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その断罪に異議あり!

「お前の悪辣な所業は既に皆の知る所だ。素直に白状するなら、多少は温情を与えてやっても良い!」


数人の見目の良い男性に囲まれ一人の少女が罪を認めろと責められている。


はい。ただ今乙女ゲームの華”断罪”の場面ですね。

攻略対象者達に口々に罵られ、貶められている、可憐な少女。


断罪はゲームのクライマックス。しかし、責められているのは、なぜかヒロインわたしなのである。


え…なんで?ナンデコウナッタ…?


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


《次の乙女ゲームはね、西洋風の18世紀くらいの背景で、舞台は王立の学園。

学園にいるのは貴族の子息令嬢が殆んどだけど、少数の裕福な庶民の子も通っているんだ。》


ふむふむ。


《攻略対象者は、第三王子、宰相子息である侯爵家嫡男、筆頭公爵家次男、軍務大臣伯爵家の次男、それから 国一番の商会の次期跡取り息子、の計五人》


おお、大物ばっかりだ。


《ヒロインは、田舎から来た男爵令嬢。初めは、マナーも分からず 色々やらかすけど、次第に洗練されて、やがて 攻略対象者達を次々と落として行く、ということになってるけどね》


……相棒の視線が突き刺さる…。

「だ、大丈夫。今度はちゃんと恋愛ゲームに参戦するから。…たぶん…」


《…ふーん。また、別の興味ある方に向かっちゃうんじゃないの?》


確かに乙女ゲームのヒロインだというのに、今迄参加してきたゲーム世界では、ラブラブエンドは疎か 一つの恋愛フラグすら立てて来なかった。相棒の眼差しが厳しいのも理由がある。


「えっと、今回はストーリーに沿ってちゃんとイベントこなして、フラグも立てます。…たぶん…」


《…へ〜え。ま、頑張ってみれば?》

相棒から、明らかに期待されていないのが分かる投げやりな激励を頂いた。


と、とにかく 三つめの乙女ゲームを始めよう。




今日は転校初日。

えーと…職員室に行くのに迷子になって学園内を彷徨っている時にランダムで攻略対象者の一人と遭遇するんだっけ?


彷徨ってみた、小一時間ほど。


「誰にも逢えないんだけど?」

相棒に問いかけると

《おかしいね…取り敢えず職員室に行こうか。結構時間たっちゃったし》


首を傾げつつ職員室に向かい、教師に案内されて編入する教室へ着いた。


《このクラスには攻略対象者の王子と護衛を兼ねた軍務大臣の次男がいる…はずなんだけど》


居なかった。


そもそも私が入るクラスは1組だったはずが、なぜか9組。

この学園でのクラス割は、ズバリ成績順。よって、スペックの高い攻略対象者達は、全員1組。(王子と護衛は同学年だけど、一名は一学年下、あと二名は一学年上である)


「私、編入試験の成績悪かったの?」

だから下位クラスの9組になったのかな?ちゃんと回答出来たと思ったんだけど。


《いや、そんなはず無い。ほぼ満点だったよ。うーん、どういうことだろう?学園の手違いかなぁ》

相棒も困惑している。


この学園では、上位3クラスとそれ以下の下位クラスでは、教室のある棟自体が違っていて食堂や図書館、その他の施設も其々の棟にあるので、基本上位クラスとの接触はほとんど無い。つまり 攻略対象者達と遭遇することも難しい状況だということ。


うーん、どうしよう?

主人公ヒロインレベルは、そこそこ上がってるからストーリー補正スキルを使って1組にしようか?》


「ストーリー補正スキルを使うとゲームの拘束力が強くなるんだったよね?」


《そうなるね》

それは嫌だな。イベントやフラグが立ちやすくなって鬱陶しいし。

ゲーム期間は二年間……。


「一年間9組で過ごしてみるよ。上位の成績を出し続けていれば、来年は1組に上がれると思うし。それから本格的にゲームに関わることにする」

私達の知らぬ間に勝手にゲームの設定が変わっていることに疑問を抱きつつ一年目は様子を見ることにしよう……、というのは建前で、前回の乙女ゲームの世界では 300年間働いていたのだ。一年くらいのんびりさせて欲しい、のが本音。

ヒロインがいさえすれば乙女ゲームの物語は進んで行くんだし、いい事にしよう!


と、モブの位置で傍観していたら、断罪されました。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「お前の罪は明白だ!素直に白状したらどうだ!」

軍務大臣のご次男様が剣の柄に手を置いて凄んでいる。


私の罪?

それはこの二年間、モブのポジに甘んじ ヒロインとしての職務を放棄していた怠慢だろうか?

言いわけさせてもらえるなら、私だってずうっとヒロイン稼業をさぼっていたわけでは無い。

一年目は、攻略対象者達との接触はほとんど出来なかったが、二年目はクラスも1組になり、それなりに乙女ゲームに参戦したのだ。

しかしその時には既に逆ハーが形成されていた。悪役令嬢によって。


《悪役令嬢は、転生者イレギュラーだね。どうりでずい分ストーリーが、変わってたわけだ》


転生者イレギュラー

ゲームのストーリーを知る者。


転生者は そう珍しい存在ではない、と相棒は言う。

ゲームを傍観する者、運命を改変しようとする者などタイプは色々居るようだが。

《彼女は、かなり積極的にゲームに関わりたいタイプのようだね》


悪役令嬢樣は王子の婚約者で侯爵令嬢。父は宰相様で兄は攻略対象者。

彼女は、本来ヒロインが為すべきイベントをこなし、フラグを立てまくり逆ハーを築いていた。(ただし、私ではイベントを起こしても逆ハーは、無理だったと思う)

はっきり言って、彼女が私の代わりにヒロインを勤めようが、逆ハーしようが構わない。むしろ、やぁ 私の代わりに悪いね、お疲れさん。な気持ちである。

この茶番劇だんざいが無かったならね。

この断罪はゲームの強制力が働いているわけでは無い。

100%彼女が仕組んだ事だ。

…なぜ、わざわざ波風を立てようとするのか。


「おい!貴様、聞いているのか!」

攻略対象者様方がたいそうお怒りだ。

「今更シラを切ろうというのですか?」

「下級貴族は図々しくて、礼儀知らずだな」

「恥を知らない……」


やかましいわ!転生者に踊らされおって、阿呆共が!と怒鳴りたいのを抑えて弱々しく、上目遣いで聞いてみる。

「私が一体何をしたというのですか?どうぞ お教え下さいませ」


「お前は、僕の婚約者であるロザリアに対し数々の危害を加えたであろう?ドレスを切り裂いたり、教科書を破損したり、挙句 階段から突き落とし殺害を企てたな?」

いやいやいや、一個もしてませんがな。


私が身に覚えの無い罪を糾弾されている間、悪役令嬢は扇子でニンマリしている口元を隠しているけど、目元が面白そうに緩んでいるのがバレバレだ。


「未来の王子妃に対して殺害を企てるなど、重罪である。よって処刑を言い渡す!」


処刑?!

あまりの刑の重さに思わず膝を付き驚愕している私を 悪役令嬢は、最早隠す気もなく満足気に微笑んで見ている。


ふざけんな!冤罪で処刑されてたまるか!

逆ハーとかは、別にいい。断罪も百歩譲って許してやってもいい。

けれども処刑は私を殺すという事。

彼女は分かっているのだろうか?他人の命を奪うということを、しかも何の咎も無いのに?


許さない!あなたがそうするなら、私だって大人しく断罪されてやるもんか!


「お待ち下さい!どうか私の話をお聞きください。私には一切身に覚えの無い事でございます!」

私は目に涙を湛えて、必死に訴えた。


秘技!ヒロインスキル” 魅了”!


忽ち、攻略対象者達の表情が変わった。

よっしゃー!このまま無罪を勝ち取るぞ!


「私は、自分の身の程を弁えております。ロザリア様は私などがお側に寄る事も憚るような貴いお方です。いつも遠くからお美しいお姿を拝見させて頂くのが精いっぱいでございました。そんな私には、ロザリア様に触れるなどと恐れ多い事はできません。どうか、私を信じて下さいませ。私は何一つ罪を犯したりしておりません」

そして、さっき堪えた涙を一雫頬にこぼして 真摯な眼差しで王子様を見つめた。


「…貴女がそう言うのなら…もう一度調べ直してみましょう。あなたは、そんな卑劣なことをする令嬢には見えない」

頬を薄っすら桃色に染めた王子が跪いている私に手を差しのべそっと立たせてくれた。


「そうだな。貴女がロザリアに危害を加える理由がない」

「もしかしたらロザリアの思い違いかもしれない」

「…貴女を信じる…」

さっき迄、お前や貴様呼びされていたんだけど。”魅了”強力な術だな。


「え?ちょ、ちょっとお待ちくださいませ。私は確かにその方に嫌がらせを受けておりましたのよ!」

突然の方向転換に慌てた悪役令嬢が訴えるが攻略対象者達の対応は冷たい。


「ロザリアの勘違いじゃないか?」

「君はあちこちに敵を作るからな」

「結構恨みを買ってそうだよね」


焦った悪役令嬢はさらに言い募る。

「本当ですわ!その方に階段から突き落とされたんですのよ!」


ほほう。まだ言うか。

ここで勘違いでしたー、てことで済ますなら許してやろうと思ったんだけど。

そっちがその気なら最後までやってやろうじゃない!


「ロザリア様、なぜそんなに私を処刑させようとなさるのですか?あっ…もしかして…あの方のことが…?」

私はうっかり喋っちゃいました、という風に装った。


「え?あ、貴女何をおっしゃっているの?」


「先週の王都での市の時、背の高い男性と楽しそうに歩いていらっしゃいましたよね。私と目が合ったら、厳しい目で睨まれましたが。私誰にも話していませんでしたのに」


「ロザリア、どういうことだ?」

地を這うようなお声で尋ねる王子様。

「え…あの、あの…わ、私身に覚えございませんわ」

必死で否定する悪役令嬢様。

突然こんなことをバラされ、しかも事実だから目が泳いでいる。


「先月の第一日曜日もお二人がご一緒の所を遠くからおみかけしましたし。それ以前も何度か。あの方は、キュバイト商会の方なんですね。お店の店員に指示しているのを見たことがあります」

私は更にダメ押し。


「キュバイト商会だと?!」

「間違いないのか?!」

鋭い問いかけに驚いて、戸惑いながらも肯定する私。(もちろん演技だ)


キュバイト商会は 関係が微妙な隣国の密偵宿、という設定がある。

そんな商会の関係者と宰相のご令嬢が親しいなんて、色々不味いよね。

実はこの人物、隠しキャラなんだな。

悪役令嬢様は、逆ハーの完全制覇を目指したんだろうけど、自分の立場を考えたら接触しちゃいかん人物でしょう。


「衛兵、ロザリアを王宮に連れて行け。我々も直ぐに向かう」


私を連行するはずだった衛兵に連れて行かれる悪役令嬢様は

「どうして…?何で私が、連行されるの…?」

呆然とした顔で呟く。


「貴女には、可笑しな言い掛かりをして迷惑をかけてしまった。お詫びに今度王宮に招待したいのだが?」

そう王子様が誘って下さったが、勿論お断りだ。

「とても光栄なことでございます。ですが私、婚礼のために明日には学園を辞めて、故郷に帰ることになっております。ですからどうぞ私の事などお気になさらずに」


「そうか…結婚するのか。おめでとう。だが、貴女とお別れするのは残念だな。もう少し早く出会いたかったものだ」

と言って下さるが、居たよ。同じクラスに。どんだけ周りが見えてなかったんだ。


こうして、私は学園からフェードアウト。


《お疲れ様。じゃ、この乙女ゲームから離脱しようか》

「待って、最後に会いたい人がいるの」


《彼女だね。彼女は王宮の貴族用の牢で処罰が決まるまで幽閉されているよ》


私は相棒の力を借りて悪役令嬢様のところへ転移した。


牢の中は質素ではあるがソファーとテーブル、ベット、そして机もあった。

そこに飾りのない赤いシンプルなドレスを身に纏った女性が俯いて椅子に座っていた。


「こんにちわ」

声をかけてみる。


「…!…貴女!…あんたの所為でこんな事に…!」

悪役令嬢様は鬼の様な表情で私を詰る。けど、

「自業自得」


「あんたも転生者なんでしょう?どうして私の邪魔をするのよ?」

「邪魔って…あなたねぇ。なら私に処刑されてしまえと?」

「……」

「はぁ…ほんとに何がしたかったの?わざわざ断罪イベントまでやらかして」

「だって…断罪イベントが起きないと隠しキャラを逆ハーレムに入れられないんだもの…」

「はあ?王子様と婚約していながら、その学友達を取り巻きにしといて 更に敵国の密偵を逆ハーメンバーに加えようとしたの?そんなの無理に決まってるじゃないの!現実を見なさいよ。自分の立場を考えなさい!」


「ここは、乙女ゲームの世界よ。そして私はゲームの知識を持ってるの」

「だから、好き勝手にストーリーをねじ曲げたの?」


「記憶を取り戻して自分が悪役令嬢だと知った時の衝撃、あんたにわかる?待っているのは破滅なのよ?だから、そんな運命に逆らおうとしたのよ!それが悪いというの?」


「破滅を逃れるためね。なら、一人を選んでその攻略対象と絆を育めば 良かったんじゃないの?なぜわざわざ逆ハールートにするのよ」

私はため息をついた。


「これは乙女ゲームでしょ? 」


「今この場は確かに乙女ゲームの一部だけど、あなたにとってこの世界は現実よ」


「それなら あんたも同じでしょう?」


「違うわよ。私は契約でこの世界のヒロインを引き受けただけ。ヒロインとして物語を進める役目があった。物語が終わればこの世界から去って行くの。私にとってはココはゲームの世界なの。

でもあなたには紛れもなく現実。これから密偵さんとの関係を調べられるんだろうけど、何て言うつもり?まさか逆ハーレムのためですなんて言えないわよね、王子の婚約者様が」

「!………」


やっと、今後の事に気が付き、愕然とする悪役令嬢様に私は、ニッコリ微笑み別れを告げる。


「この世界げんじつで最後まで頑張ってね。じゃあね」


そして、彼女の前から消え去った。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜


ーーー反省と考察ーーー


「ヒロインスキルの魅了は、結構強力なのね。あれを使えば、ラブラブエンドも楽勝かなぁ?」


《多用はお勧めしない。強力な分、解除された時の反動がエゲツないから。危険な魔法ということで即、処刑もあるよ》


「怖‼︎」


《あ、でも今回の乙女ゲームで、前回下がった恋愛レベルが上がったよ》


「ホント?結構頑張ったからね」

うんうんと自分を褒める私。


《やっと、初期値に戻れたよ》


「え、初期値になっただけなの?」


《そう。けどヒロインレベルは順調に上昇してる。この調子で頑張ろう》

相棒が暖かく励ましてくれた。


これで 三つの乙女ゲームを終えたワケだが、先は長いなぁー。




読んで下さりありがとうございました。

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