僕がヒトの世界を捨てた日 2
「レザ=クラノス……どうして貴様は、一桁の年をした子供でもできる基礎法術が使えんのだ?」
実技授業の最中、男性教師が声を上げた。浅黒い肌の教師が吠える先には、黒髪の少年だ。下唇を噛みながら視線をそらす。反抗的なものではない。ただ、何かに呆れた様な視線をしている。そう、受け取ったのか、教師の眉間には一層深くシワが隆起した。
「お前は今何歳だ?」
「せ、先月で13歳に……なりました」
「じゃあ、なんでできん?」
「わ、わかりません。シェリード学園の風評に、ドロを塗らないように……今後も日々鍛錬しますぅ……」
「いつもそれだろう、バカバカしい。努力したフリなんて要らんぞ? お前が旧校舎でよくわからんことしているのは私の耳にも入っているが、実らないのだったらやめてしまえ。直に寝ろ。今日も遅刻しかけていただろう」
「は、はい」
ショボショボと縮こまる黒髪の少年、レザ=クラノスを指さし、周囲は笑う。レザと同じ背格好をした少年達だ。軽装をして、開けた広場で基礎法術の見直しをしている。法術士を育てるシェリード学園のカリキュラムだ。
「だっせぇなぁレザ。アレで貴族の息子か?」
「貴族じゃあないぞ。国軍の精鋭部隊の副隊長の息子か何かで、そのトーチャンも平民育ち。血は争えん。これが本来の姿だ」
「身の丈に合わないのだったら転校でもすりゃいいのにな。金ならあるんだろうし」
嘲笑と悪意のある視線、それらがレザに向けられる。尚も叱り続ける教師。奥歯を噛み締めながらも、反論をすることはできない。それが、また学内で語られる話題にもなるし、内心にも響く。家族が頭を下げる姿は見たくない。巻き込むのは面倒だし、心がしぼむ。するべきことは──我慢だ。
「レザ=クラノス、お前は何をしにココに来た?」
「……まだ、わからないです」
「じゃあ、分かることだけでも言ってみろ」
「昨日よりも、少しだけすごい僕になるため……ですか?」
教師は、そのレザの回答に鼻で笑って応えた。
「いいか、現状維持はマイナスだ。お前が一歩踏み出す踏み出さないで停滞している間、他国でお前と同じ年をした子どもたちは前に進み出している。面妖な輩は、奇術を生み出し、魔の血族は血肉を啜る。だれも、お前の世界の時間には合わせてくれないのだ」