クレーム対策科の俺からのクレーム
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺はしばらく黙ってしまった。
こいつ、馬鹿だ。
「ちょっと絶句しないでよぉぉぉぉ。」
すると彼女はまた涙目になった。
「なんで、異世界転生までしてタイピングスピード上昇なんですか?馬鹿なんですか?頭、豆腐なんですか?」
俺は思いついた限りの文句を言った。
「だってその時の主任に、そんなタイピングスピードで仕事が出来るんですか?(笑)って言われたんだもぉん。」
「いや、だからって異世界でタイピングスピードなんて上げたってクソの役にも立ちませんよ。」
それにしてもよくうちの会社もそれを付与したな。普通に考えて二度聞きするぞ、そんな能力。
「いや、あの時はすごく酔っ払ってたのよ。」
「また酒ですか。まずはあなたの思考レベルを上昇させたらどうなんですか?」
すると彼女は泣き崩れてしまった。
「何もあなたまでそんなに言わなくていいじゃないのぉぉ。これから私はこのタイピングスピード上昇でご飯を食べなきゃならないのよ。」
しまった。少し言いすぎたかな。
「わかりました。わかりましたから、もう泣くのやめてください。近所迷惑ですし。」
俺がそう言った途端、顔を上げ泣き腫らした顔で
「本当に?本当にこの家にしばらく泊まらせてくれるの?」
と聞いてきた。
「本当ですよ。その代わり、ちゃんと仕事手伝ってもらいますからね。」
「わかった。」
はあ。ようやく泣き止んだか。とりあえず仕事に向かわなければ。
「とりあえず僕は仕事行ってきますから。それと名前、聞いてませんでしたね。」
もう俺が質問する頃には彼女はさっきの涙が嘘のように笑って
「斉藤 英梨よ。あなたは?」
言った。
「僕は杉本 隼人です。」
俺はそう言い、ドアに手をかけた時だった。
英梨が乱れたスーツを整え、靴を履いていた。
「いや、何をやってるんですか?」
俺は思わず聞いた。
「え? だって仕事行くんでしょ?」
「いや、そうですけど・・・・あなた自宅待機ですよ?」
「は?何言ってんの。私キャリアウーマンなのよ?career womanなのよ?まさか、この私を仕事に連れていかない気?」
「無駄に発音良く言わないでください。それにあなたを連れて行ってなんの役に立つっていうんですか。」
「私優秀だから、絶対役に立つわよ。」
「異世界転生の時にタイピングスピード上昇を選択した馬鹿はどこの誰ですか?」
「馬鹿って言ったわね。このキャリアの化身の私に馬鹿って言ったわね?」
化身てなんだよ。イナズマイレブンかよ。
「いや、僕は事実を言ったまでですよ。それにその能力はデスクワークで生かせる仕事でしょ?そこにパソコンありますから、家で事務作業してください。やり方はその資料に書いてありますから。」
俺はそう言ってすぐさまドアを開けて、社宅を飛び出した。
厄介なルームメイトが出来てしまった。どんだけ図々しいんだ。あの飲んだくれ女。
とりあえず俺は鞄から次の差し押さえ対象の転生者の資料を取り出した。
次の転生者は一体どんな能力なんだが。
俺はそう思いながら、資料に目を向けた。
名前 斉藤 英梨
能力名 タイピングスピード上昇
右手から破壊光線の放出
後者の使用条件 人前での能力使用禁止及び人へ危
害を加える等の行為
違反内容 人前での能力の使用
・・・・・・・・は?
読んでいただきありがとうございました!