罪深き謝罪
「師匠」
「なに?」
「………ごめんなさい」
少年は、声変わりの時期を過ぎたにもかかわらずいまだ高い声で、自らの師匠に話しかけた。
師匠と呼ばれた、少年と大して変わらない齢の少女が、硝子のペンをことりと置く。外からは春風がふわりとふきこみ、二人の服と髪を揺らしていった。
少女は体をよじり顔を少年へと向ける。この阿呆は、今日は何をしたのだろう。そう思いながら黙りこくる少年へ問いかける。
「どうしたの。お前は、私に怒られることでもしたの?」
「………はい」
「また皿でも割ったの? 勘弁して頂戴よ」
「………皿は、割っていません」
__目が、合わない。 じゃあ何をしたの。とゆっくりと問いながら、少女は椅子をくるりと回し体ごと少年の方を向いた。
「………あの、それが」
「いったいどうしたっていうの? 早く言って終わりにして頂戴。私はお前を長々と説教したくないよ」
ばつが悪そうに下を向き、歯切れ悪く何やら言葉を繰り返す少年に業を煮やした少女は、椅子から降り立つ。足音を立てて少年に近づいた少女は、自分より少しだけ高い弟子をじっとみつめた。
自らの師匠にここまでされても少年は口を割ろうとしない。自ら、少女の仕事の邪魔に入ってまで来たというのにこれはどういう体たらくだ、と少女が眉尻を下げようとしたその時、少年がぺこりと頭を下げる。
次の瞬間、少女はすべてを悟った。心臓をえぐられるような痛みに耐えながら、歓喜に震えるその体を落ち着かせながら、目の前に瞬く不幸と幸福の星を見つめることになった。少年が黙っていた理由も、謝る理由も、すべて分かった。
それは未来永劫、実を結ぶことのない虚像。脆く繋がれたからだが崩壊するのを押し留めるようにしながら、少女は少年の言葉を聞いていた。
「……ごめんなさい、師匠」
____愛してます。