初心者ゲームで肩ならし?2
私の高校生活は思っていたより楽しく充実したものになった。
前世?では、病気のためほとんど通学できなかった私はとことん学校を楽しんだ。
授業も行事も生徒会の仕事も全力で臨んだ。
毎日が充実していたが、時々起こる強制イベントと脳内に浮かぶ、
A ナントカ
B カントカ
の選択がウザかったが。
テキトーに答えていたから、現在 誰との好感度が高いのか サッパリ分からない。
てか、気にしてない。
生徒会役員の皆とは仲が良いと思うが、ラブラブな雰囲気は皆無…だと思うんだけど。
強制イベントで、デートもどきをしたことは有ったけどそれ以外の接触は ほぼ無
い。
デートイベントで必ずある
A もう少し一緒にいる
B 帰る
の二択で迷わず ”B 帰る”を選び続けたせいかもしれない。
気付けば、もう既に二年生の後半。来月には、恒例の生徒会主催クリスマスパーティーがある。
学校でクリスマスパーティー!しかも、正装でダンスとか!
さすが乙女ゲームの世界だわ!と驚き感心したものだ。
そんな心躍る行事を来月には控え、何となく学校中がソワソワとした雰囲気の中 何故か頻繁に強制イベントが起こるようになった。
用もないのにひと気の無い階段に足が勝手に向かって、そこから転げ落ちること数回。
廊下でとある女生徒とすれ違う瞬間、何故か制服が切られていたり 遂に腕に切傷までこさえてしまった。
日々湿布と包帯が増えていく私。
これは…おそらく…。
《断罪イベントの始まり…だろうね》
と相棒。
「やっぱり…。でも、いったい誰が断罪されるの?」
《一人心あたりがいるでしょう?君が強制イベントくらっている時にいつも居合わせている不運な人が》
彼女が生け贄になってしまうのか。そして舞台はクリスマスパーティー会場……。
「クリスマスパーティー、病欠しようかなぁ」
《たとえ全身骨折で入院してても、間違いなく引っ張り出されるだろうね》
……ゲームの強制力 容赦無いな。
「絶対 避けられないイベントなんだね…」
現段階では、多分誰のルートのフラグも立ってないと思う。
そんな状況でいったいどんな断罪イベントになるのやら。
願わくは なるべく穏便に済んで欲しいものだ。
不安を抱えつつも日々は過ぎ 遂にクリスマスパーティー当日。
「君が藍原に 危害を与えていたんだろう?」
生徒会長の冷たい声が会場に流れた。
ついに始まってしまった…!
「何のことでしょう?」
断罪されているのは、会長の幼馴染であり、婚約者候補とされている令嬢。
「姉さん、シラを切るのはやめてくれ」
弟である少年、私の同級生の生徒会長役員が姉を責める。
「本当に何の事かわかりませんわ」
困惑する令嬢。
「貴女を見損ないました」
「ホントこんなひどいコトするヒトだとはおもわなかったよ」
副会長と会計が、さらに責める。
まったく身に憶えの無い事で責められている令嬢は、気丈にも取り乱していないが 顔色は蒼白で目は潤んでいる。
誰か助けてやってよ。生徒会顧問ボケっとしてるんじゃ無いよ!
「君がしたことは犯罪行為だ」
いやいやいや、止めてよ。一緒になって断罪しないで。
もちろん私は彼女にやられたとは、一言も言ってない。
一人で転けたし、制服の破れは、釘にうっかり引っ掛けたせいだと彼等に話していただけだ。
なのに何でこうなった。
《コレがゲームの強制力》
相棒が冷静に告げるが、ゲームの強制力怖い。
棒読で断罪する声が怖い。
微妙に焦点の合ってない硝子の様な皆の目が怖い。
私の知っている皆じゃない。
私の否定の言葉も聞こえていないようだ。
会場内にいる生徒達も微動だにしない様は、人形が並んでいるようだ。
何これ、怖い。
ホラー?ホラーなの?乙女ゲームじゃなくてホラーゲームなの?
そこの扉からゾンビが雪崩れ込んでくるの?
若干、いや かなりビビっている私をよそに、茶番劇はどんどん進められていた。
「藍原に謝罪したらどうだ?」
会長の抑揚のない、棒読みセリフが吐き出されたその時、私の頭にあの忌々しい選択が浮かんだ。
A 皆を止める振りをしながら、ライバル令嬢をさり気なく貶す。
B 皆と一緒にライバル令嬢を断罪する。
はあ?何だこの選択。ふざけてんの?どっちも結果が一緒じゃない。
《AかBで、会長エンドか副会長エンドのどちらになるかが確定するよ》
「どっちのエンドもいらんわ〜!!」
と、思わず叫んだとき右手がジンワリ暖かくなり何かが現れた。
何でこんなのが?何処から?
いや 確かに張り倒したいと思ったからちょうどいいけど。
スパーン!!
会場に響くハリセンでしばく音。
スパーン!!スパーン!!スパーン!!スパーン!!
私は突如右手に現れたハリセンで生徒会の面々の頭を思いきりしばき倒した。
「「「……っ …ぃってえ…」」」
「「何すんだよ!!」」
と咎める皆の目が私に向いた。さっき迄いくら話しかけてもガン無視されてたのに。
…戻った?いつもの皆に?
「…あれ?俺たち何してたんだろ?」
会長始め生徒会役員達が首を傾げている。
よ…良かった〜。いつものみんなだよ。
《どうやら、ゲームの強制力を打消したようだね》
ゲームの強制力が無くなったって事?
《そうみたい。それよりこの場を何とか収拾つけないと》
周りを見渡すとさっき迄微動だにしなかった生徒達が困惑顔でこちらを注目している。
ど、どどどどうしよう…えっと、えっと…そうだ!あ、でも道具が足りない。
アレとアレが必要…と考えていると またもや右手が温かくなり私の欲していた物が現れた。
何なのこの現象?欲しいものが出てくるけど、別に青い狸猫とは契約して無いんだけど。
若干困惑するが細かい事は後で相棒に聞こう。
うん。取り敢えず、今はこの場をごまかそう。
「皆様、只今のはチャリティ募金のためのパフォーマンスでした。
さて、日頃ストレスを溜め込んでいる皆様、我等生徒会役員をこのハリセンでしばいて見ませんか?この箱に皆様のお心がこもった募金をして頂けたらお一人様一回、誰の頭でもシバいてかまいません。ふるって御参加 宜しくお願いします」
「お、おい藍原。どういうことだ?」
会長が困惑した顔で尋ねてくるが、今はそれどころじゃないんで私はニッコリ微笑んで、生徒会の面々に安全第一と書いてあるヘルメットを渡した。
「チャリティ募金です。会長、最後のお務めと思ってしっかり稼いでくださいね。それと先輩、すみませんが、募金箱の管理と列の整備お願いします」
さっきまでトバッチリ断罪をされていた令嬢にも手伝いを強要し、私もヘルメットをかぶった。
「終わった……。ヘルメットをかぶってても、地味に衝撃が来るんだな… 」
「…頭がクワンクワンしますね……」
「……受験のために必死に詰め込んだ知識がどっか行ったと思う…」
「…呆けたらどうしてくれる?」
「………脳みそが揺れている…」
会長、副会長、会計、顧問の教師、同級生の順番で文句を言うが私だって一言言いたい。
「一番シバかれたのは私です……」
女生徒の殆どが、私の列に並んだのではないだろうか?
どうやら私は イケメンの生徒会役員に囲まれている、ウラヤマニクタラシイ存在だったらしい。
ラブラブは欠片も存在せず、毎日生徒会の雑事に追われて馬車馬の如く働いていただけなのに。解せぬ。
「ですが!皆で身体を張った甲斐がありました!過去最高額の募金が集まりました!」
うん、とりあえずこの成果を喜ぶことにしよう!
忌々しい断罪イベントも切り抜けられたし。
そして冬休みに入り、会長達三年生は引退し、同級生は会長に私は副会長を引き継いだ。
今日はいよいよ卒業式。
誰かとラブラブハッピーエンドなら、卒業式後の学校裏手にある桜の木の下で告白されるんだけど…。
………うん、誰も来ないね。
誰とも恋愛フラグ立てなかったんだから当然だよね。
てことは、これは何エンドになるのかな?と考えていたら、
「藍原、ここに居たのか」
「捜しましたよ」
「藍原ちゃんとお別れするのツライなぁ」
生徒会の先輩達が揃ってやって来た。
其れから遅れて来た新会長である同級生と顧問の教師。
攻略対象者全員集合であった。
《これは友情エンドかな。ノーマルエンドなんだけど、乙女ゲームとしてはバッドエンドかも》
いや、いいよ。
私としては理想的なエンドだ。
全然恋愛要素は無かったけど、高校生活を充実して過ごせたし、皆と居られてとても楽しかった。
そうして桜の木の下で皆で記念撮影をしてお別れをしたのだった。
《これにて この乙女ゲーム終了したわけだけど、すぐに次の乙女ゲームに行くかい?》
「すぐ行った方が良ければそうするけど、出来れば来年の卒業までは居たいなぁ。私自分の卒業式出たことがないんだ」
《いいよ。時は気にしなくても大丈夫。君がヒロインを務めることになってる乙女ゲームの世界は、待機させてあるから焦らなくても大丈夫。何ならこの世界で寿命が尽きるまで過ごしてもいいんだよ》
いや、そこ迄長居したいとは思わないけどね。
ということで翌年の卒業式を終えて無事この乙女ゲームの世界からも卒業したのだった。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
ーー反省と考察ーー
《初めての乙女ゲームだったけど感想は?》
「選択とイベントが、ウザかった…」
《あー最初にヒロイン補正がっちりかけたからね〜。ゲームの強制力が強く働いちゃったんだ》
「ヒロイン補正?」
《そう、そのゲームのヒロインに必要とされるスキルを多く与えるとどうしても強制が働くんだよね。あと君のヒロインレベルも低かったしね》
「ヒロインレベル?何それ?」
《ヒロインレベルが高いとゲームへの影響力が上がって、ゲームの中での行動の自由度が増すんだ。レベルが上がると強制イベントもスルーできるし》
「じゃ、もしかして、断罪パーティーの時いきなり手にハリセンやヘルメットが現れたのもそのせいなの?」
《うん。ヒロインレベル10以上から使える物品召喚だね》
へぇー。
《さて、では次の乙女ゲームに向かってもいいかな?》
「待った。またいきなりゲーム開始時点に送られると強力なヒロイン補正をしなくちゃいけなんじゃあ?」
《うん、そうなるね》
「なら、ちゃんと下準備をさせてよ。なるべくゲームの強制力は、少なくしたい」
《えー、面倒くさいなぁ。やりながら慣れてけばいいじゃない》
「あんた、説明書読まないタイプね。私はねぇ、使用説明書に目を通してから、電源を入れるタイプなの!」
《はいはい》
相棒が心底面倒くさそうに返事をしたが、スルーして次のゲームの予習をしたのだった。