クレームを入れたい
僕は異世界転生派遣会社に務める普通のサラーリーマンだ。
今は主にクレームをさばく仕事をしている
基本的には「こんなはずじゃなかった」、「こんなのは聞いていない」などの幼稚なクレームばかりだがたまにはちゃんとしたクレームもある。
出来ることなら次来るクレームもちゃんとしたものであって欲しいだが......。
受話器がなった。
「お電話ありがとうございます! 私、異世界転生派遣会社の杉本と申します。今回はどういったご用件でしょうか?」
と慣れたものである。新卒の時はあたふたしたもんだが今ではマニュアル通りしっかりとこなす事ができるようになった。
「あのー、転生する際に不死身にしてくれとは言ったけど痛みまで感じるなんて聞いてないんすけどっ。」
当たり前だろそんなの。 逆になんで痛みを感じないと思ったんだよ。
「申し訳ございませんが、そちらに関してはしっかりとした契約書の同意の上での転生になられてると思います。そちらの方をしっかりと確認した上で再度ご連絡ください。それでは失礼します。」
最近はやたらと当たり前のことにクレームを入れてくる輩が増えて困る。
そのほとんどが中高生で死んだガキなんだがな。
このサービスが始まって以来転生を希望する中高生だらけだ。
しかもそのほとんどがチート能力を求め、それを使って美少女に出会えると思ってやがる。
そんなわけが無いだろ。実際は生前と何も変わらない下っ端で終わるに決まってる。
当たり前だ。これだけ転生者が多いと能力もインフレするしありふれてくる。
そこの間をくぐり抜けた連中がいわゆる勝ち組になるんだろな。
まあ俺とは無縁の世界だがな。
時計を見るともう昼飯の時間だった。
そろそろ食堂に行くか。
俺は財布を片手に食堂に向かおうとすると部長に止められた。
「社長からのお呼び出しだ。後で社長室に来なさい。」
「分かりました。」
すごく嫌な予感がする。なんだろうか。なんかやらかしたかな、俺。
不安を胸に抱えつつ俺は社長室へと向かった。
ノックをして部屋に入ると社長が大きな椅子に腰掛けていた。
「お呼びでしょうか。」
「おお、来たかね杉本君。とりあえずそこに座ってくれ。」
そういうと社長は何やら書類を引き出しからとりだした。
「これにサインして貰えるかね。」
よく見るとその書類には部署名が書いてある。
なるほど、人事異動か。
しかし問題はそこではなかった。
むしろ部署名にある。その部署は異世界にあるのである。
俺は恐る恐る切り出した。
「これはどう言った書類なんでしょうか?」
「いやね、我が社もそろそろ転生の形態を変更しようかと考えているんだよ。だから転生後の実態把握と実地調査のために君には直接異世界に転勤してもらうことなった。」
ま じ か
超下っ端の俺がわざわざ異世界に行かなきゃならないのか。まあ仕方ない。下っ端だから。
「分かりました。それでいつからですか?」
「今からだ。」
ま じ か
いくら何でも急すぎないか?どんだけ急いでんだよ。
思わず面食らっていると社長はタブレットと腕時計を取り出した。
「資料はこのタブレットと腕時計に入っている。生活必需品と衣類などはもう社宅から送ってある。今すぐ向かってくれ。」
「ちょっと急すぎませんか?まだ色々と準備が....。」
「さっき言った通り荷物はすべて送った。この他に何か準備するものでも?それに今は時間がとても惜しいほど忙しいのだ。早く向かってくれてたまえ。」
「分かりました.........。」
全く気持ち整理がつかないまま俺は指定された場所へと向かった。
確か転生方法は肉体を分子レベルまだ分解してその情報を向こうの世界に転送するだっけか?
まあなんでもいいか。もうとでもなれ。独身だし。
童貞だし。
投げやりになっていると白衣を着た男性がその部屋の前に立っていた。
「今から麻酔を投与しますので右手の袖をまくって出してください。それと麻酔の影響で少し眠くなると思われますが、落ち着いて身を任せてください。」
嫌な言い方だな。
俺は言われるがまま右手の袖をまくって出した。
注射される....なんて健康診断以来だ.....な...。意識が....。
こうして俺は異世界へと転勤を余儀なくされたのである。
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