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めいれい、あいをついほうせよ


 それは満月の日だった。部屋の椅子に座って本を読んでいたリルファに、従者であるはずのグリアフが愛を告白したのは。




「それ以上言わないで、命令よ」

 

 今にも泣きだしそうに顔を歪め、従者であるグリアフをビシリと指さすリルファ。ですがと食い下がるグリアフを視線で牽制し、がたりと席を立つ。あけ放たれた窓からは夜風が吹き込んできており、リルファの銀髪をふわりと揺らした。乱暴に立ち上がったせいで後ろに倒れた椅子がベッドにぶつかり、カツンと音がする。リルファが私としたことがと呟きながら椅子を立て直すまで、グリアフは黙ったままでいた。

 

 グリアフとリルファは、幼馴染だった。小さいころ、屋敷の前に倒れていたグリアフをリルファの父が拾ったからだ。ふたりはまるで兄弟のように、幼馴染のように育ち、そして主と従者という関係になった。

 だれかが強制したわけではない。成長しここを出て仕事を探して、そしてリルファの家に恩返しをすると言い出したグリアフを、リルファが一生懸命に止めたからだ。もうリルファには、グリアフのいない生活は考えられなかった。友達でも恋人でも従者でも何でもいい、自分のそばにいてくれと縋ったリルファに、グリアフが選んだ選択肢はひとつ。


「貴方は私の従者よ、私の言うことを聞いてちょうだい! それとも何かしら、私を裏切るつもりなの?!」


 それは一生、リルファのそばにいること。一生、彼女に尽くすこと。そして、一生、変わることのない関係であること。

 彼が選んだ人生は、リルファ直属の従者になることだった。自分のことを「リルファ様」「主様」と呼び、身の回りのことをこなし、立派に従者としてはたらくグリアフをみたリルファは幾度も後悔した。あの時、素直に思いを伝えていれば今が何か変わったのだろうか。誰かがこの家に恩を返せといったわけでもないのに彼がひとり家を出ようとしていたことを留める手立てとして、従者という選択を与えた私がはたして馬鹿だったのだろうか。あのまま家にいたところで、父親だってリルファだって誰も彼を責めなかったというのに。リルファの父が彼を救った時から、いや、リルファが彼を助けてほしいと父親に懇願したその時から、彼はこの家の一員だったというのに。


「………申し訳ありません、リルファ様。軽率な行動でした」

「……………わかったのならいいわ。部屋に下がりなさい。今日の仕事はおしまいよ」

「承知いたしました」


 グリアフが部屋から出て行ったあと、リルファは扉に背を向けたまま崩れ落ちた。ぼろぼろと零れ落ちる涙を拭うこともせず、夜風にあおられふわふわと舞っている純白のカーテンと自分の銀髪を見ても窓を閉めるわけでもなく、ただそこでぽろぽろと涙をこぼしていた。


(きっとグリアフは扉の外にいる。今大声で泣いたのなら、彼に聞かれてしまうわ)


 こんな時まで無駄なプライドが邪魔をして、嗚咽を漏らすことすら自分で自分を許せない。ただ、膨れ上がって爆発寸前の感情を押さえつける手立てとしてリルファが知っているのは、大声をあげて泣くことだけだ。自分がそれをしたところでこの場所で、怒る人はいない、グリアフ以外にリルファの泣き声を、声を聞く者はいない。ならば、いっそ、



「命令よ」



 必死に嗚咽をこらえて、窓から見える満月を見据え、肌寒い風を受けながらリルファが叫ぶ。広い屋敷の一角、ドアの外に張り付いている人でもなければ、リルファの声は聞こえない。それなのに、カタリとドアから音がした。昔からそうだ、彼は私と喧嘩をした時、私の部屋の前でずっと私を待っていた。だから今日だって、そこにいるはずだ。

 二回目の過ちを起こしていることにリルファは気が付いていた。修復しようのない溝はふたつに増えてしまう。でも、これでいい。私達は、主と従者なのだから。そこに「愛」が生まれてしまうことなんて、あってはならないことなのだから。



「愛を追放して頂戴、貴方の中から」



 途中から、こらえきれなくなって嗚咽が漏れた。その言葉は、グリアフに届いたのだろうか。

 だって、彼が私への愛を断ち切ってくれないのなら、きっと私もこのままだ。あの日から何も変わらないまま、貴方を愛し続けてしまう。あの日私とグリアフがした選択を正しいものとするために、私はこの命令を下すのよ。私たちの間に愛なんてなかった。私たちは拾い、拾われたもの。主と従者。一生変わることのないその関係を、たとえば変えられる道を閉ざすために。

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