2.
私が口を閉ざしているのを少女が察したのか
「別にいないから大変だ、とかはないわよ。いなくていいのよ、あんな奴」
彼女の過去には、母親は悪魔のような存在なのかしら、普通はあんなふうに言えないものね。
「家族はあなたひとり?」
「まあ、そうね……。ひとりはいないようなものだし」
それは、母親のことかしら
「それってお母さん?」
「違うわ」少女は不機嫌そうに返答し、話を変えるかのように私のことを聞き出した。
「あなたここの人間じゃないわね、どこから来たの?」
「私はデルツのユデアルからきた、エミルよ」
「!」
少女は言葉を出さずに驚き、哀いそうな子犬をみるような目で私を見た。
そして、真剣な眼指で
「逃げてきたのね」
と言った。
しかし、私には逃げて来たという事実はないし、以前にもそんなことはしていないから少し戸惑いを感じた。「逃げてきてはいないわ」
「そう、でも困っているんじゃない?」
「……」
私は無言のまま、小さく頷いた。
「だったら私のとこに来なさい」
少女はそういうと私の手をとり、有無をいわさず走りだした。
「ちょっと待って、早い」
少女は真剣に走っているためか後ろを向こうともせず、脱獄者を手助けする仲介のように私の手を力強く握って放そうとしなかった。
「何言ってるの?急がなきゃまずいわ」
「まずいって何が?」
「あなたがよ」
私はこの子の言っていることがまだ分からなかった……。