あなたにクレームを
俺は全速力で元きた道を引き返した。
あの野郎、なんてもんもってんだ。
それに能力の温度差が激しすぎるだろ。
なにか?あいつ破壊神にでもなりたいのか。
部屋の前まで着き、俺は勢いよくドアを開けた。
「おい、あんた。なんて危ないもの隠し持ってんだ。」
「え?それって私のダイナマイトボディがあなたの股間的に危ないってこと?(笑)」
俺は勢いよく、後頭部目掛けて拳を振り下ろした。
彼女はしばらくうずくまっていたが、やがて起き上がり
「何も殴る事はないでしょうがァァァ。」
と言った。
「あなたがふざけたこと抜かしてるからですよ。なにがダイナマイトボディですか。あなたはむしろ賢者の石ですよ、まったく........ってそんなことはどうでもいいんですよ。あなた、能力を不正使用しましたね?それの差し押さえ状が出てるんですよ。」
彼女は最初キョトンとしていたがやがてなにか思い出したように表情を変えた。
「二次会の時にやったあれね!」
「なんですか?二次会の時のあれって。」
「なんか一発芸でなんかやって言われた時に山に向けて1回打ってみたのよ!これがまた大ウケで凄かったんだから。」
「あなた契約書にちゃんと目を通しましたか?」
異世界転生の際に必ず署名する契約書なるものがあるのだ。そこには規約をすべて明記してある。
「あの変な紙だったらカバンの中で水筒こぼしてぐちゃぐちゃになっちゃったから捨てたわよ。」
この腐れ女が。
俺が溜息をつき終え、とりあえず仕事をすることにした。
「とりあえずあなたからその能力を差し押さえますからね。」
すると彼女はみるみる顔が真っ青になっていった。
「お願い。それだけは勘弁してー。」
彼女は涙ながらに懇願した。
「泣いても規約違反は規約違反ですから。これは覆りません。」
「お願いよ。私、それが無くなったらタイピングスピード上昇だけになっちゃうの。それだけじゃ何も出来ないのよぉぉ。」
「そんなもの自己責任ですよ。それになんでまた破壊光線なんて頼んだんですか。」
「いやその時アニメを見てて、多分それが酔っていたから頭によぎって言っちゃったの。それにこの世界でうまくいかなかったらそれで破壊の限りを尽くすつもりだったのぉぉ。」
なんちゅう危ないことほざいていんだ、こいつ。
ただ反面こいつの人生の救いようの無さにも同情の念が湧いてきてしまった。
「はぁ。とりあえず今回は見逃しますけど今後一切そのような行為はしないと約束してください。」
「わかったわ!」
彼女の顔に笑顔が戻った。
さっきの涙は何だったんだ。
「じゃあ今度こそ、僕仕事行ってきますから。事務作業お願いしますね?」
「はい!」
返事だけはハキハキしている。
しかしうちの会社も一体なにを考えてんだか。
あんな危ないの能力をあんなちゃらんぽらんに与えるなんてどうかしている。
俺は気を取り直して資料を取り出し、目を通した。
名前 浅田 茉莉
能力名 錬金術
使用条件 危険物及び麻薬などの人体影響を及ぼす物
質の精製禁止
違反内容 能力による精製禁止物質の精製
なるほど、錬金術系統の能力者か。
最近この手の能力を望む若者も多い。
その多くはこの世界の都市部にある魔法系の学校に通って飛び級することが目的だ。
だがその過程で禁忌を犯すものも多い。
故に差し押さえ状が後を絶たない。
全くもって面倒くさい。
俺は時計で位置を確認した。
ここからそう遠くない都市部の魔法学校 マリシア魔法高等学校 魔法科にいるらしい。
とりあえず向かうしかないか、仕事だし。
俺は仕方なくそこへと足を向けた。
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