お前の涙にクレーム
しばらく歩いているとようやく一際目立つ都市部が見えてきた。
こう見ると俺が初めに行った村が急に田舎に感じる。
とりあえず俺は英梨に連絡することにした。
俺は時計から家の電話番号を入力し電話をかけた。
しばらくすると英梨がでた。
「もしもし、僕ですけど英梨さんですか?」
「そうだけど、さん付けしなくていいわよ、それに敬語も変だし。」
俺はそう言われ一瞬戸惑ったが従うことにした。
「そうか。じゃあ英梨、悪いんだけどパソコンから俺の時計に今日分の能力者の細かな能力の資料を送ってくれないか?」
「わかったわ、隼人。」
わざわざ名前言う必要ないと思うが。
「じゃあ、また。」
俺はそう言い、電話を切った。
街中に入り辺りを見渡すと見たことの無い装置がたくさんあった。
恐らくここの世界にある魔法で動いているのだろう。
基本的にこの世界には魔法使いと呼ばれるものが存在するがその大体が転生者だったりする。
もちろんその多くがチート持ちである。
そのような現状があるとやはりこの街でも能力のインフレは酷いものだ。
昔は神とまで崇められたほどの逸材でも今やその辺にいるレベルである。
うちの会社は基本的に願った能力を1つだけ与える方針になっている。(一部例外もあり)
そのため転生者のほとんどにチート能力が与えられるようになってしまったのである。
その結果がこの街の奇妙なほどに優秀な生徒たちなのだろう。
あれこれ考えていると目的の学校に着いた。
ここが地図にあるマリシア魔法高等学校か。
とりあえず校内に入るか。
俺が中に入ろうとした時だった。
誰かに肩を掴まれた。
俺が振り向くと警備兵らしき軍服を着た男二人が立っていた。
「あの........何でしょうか?」
肩幅おばけだな、こいつら。殴られでもしたら相当やばそうだ。怖い、怖すぎる。
「君、ここの生徒じゃないよね?少し事務所に来てもらおうか。」
まずいな。このままだと面倒なことになりそうだ。
俺は咄嗟に時計の機能について思い出した。
確かこの時計には差し押さえた能力を身につけた当人に付与する機能があったはず。それで上手くやるしかなさそうだ。
俺は警備兵二人に目を合わせた。
とりあえずここの生徒という記憶を植え付けて置くか。
すると警備兵たちは一瞬固まったがやがて顔を赤くした。
「これは申し訳ない。ここの生徒さんでしたか。どうぞお通りください。」
「どうも」
何とかなった。しかしこんな所で窃盗犯の能力が役に立つとは思わなかった。
俺は階段を登り、資料にあるクラスへと向かった。
向かう途中、俺の時計が突然震えた。どうやら英梨から資料が送られてきたようだ。
とりあえず俺はその資料に目を通した。
違反内容の詳細には劇薬の精製と書いてあった。
一体何を作り出したのだろうか。まあ何でもいいか。
俺は教室の扉を開けた。
するとなかには男性教師と生徒20名ほどがいた。
男性教師と生徒らの視線が一気にこちらへと集中した。
その中に写真で見た差し押さえ対象の人物もいた。 赤髪の女子生徒だ。
俺はそいつに向かってゆっくりと歩き出した。
ところが男性教師が俺の行く手を阻む。
「なんなんですか、あなたは。私の生徒に近寄らないでもらいたい。」
そう言うとその教師は何かを唱えてこちらに手をかざしてきた。
ところが何も起きない。
「どういう...........ことだ。なぜ私の詠唱魔法が効かない。」
なるほど。こいつも転生者なわけか。
俺はそいつに目を合わせた。
とりあえずさっきと同じような記憶を刷り込めばいいか。
男性教師は一瞬戸惑ったがすぐに我に返った。
「席に着きなさい。」
周りはザワついた。
当然だ。今ここで新たな生徒が誕生したのだから。
しかし教師はそう言うが俺はここの生徒じゃないのでね。
俺は差し押さえ対象の人間の前まできた。
「何か私に用が?」
赤髪の少女は不機嫌そうに言った。
「あなたに能力不正使用による能力権差し押さえ状が出ています。」
「は?私、不正使用なんてしてないんだけど。」
「いいえ。あなたは禁則事項に触れる劇薬を精製しましたね?」
「劇薬?ダークエリクサーのこと?あれは劇薬なんかじゃないわ。列記とした薬よ。」
あくまでも規約違反ではないと通すつもりか。
「とにかく差し押さえ状が出ている以上はそれに従うまでです。」
俺はそう言って腕時計に手を回した。
「そうはさせないわ。」
女生徒はそう言い、床に手を置き何かを唱えた。
すると周りに数体の銅像のようなものが作り出された。
「悪いけど力強くでもこの力を守らなければならないの。だから悪く思わないで。」
女生徒は俺の方を指さした。するとその銅像がこちらへと勢いよく向かってきた。
どうやら攻撃してくるらしい。
銅像のひとつが拳を後ろから振り下ろしてきたが当然能力で作り出されたもののため、俺に拳が触れた瞬間粉々になった。
続く銅像たちも俺に触れるたび粉々になっていく。
ハリーポッターでこんなシーンあったな。
女生徒はみるみる顔が落胆していく。
「どうして。どうして私のゴーレムが効かないの......。」
手っ取り早く済ませるか。
俺は時計のダイヤルを回した。すると耳鳴りのような音が響いた。
成功した印だ。
あとは満足度調査のみか。正直差し押さえた後にやりたくはないがな。
「今の生活はどうですか?」
「最悪よ。」
うずくまったまま女性徒はそう答えた。
「そうですか。じゃあ僕はこれで。」
教室を出ていこうとした時スーツの裾を掴まれた。
「返してよ。私の能力返してよぉぉ。」
そう言うと女生徒は泣きながら床をゴロゴロ転がり始めた。
なんだこいつ。さっきの強気なイメージと全然違うんだが。
周りの生徒も唖然としていた。やがてこちらに視線と言葉の矢が飛んできた。
「何なのあいつ。女の子泣かせて。最低。」
しょうがないだろ。仕事なんだから。
俺はこの場から早く立ち去りたくなった。
「もう泣き止んでください。僕もう行きますよ。」
女生徒は奇声を発してスーツを掴んで離さない。
「待ちなさいよ。私を助けなさいよ。」
「しょうがないじゃないですか。自業自得ですし。とにかくここだとあれだし、外に出ましょう。」
どうしてこうこの世界の女はすぐ泣きわめくやつらばかりなんだ。
俺は泣き止まないこいつを連れつつ、英梨に電話をかけた。
「もしもし、次の差し押さえ対象はどの辺の地域にいる......って少し静かにしててください。」
「何?またあんた女子泣かせてるの?あんたって本当に最低ね。女子の扱い方マニュアルでも買ったら?(笑)」
英梨は嘲笑うようにいった。
「またとはなんだ、またとは。それに最低って言葉も鼻につくなぁ。とにかく場所を時計に送ってくださいよ、キャリアウーマン(笑)」
最後に毒を吐いて電話を切ってやった。
俺はとにかくこの女を宥めるべく、学校を出てカフェに向かう事にした。
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