迷人
見知らぬ風景に、見知らぬ人達、そして、全く知らない土地、トロイメライとは似ても似つかない程の環境に彼女はいる。
『私はどこにいる?』この疑問ばかりに精神をつかい虚無感を味わっているのではなかろうか……。
「……」
言葉もでないのは、言うまでもないでしょ。この現象をどう認識すればよいのか、どう対処すればよいのか、全く検討がつかない。
「これが絶望?そんな訳ない。そうだったとしたら、私の境遇の方がよっぽど絶望してるもの」
私はそんな絶望感、いいえ、虚無感を味わいながらお世辞にも道路とは言えない道の端っこで、ぼけっと突っ立っていた。
思案していたことと言えば『もしかして私は異次元にいるのでは?』『そんな中にまぎれこんでしまったのでは?』そんな希望を望んだり、『私のアホらしい夢』『精神異常』と、わりと現実的な判断をしたりしていた。
しかし、まず考えるべきことは他だった。
「これからどうしよう……」
あてもなく彷徨って迷子になんてなりたくはないし、食料といえるものなんて何も持っていない。それに、私の話せる言語が使える保証もない。
どうしようもできないなら、いっそ動かない方がいいんじゃないかしら。
どうやらここは町かなにかのようだし、水くらいは頂けるわよね。
「ウェ〜イト」
突然、可愛らしい女性の声が聞こえた。こえた。その声が気になった私は、声がした方に顔を向けた。
すると、ライムやらリンゴやらがコロコロと転がっているのがわかったし、そのちょっと上方では、私より小さい少女が紙袋を持ちながら、必死にそれを追っていた。
決して速いスピードで転がっていたわけでははなかったけど、目一杯にパンやら果物やらを詰め込んだ紙袋を両手で持っている彼女にとっては、非常に苦しいスピードなのかしら……。 私は、そのライムとかを拾い、彼女の元へ向かった。
「ヒアユーアー」
叫んでいた言葉のおかげで、言語が使えることがわかったのは、不幸中の幸いとしかいいようがないわね。
「センキュウ」※以下日本語
「お母さんのお手伝い?」
「違うわ、お母さんはいないもの」
「そう」
私はこの言葉以外思いつかなかった。