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プロローグ。


 何処にでもいる平々凡々な社会人の女性である“篠宮 鈴音”は、いつも通り勤務先へと朝の街を歩いていた。


 真冬の朝はとても寒く、お気に入りの真っ白なコートでしっかりと身を包んでいる。


 そのコートは昨日やっとクリーニングから戻ってきたばかりの物だった。

 ……なぜなら、数日前に横を通ったトラックに水たまりの水飛沫を掛けられて、泥で汚れてしまったからだ。


 その時はショックで泣きたくなった物だが、幸いなことにシミが残ることなく綺麗になって戻ってきたので鈴音はとても嬉しかった。


 寒さに耐えながら歩いて駅の階段を上りきった鈴音の前から、黒いコートを身に纏った子供の頃からの友人であった“藤川 愛”が歩いてくるのが見えた。


 成長と共に疎遠となってしまった友人を、久しぶりに見た鈴音は挨拶だけでもしておこうと、近づいて来る愛へと笑顔を向ける。


「おはよう、藤川さん。 久しぶりだね。」

「……」


 しかし、愛から鈴音へと返事はないため聞こえなかったのかな、と鈴音はもう一度声を掛ける。


「えっと? 藤川さん、おは……」

「……んでよ。」


 しかし、そんな鈴音の声を遮るように愛は小さな何を呟く。


「え?」


 小さく何かを呟いた愛の言葉を聞き取ろうと疑問の声を上げながら数歩開いていた距離を詰めるように鈴音は愛へと近づいてしまった。


「何でっ、あんたに見たいにのほほんっと馬鹿みたいに、いっつも笑ってるだけのブスが私より格好いい男に愛されるのよっっっ!!

 私の方が美人だし、スタイルだって良いのにっ! 家柄だって私の方が良いしっ、お金だって有るわっ!!」


 ゆっくりと俯いていた視線を上げ、鈴音を見たかと思えば愛は鈴音の胸元を掴んで大声で喚き始めた。


「えっ、藤川さんっ! お、落ち着いてよっ!!」

「なによっ、ガリ勉で家政婦の真似事しかできない癖にっっ!! ブスの癖に私を見下してんじゃないわよっっ!!」


 まるで悪鬼のような形相で迫る愛の迫力に怯えながらも、どうにか落ち着いて貰えないかと声を掛ける鈴音の身体にどんっ、と衝撃が走った。


 突然始まった一方的な罵声の嵐に愕然としていた周囲の人間から悲鳴が上がる。

 

 愛の手によって階段の一番上から突き落とされた鈴音の身体は重力に従って落ちていく。


 状況が理解できず、目を見開いた鈴音の最後に見た光景は、唇を歪めて嗤う愛の姿だった。


 どうして、突き落とされたのか理由も理解できないまま体中に衝撃が走り、鈴音の意識は真っ暗な闇の中に落ちていったのだった……。


「あんたみたいな笑顔しか取り柄のないブスが、何で私よりもイケメンに愛されるのよ?

 ……でも、優しい私は許して上げる。 あんたを生け贄に、本当に私に相応しい世界に生まれ変わるのよ!」


 階段をゆっくりと下りて、白いコートを血に染めて横たわる鈴音を覗き込み吐き捨てる様に言葉を掛ける愛。


 人を階段の上から突き落とした愛の行動に、血を流して力なく横たわる鈴音の姿に周囲は狼狽し、救急車や警察を携帯で呼ぶ者や、目の前で起こった事件の加害者である愛を静止しようとする者を無視して、愛もまたホームへと入ってきた電車の前へとその身を投げ出すのだった。



※※※※※※※※※※



「あーあ、殺ちゃった!」


 何処までも広がる闇の中で独りの少女の愉しそうな声が響き渡る。


「あは、あの女は本当に狂っているのかな? 自分に相応しい世界は他にある? 生け贄を捧げれば他の世界に行ける? 人を殺すことが生け贄?

 あははは! 狂ってると言うよりは愚か者だねっっ!!」


 あはははっ、と真っ暗な闇の中に少女の嗤い声が響き渡る。


「あはっ、君みたいな愚かで、傲慢で、身勝手な魂が堕ちていく様は、きっと本当に面白いだろうねえ。

 ……いいよ、その願いを叶えて上げるよ。

 ただし、君に相応しい世界なのかは知らないし、君の思い通りになるとは限らないよ? すこーしだけ、僕が愉しめるようにお膳立てはして上げるけどね。」


 少女は退屈を紛らわせるオモチャで遊ぶように愚かな女の魂へと残酷な笑顔を向ける。


「……さて、君の方はどうしようかなあ?

 もともと、君はあんまり運が良く無かったみたいだねえ。 不幸と言うよりは、不運体質?

 車に泥を引っかけられる、鳥の糞は落ちてくる、君を狙った訳ではない悪戯に引っかかることは日常茶飯事……しかも、トイレへ行くと高確率でトイレットペーパーが無い、ロシアンルーレットをすれば必ず引き当ててしまう……。

 ……地味に嫌な体質だねえ。 でも、最大の不運はあんな女の知り合いだったことかなあ?」


 呆れたような、可哀想な者を見るような眼差しを向けてしまう少女。


「……いいよ、君も転生すると良い。 ちょっとした僕からの贈り物もあげるよ。……前世の記憶の中でも人に関することは思い出さないように封じてあげる。 そして、最高の幸せを掴むと良いよ。

 あの女が自分は特別な存在だと思い込んで調子に乗った頃に、最高に幸せになった君の姿を見たらどう思うかなあ……。」


 今から楽しみだよ、と最後に呟き少女は一つの世界の別々の時間軸に二つの魂を落としてしまう。


 白く輝く魂は、世界の中心にある精霊王の王城で大切に育てられている花の種へ。


 黒く濁った魂は、世界にある一つの大陸の中心にある王城にいた一人の女のお腹へ。


 少女は無事に魂が流れ着いたことを確認して、暗い闇の中へと溶けるように消えていくのだった。


 

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