教授の庭の怪
或る日のある記事
物理学者の稲村光臣氏変死
昨日未明、物理学者で相模原市立大学教授の稲村光臣氏(58)が自宅で変死しているのが発見された。
稲村氏の喉には、動物のものと思われる歯形がついていたという。警察関係者らの取材によると、司法解剖の結果、死因は喉の損傷による出血多量で、歯形は中型の肉食動物のものであると判明した。今後は、近辺で動物の捜索をし、近隣の住民には外出の自粛を求めているという。
稲村光臣の手記
8月5日 今日で前期最後の講義が終わった。しかしまだ自分自身の研究を進めなけ
ればならない。当分休むことはできまい。学生が羨ましく思われる。20年くらい前ならもっと研究に打ち込めたが年をとってしまってからやる気が起きない。そろそろ引退するべきだろうか。そもそも大学教授という職業はただ研究だけしていれば良いわけでない。研究者となるのも大変である。以下中略
ところで今日家に帰ってくると玄関前に大きな犬の糞があった。これは許せぬ、何か手を打たねば。
近所の小学生酒井浩二君の証言の一部
・夜に道を歩いていると後ろから何者かの足音がする。走るとついてきたが途中で気配が消えた。
・生ゴミの入っている袋が道端でまるで生きているように動いてそして破れた。低いうなり声みたいなのが聞こえた。
・猫が何もない所をみて怒ったような仕草をした。
稲村光臣の手記
8月9日 今日は研究室から二日ぶりに家に帰ってきた。我ながら熱心によくやるものだと思う。以下中略 庭の芝生が滅茶苦茶に掘り起こされていた。一体何者の仕業だろうか。明日は一日中家にいるつもりなので犯人を突き止めてやろうと思う。
8月10日 不思議なことが起こった。朝起きると昨日まで何もなかった所がまた掘り起こされている。私はずっと庭を見ていた。夕方五時頃に盛られた土の所が大いに動いていた。モグラか何かかと思いしたたかに叩いてでもやろうとスコップを掴んですっ飛んでいったがもう何もないようだった。土盛りを掘ってみると鳩の死骸が幾つか出てきた。 鳩の死骸が土を掘っていたというのか?
8月11日 昨日気味の悪い事があったので気が気でないが今日から数日外へ出ねばならない。何も無いことを祈る。
樋口さんの家の門の貼り紙の文章の引用
昨日の夜のことです。我が家の飼い犬のめめが居なくなってしまいました。めめは大人しいので自分から逃げるとこはないと思います。ちゃんと紐で繋がれていました。特徴は写真の通りです。目撃したらご一報ください。まっています。
めめの家に血痕がついていました。めめは怪我をしているかもしれません。
稲村宅近くの電柱にあった貼り紙の引用
4日前から家の猫が家に帰ってきません。家だけでなく他のご近所さんたちの猫も帰ってきていないそうです。もしこれがいたずらならとてもひどい。私たちの猫を返してください。家のは三毛猫と灰猫の二匹です。もし見かけたら以下の番号に電話ください。以下略
稲村光臣の手記
8月13日 家を空けた私がいけなかったのか?庭に半分埋まったズタズタになった犬や猫のしがいが幾つものあるのは私のせいか?警察に連絡をした。一週間ほど休みをとろう。犯人を何としても突き止めるのだ。 休みが取れた。研究者としての血がこんなことで騒ぐとは、、。
警察が来た。分かったことはこの猫や犬たちは近所の人が飼っていたものであったこと、そして人の仕業では無さそうだということである。犯人は分からない。私が見つけるのだ。きっとまた来るだろう。簡単なことだ。警察は定期的に見回りに来ると言った。
8月14日 昨日から眠れない。外を見ていたら何か気配がする。カサカサと庭の草が自分から倒れているようにみえる。朝になったら動物除けの何かしらを買いにいこう。
猫除けのマットを設置した。とげのついているやつだ。これでも来るだろうか?
マットがひとりでに動いた。私は疲れている。
8月15日 家に練馬の甥を招いた。彼も忙しくて今日しか来れないそうだが。今日だけは安心できる。
甥に疲れてますねと言われた。私は目に見えて衰弱しているようだ。甥に庭を見張るように言った。私は寝る。
8月16日 外は雨が降っている。甥は朝早くに帰った。徹夜で見張っていたが何もなかったとのことだ。やはり私は幻覚を見ていたのか。まあよかった。徹夜で見張ってくれた甥には本当に感謝している。後は家でゆっくりと庭を見ていよう。犯人が現れたら警察に連絡する。得体の知れぬものに怯える必要はない。
月がきれいで散歩をしに行った。何かにつけられている気配がして耳を澄ますと後ろから動物の、間違いなく人ではない息遣いが聞こえる。生臭い匂いが鼻をくつ。しかし何もいないし何も見えない。幻覚なんかでないようだ。確かに得体の知れぬものがいる!
8月17日 私が暑さや先日の事件のせいで気が狂っているということがないとして、私なりに昨日のことに仮説をつけた。日本には動物の伝説がある。殊に狐や狸の類が化けるというのは有名な話だ。それらは妖怪とされている。私が見たのはその類ではないだろうか?カメレオンは周りの色に合わせて色を変えるという。動物は人には聞こえない声で会話をしているという。動物にはわらわれに分からない部分が多くある。ならば人の目には見えない動物がいるとしたら。そしてそれが所謂妖怪というものではないだろうか。
読み返す度に馬鹿馬鹿しい仮説だ。しかし私はまたこの説を裏付けるような体験をした。庭を見ていたら花壇の花が潰れていくのが見えた。まるで何か四足歩行の動物に踏まれるかのようだった。私はまだ花が潰れている所に向かって石を投げた。拳大のやつだ。手応えがあってギャウというような物凄い声が聞こえた。私は直ぐ家に入った。外からこの間と同じような息遣いがきこえる。低いうなり声がす※※※※※※※※※※※たの※す※※※※※※※今もま※
※解読不能
警察関係者の話 後日談
庭にカラスが沢山集まっていましてね、稲村光臣氏は凄まじい表情で喉を噛み切られて庭に半分埋まっていました。あれは正直絶句しましたよ。家の窓が割れていましてね、中が滅茶苦茶になってるんです。稲村氏は庭まで引き摺られたんですね、生きたままで。稲村氏の家は人里離れた山の中だったからいろいろ、動物も出たんでしょうね。