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千年紀  作者: 菊池朝之助
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桜の大木

―――前回までのあらすじ


士族である忠晴は、稽古をサボって城下町へと繰り出した。

 城下へとやって来た。が、どうやら最近裕福な人が盗賊に襲われる事件が絶えないらしい。念のためにと木刀を持ってきたが、ろくに稽古もしていないから実際に役立つかは微妙だ。相手が真剣を持っていたとしたらほぼ勝ち目はないだろう。そこで、別の方法を使うことにした。

 まずは貧しい人々の住む長屋に向かった。この近くにある物置にはよく古着が捨てられているんだ。ちょうど子供が着るくらいの大きさのが置いてあったから、拝借することにした。あとは整えられた髪の毛をぐしゃぐしゃにして、泥水を頭からかぶれば、見た目は浮浪児そのものだ。これなら盗賊に襲われることもないだろう。木刀は俺の着物と一緒に隠しておこう。


 俺は町に用はない。ここから少し歩いたところに、きれいな桜の大木がある広場がある。俺はよくそこに行っていた。そこにいると心が落ちついて、嫌な事も忘れられるからだ。


 「嫌な事」というのは、ほとんど父上と母上のことだ。父上は頑固で傲慢な性格をしている。跡継ぎの俺に対して厳しく当たり、言うことを聞かないと殴りかかってくる。母上は自分勝手で見栄っ張り。世間体ばかり気にして息子の俺が常に一番優れているようにと、他家の子息を陥れることばかり考えるような人だ。

 そんな両親に反抗して、俺はわざと稽古をさぼるようになり、言葉遣いも悪くなった。両親はそんな俺に対してさらに厳しく当たった。弟を跡継ぎにすればいいと思うのに、長男というだけで未来が決められる。


「そんな掟に縛られた人生なら死んだ方がマシだ」

 そう思ってこの場所にやってくる。けど死ねない。それは死への恐怖があるからだ。結局、俺は何もできずに流されて生きている。

「せめて相談できるようなダチ公の一人でもいれば、こうして一人で悩むこともなかったろうになあ。」

 母のせいで、同年代の奴らは皆俺に近づかなくなった。話しかけると逃げられるくらいだ。


 …俺が、何をしたと言うんだ。


「友達…いないのですか?」

「ああ、せっかく仲良くなれても親が追っ払っちまうからさ。怖がられちまうんだよ」

「それは大変ですね…」

「全く、あの親どもは息子を跡継ぎのための道具か、自分を飾り立てる装飾品ぐらいにしか思ってないのさ。俺の気持ちなど考えやしない。あんな親の元に生まれてくるなんて、本当についてなかったね」

「そうですか…しかし生まれてくる場所は選べませんからねえ」

「そうだなあ…はあー」

 そう言ってお互いにため息をついた。


 あれ……お互い?


 恐る恐る桜の木の裏を覗いてみる。が、そこには誰もいない。

「こちらですよ、少年」

 頭の上から声が聞こえた。上を見ると、枝に腰かけている同じ歳くらいの少年がいた…。


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