僕がヒトの世界を捨てた日 3
昼食時。高い天井の学園食堂には生徒と、教師その他学園関係者が溢れ賑わいを見せる。
「横いいか?」
学生向けの安いセット定食を貪るレザの頭上横から、そう声がかかった。髪をセットし、垢抜けた雰囲気を持つ同年代の少年たちだ。狡猾な目つきをしており、気の弱いレザは萎縮しながら口を開く。
「は、はぁい」
「そうキョドんなって」
ハニカミというべきか、嘲笑というべきか。少年達はレザを囲うように席に着く。何かされるのでは無いか、そんな予測がレザの脳裏によぎり、脂汗が球のように頬を伝う。
「シケた飯食ってるな。王族直属の部隊長の息子ってのによ」
「う、うん。あと、副隊長だよ」
「でも、俺の法術士の師匠は、それよりもヤバイって言ってたぜ?」
そう言いながら、少年は自分の前に置かれた更に食具を伸ばす。プチトマトをフォークでぷすりと突き刺し、それをレザの方へ移す。
「ありがてぇだろ? お前はひょろいから、ちゃんと飯くえよ?」
周囲からギャハハと、品のない笑い声が上がる。その中心でプチトマトを眺めるリザも、苦笑いをしてその場をごまかそうとしている。
「あれが、クラノス氏の息子」
遠巻きに眺める教師二人。落胆したような、哀れんだような視線をレザとその一帯に向ける。
「事象因子の量も、質もE判定。学童期に終えるカリキュラムの基礎法術ですら赤点スレスレ。酷いときにはそれ以下。得意な法術も経歴もナシ。一体、あの人格者で実力も持ち合わせるクラノス氏から、どうしてこう、パッとしない子が生まれるかねぇ」
「止めなくて良いんですか?」
「いじめ、と?」
片方の教師が、そう問う。
「うーん。もう少しで『対抗戦』が他校と行われる。練習試合の中から実力を見定め、適切な実力の学校に生徒を移動させる、シェリードグループのイベントだな。暴行は受けていないようだし、大人が首を突っ込むものでもなかろう」
「法術士志望の学生同士の練習試合……別の学校ではどうか、それと自立のため……ですか」
「あの子には、一番必要な物だろうな」
教師は冷水を喉に一気に流し込み、プレートを持って席を立つ。
「シェリードは皆、優秀な家系で生まれた優秀な子が多い。リスク・リターンの計算は十分行えているさ」