僕がヒトの世界を捨てた日 5
心地よいまどろみの中、レザはこの意識が自分のモノだという、意味不明の感覚に目覚め上体を起こした。
小気味よく鳥類がさえずり、透き通る様な陽光が付近の窓から溢れる。それに照らし出される柔らかなシーツ。
「……寮?」
瞬時に走る眼底の奥の痛み。強烈な頭痛を基点に、レザは思考を巡らせる。
(そう、俺は旧校舎でなんかよくわからないモノを召喚したはずだ。この痛みはマナのコンディションを高める薬剤の静脈内注射のもの……気を失っていた? だとしたら!)
視線を斜め上に移し、周囲を見渡す。壁にかけられた円形の古い時計は午前8時半に差し掛かる時を指し、その日付はあの儀式を行ってから1日が経過したモノだった。
「……ッべぇ! 遅刻だァ!」
大急ぎでシェリードの制服に着替えたレザは、弾けるような身のこなしで扉の外、更に寮の外に飛び出す。
(走るだけじゃ間に合わない……こういう時に空力操作と筋力強化が使えることができればっ)
走りながらもシャツのボタンを辿々しく付けていく最中だった。
突如、レザの脚部に光の粒子が集中し、同時に身を包む円形の膜が現れだした。
「ッ!?」
驚愕の中、一歩先に足を踏み出す。すると、身体は鳥類の様に空高く飛翔した。空気抵抗も無く、宙を裂く様に跳躍したレザの眼下には、シェリードの校舎と町並みが広がる。
(──ここだッ!)
それは感覚だった。なんとなく頭の中で着地点に当たりを付けると、周囲の膜が空気抵抗を制御するかの如く振るえ出す。何度か空中で前回転を繰り返した後、レザは綺麗に校門前に着地した。旋風を巻き上げて、膝を落とし、片腕を地に付けるレザ。
「……」
身体の中で湧き上がる困惑と驚き。だが、それらを吹き飛ばすかの様なプラスの感情が、火山の様に噴き出そうとしていた。
「ぎ、ギリギリだぞレザ。早く教室へ──」
「うぅぅおおおおっっしゃアァァァーーーーーーーーーー!!」
困惑する生活指導の教員を尻目に、レザは歓喜の咆哮を挙げる。同時に足に光を集めたレザは、その直後、雷の如く俊敏でジグザグな動きをして、爆発するかの様に校舎内を駆け回りだした。
「アレが例の落ちこぼれなのか?」