選択の前に
エミルの体から擦り抜けるようにして、本の威圧感が感ぜられた。彼女の罪悪が空間に吸収されるかの如く渦を巻く。だんだんと存在感を増すそのそれらは、空間の不安定さを感じさせる。
洋灯も心なしか不安そうにぶるぶるとしている。全ての空間が
「どうすればいいの?」
と言ってるのかもしれない。
それら全ての不安が私を圧迫する。私は何故、彼女にこのような辛い思いをさせなければならないのだろう。 世界中に数多存在する一般的美少女では、彼女は満足できないのだろうか……。
自問自答を繰り返す度、罪悪感はつのるばかり、偽善という名の後悔が私を突き刺して、十字架に張り付けられているような気さえする。
他に術があったのではないか?と、後悔が後悔を呼び、終わりのない無限回廊の世界に迷いこんで途方にくれる。
結局、私は何がしたかったのか自分でも全くわかっていない。時間だけが刻々と秒を刻み、彼女の罪悪も無に近くなったように感じられる。私は彼女になんと声をかければいいのだろうか……。
「終わったようですね」今の私にはなんと残酷な一言だろう、
店主は張りつめた私を追い込むかの如き残酷なことを告げた。
義務ゆえの絶望与、権利ゆえの後悔、それら全てがエミルの中の本を創造した。
硝子のように弱い心、
鋼のように開かない心、
創造する力は先程の引力、引き抜く
「お帰りなさいませ」
「ここは……、そう、やっぱり夢かなにかだったのね」彼女はなにごととも言えない表情をしていた。
「いいえ、あの世界は現実です。さらに言えば過去ではありません。『未来』です」
「だってあれは過去でしょ?」
エミルは驚きを隠そうともせず、私の言分を否定した。
「いいえ、あれは間違いなく未来です。ただし、本来なら有り得ない未来、つまり正しい時間軸の未来ではないということです」
エミルは思慮深く何かを考えているのか、いっこうに口を開こうとしなかった。いや、開くことができなかったのかもしれない……。
「もしかして私のせいですか?私があの世界に行かなければ、カルッカは生きていたかもしれないんですか?私が絶望に興味がなければあんな思いをしなくてよかったんですか?」息をあらげながら彼女は、私を責める
「一概にそうとは言えませんがその可能性がないとは言えません。しかし、私達、もちろん貴女を含めてですが、私達にとってはあの世界(未来)は元々なかったものです。ですから気に病むことはありません。しかし、このことを忘れないでください」
私には重大な最後の仕事が残されていた。これは、私の義務であり、権利でもある質問……。
「それでも行きますか?」