クレームの雨
カフェに入ると、中は東京にあるのと同じような造りをしていた。
俺たちはウェイトレスに案内されるがまま席についた。
ようやく泣き止んだ女生徒を座らせ、俺たちは注文をした。
「それで、なんで急に泣き出したりなんかするんですか?」
すると俯いていた彼女は顔を上げ、泣き腫らした目をこちら向けた。
「それはあなたが私の錬金術を差し押さえるからじゃない。」
確かにこの世界で無能力者になるとかなり厳しいだろう。しかしさっき英梨から追加で送られてきた資料をみるとどうやらこいつの持つ能力は錬金術の他にもの魔法的能力数値MAXというものもあるらしい。
「でもあなたの能力って錬金術だけじゃないですよね?」
「そうよ。」
「なら別に大した問題じゃないんじゃ.....。」
「問題大有りよ。」
そう言うと彼女はカバンからグラフの書かれた紙を取り出し差し出してきた。
「これは?」
「これは私の能力数値をグラフ化したものよ。このグラフを見てどう思う?」
「どう思うって.......。」
俺はそのグラフとそれぞれ書かれた項目を見た。
確かに魔法系統の能力値はすべて上限までいっているがある項目に目が止まった。
それは基礎学力数値だ。そこだけグラフが存在しないのだ。
「あの.....基礎学力数値のとこだけグラフが無いのはなんでですか?」
俺は気になったので聞いてみた。
「基礎学力が皆無ってことよ。つまり私って馬鹿なのよ。比喩的な意味じゃなくて。」
知るか。
「あなたって転生する前も高校生だったんですか?」
「そうよ。ほぼ高校には行ってなかったけど。」
「あー、だから馬k....基礎学力があまり高くないんですね。」
「今馬鹿って言いかけたわよね?まあ別にいいけど。」
俺はここである疑問が浮かんだ。
「というか学校内の時と態度と口調、違いません?」
すると彼女は急に顔を赤くした。
「し、仕方ないじゃない。なんか転生前と転生後だとキャラにギャップみたいのが出来ちゃって少し変わっちゃうのよ。」
「つまり転生前はスケバン系だったけど転生後は泣き虫系清楚魔法女学生を気取りたいと?(笑)」
その瞬間、張り手が溝落ちを貫いた。
声にならない叫び声が店内を響き渡る。
「何.....するんですか。」
痛すぎるだろ。お前は前頭何枚目だ。
「あ、あなたが変な事言うからでしょうが!ていうかスケバン系ってなによ!別に普通の女子高生だったわよ。」
何気に後者は否定しないのかよ。
とりあえず俺は本題に戻すことにした。
「それでさっきの話に戻りますけど、どうして錬金術にこだわるんです?」
「それはそれはその......さっき言った通り、頭が足りない分錬金術で補ってもらうしかないの!じゃないと.....大賢者様に嫌われてしまうの。」
そう言うと彼女はまた涙目になってしまった。
「大賢者様って誰ですか?」
「大賢者様は大賢者様よ。偉大な錬金術師でこの変じゃすごく有名なのよ。もしかして知らないの?」
「知らないですけど。」
「あの人は本当に寛大な方で神父のような人なの。今日もこれから彼の講義をマンツーマンで受けに行く予定よ。」
俺は時計に目をやった。
次の仕事まで時間があまりない。ここは無理やりにでも話を切らないと。
「とにかく僕は次の仕事に行きますから。能力は諦めてください。お勘定はここに置いておきますから。」
俺は会話を切り、カフェを後にした。
なんとも後味が悪い。まあ仕事だから仕方ないんだが。闇金業者もこんな気持ちなのだろうか。
俺はそんなことを思いつつ、次の資料に目をやった。
名前 石川 信幸
能力名 空間操作、錬金術
指定した範囲内の温度、音、匂い、風、重力 を自由に操作することが出来る。
使用条件 犯罪を目的に能力を使用しない
能力によって精製禁止物質を精製しない
違反内容 女学生の下着等を風を操作し、盗撮
精製禁止物質の催眠系危険ドラッグの精製
注意事項 本人は真名を名乗っておらず主に「大賢者」という名で活動している。
俺は最後の一文に目が止まった。そしてさっきの会話がフラッシュバックした。
あの女は後で大賢者とやらのところに行くと言っていた。
これはやばいかもしれない。
俺は急いでさっきのカフェへと引き返した。
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