決意の後に
「あなたが思い描く絶望の世界に行きたいですか?」
エミルは困惑した表情のまま小さく息を吸った。暗闇の中の洋灯の光がエミルの瞳を初めのころのような輝きに映し出していく
「行きます」
「私が望みを絶ってきます」
エミルは強い意志がこもったその目をらんらんと輝かせていた。
「わかりました」
私はそう一言いうとある一つの扉を思い描いた。狭き狭き扉を……。
「本当にお行きになりますか?」
私は発狂しそうなほどの感情を押し殺し、ただエミルの表情を見ることもできずに冷静に話し続けるだけだった。
「はい、私があの子にできることをしたいんです。それが私が私にできる最大の事です」
「そうですか」
私は最後まで何もできずに彼女を見送らなければならないのか、ひどく自分の無力さを感じてしまう。せめて終わりぐらいは
「貴女の選択は、貴女自身のものです。ほかの誰のものでもありません。きっとそれでいいのではないかと思います。最後に一言だけ、いってらしゃいませ、エミル様」
私は精一杯に笑顔をつくり、彼女に伝えたかった。
おこがましい私のただの言葉、彼女にはなんと聞こえているのだろう。できることならば、思い留まってもらいたい。そんな自分本位な理屈を論じたところでどうしようもないことはわかっていた。
だからこそ、辛い……。
「行ってきます」
エミルは頬を緩ませ、正直な笑みを残し扉を開いた。
洋灯の光に照らされていた闇に一片の光が生まれた。