女は自身の足下に魔方陣を作り出す。その顔は焦っているものの、魔方陣をミスなく汲み上げていく。そんなときだ、少女は気がついた。先ほどまで戦っていた少年がその光を見て何の行動も起こさずにただただ立っている姿を。

 先ほどの戦いから少年がかなりの使い手であることが容易に分かる。ならば、向かって来ているのもどんなものかも分かっているはずである。なぜ、動かない!、と少女は思う。

 しばしの葛藤の後、少女は叫ぶ。 


「おい、そこの!」


 その声の反応して少年が少女の方を向く。その顔は困惑しているようだった。

 動かない少年に少女は再び叫ぶ。


「何を呆けておる!?早くこっちに来ぬか!死ぬつもりか!」

 

 怒気迫る声に少年は少女の元へ向かう。


「早く!この魔方陣の中へ!」


 少女に言われたとおり少年は魔方陣に入る。それを確認した少女は自身の魔力を一気に魔方陣に注ぎ込む。そして魔方陣が光り輝き二人を包み込んでいく。やがて二人を完全に光が包み込んだとき、光の球が着弾した。その地点に大きな光の球が包み込み、周囲に衝撃波をまき散らしながら爆発していく。やがて全ての爆発が消えるとそこに残っているのは多数のクレーターが出来上がった荒れ地しかなかった。


**


  時刻はすでに夜。日が落ちてから数時間が経過しており、人通りが少ない。涼しい風がのみが安らかに木々の音を立てながら吹いており、遙か向こうで救急車がならすサイレンの音が聞こえてくる。そんな街の中心には大きな川が流れており、そこを通行するための橋がいくつもかけられている。そんな橋の一つ、道路と線路が一つになった大きな橋の河川敷に人が倒れていた。

 それは銀色の胸当てを付け左手に腕輪をつけられ、そして右手に一振りの剣を握っている。

 一見コスプレ会場に参加していた人に思えるが決してそうではない。


「うっ・・・」


 少年がゆっくりと目を開ける。彼は草の匂いを鼻に感じながら首をあげて周りを見渡す。


「ここは・・・どこだ?」


 しばし周りを見渡していた少年だったが、唐突に上でなった大きな音に耳を塞ぐ。何がと思って見てみると、彼の上にあった橋ある線路に列車が通った音だった。しばし大きな音が鳴りつつけ、やがて列車は向こうに行ってしまった。少年はそれを口を半開きにした状態で見つめていたが、その表情が喜びに変わっていく。


「電車だ・・・、じゃあ帰ってこれたのか!」

 と、大きな声を上げて喜んだ。そんなときだ。

「んっ・・・」


 と近くで声がした。何だろうと思い少年はそちらの方を向くとそこにいたのは黒いドレスに紫のマントを羽織った少女だ。見覚えのあるその姿に少年は手に持っていた剣をとっさに構える。しかし少女は動く気配がない。ゆっくり近づいてみて剣の鞘で突っついてみたが反応がなかった。


「気絶しているのか・・・。それにしても僕はなんでここにいるんだ?」


 少し警戒を解き、少年は起こったことを思い出す。そして最後に強力な魔法攻撃を受けそうになったとき倒れている少女が魔方陣に入るように言ったこと。そして最後に光に包まれてから記憶が全くなかった。


「もしかしてこの子が僕を助けてくれたのか? でも何で・・・」

 敵と思っていた人に助けられたことに少年は混乱する。その時だった。

「うっ・・・痛っ」


 そんな声と共に少女はは目を覚ます。それに少年は再び警戒して剣を向ける。しかし相手は起きたばかりで状況が分かっていないためか、うつろな目で周囲を見渡す。


「うむ、ここがどこかわららぬが、成功したようじゃな」

「成功?一体どういうことだ!?」

「んっ、その声は少年か。其方も無事で良かった」


 そういう少女にますます意味が分からないと言う気持ちになる少年。一方で少女は自分に剣が向けられていると言うことがまだ分かっていないのかゆっくりした動きで体を起こして座り込む。


「打っ付け本番であったが、まぁ、余も其方も無事ならばよい」

「なんで僕を助けたんだ?」

「んーそうじゃな。気まぐれといったところかの・・・、ってそなたは命の恩人に剣を向けるような無礼者なのか?」

「えっ、あ、ごめん・・・」


 むっとした様子で叱ってくる少女に思わず少年は剣を下ろす。


「うむ、素直に謝れるのはとてもいいことだぞ。ところで少年、ここはどこじゃ?見たこともない所じゃが・・・」

「あっ、えっとここは僕が元いた世界で、日本ていうだけど・・・」

「日本・・・知らぬ土地じゃの。まぁ、どこでもすぐに転移の魔法を使えば・・・、ん?」

「どうしたんだ?」


 少女の動きがピタッと止まる。そして顎に手を当てて何やら考えている様子だった。しばし考えた後少女が口を開く。 


「すまぬが。そなた今なんと言った?」

「今?えっと日本って言う国で・・・」

「ちがう、それの前じゃ」

「前?えっと、僕が元いた世界で・・・」

「そこじゃ。元いた世界というのはどういうことじゃ」

 そういう少女の顔には汗が流れていた。明らかに様子のおかしい少女に首を傾げつつ少年は答える。

「そのままの意味だよ。僕はあの世界にあった王国に召喚されて戦わされていたんだ」

「えっ、そうなると其方はあの世界の人間でないのか? あの世界の人間でないからこの世界に転移した?」

「おい、本当にどうしたんだ?」


 さらにおかしくなった少女の様子に少年は近づく。その時だった。


「う、」

「う?」

「うわあああああああああん!」


 号泣である。先ほどまでの余裕のある少女の姿はなく、そこにあるのは目から涙を流し、人目をはばからずなく少女であった。


「待って待って、泣かないで!落ち着いて!」

「其方のせいじゃ!其方があの世界の人間じゃなかったから転移魔法が変な動きをしたに違いないのじゃ!」

「ええっ、僕のせい!?僕のせいなの!?」

「其方のせいじゃ!全部其方のせいじゃ!」

「ちょ、本当に待って!とりあえず僕のせいでいいから落ち着いて!こんな夜中に騒がれたら・・・」

「こっちから女の子の泣き声がするぞ!」


 そう言って堤防の向こう側から数人の声が聞こえ始めた。それだけでなく、遠くからパトカーのサイレンのような音も聞こえ始めた。やばい、と少年は悟った。一瞬少女を置いて逃げることを考えたが、もしあんな戦闘のような事が起これば多くの被害が出ることは間違いない。故に彼はそこを離れることが出来なかった。


(どうするどうするどうする!)


 必死に考えるが妙案が浮かばない。どのみち彼も混乱しているのでそれは無理というものであるが・・・。


「ひとさらいー!」

「ちょ、人さらいって何言ってんの!?ホントに頼むから落ち着いてくれー!」


 そんな少年の叫び声が河川敷に響き渡るであった。


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