インタールード2 歯車を回せ
榊エルナンデス圭介は、映像を止めたまましばらく動かなかった。
木製の大きなデスクの上に、背に会社ロゴがついたノート型端末が乗っている。
周囲には幾つもの仮想ウィンドウが浮かび、矢継ぎ早にプロジェクトの進捗報告が入っている。社名の入った承認印が画面に並ぶたび、榊は自分の輪郭が少しだけ強くなるのを感じた。
ウィンドウの中に一枚だけ、動きが悪い案件があった。榊はその一枚を見つめて考え込んでいた。
それは監視ログだった。解像度は高くない。だが、必要なものは見えている。
神崎真琴。喫茶店に出入りする女。少し遅れて、黒い猫が影から出る。しばらくして、外部の女が出てきた。高梁和佳。資料上は便利屋、探偵崩れ、あるいは雑多な相談屋。けれど研究所周辺のカメラ映像と丹念に結びつければ、ただの民間人と片づけるには鋭すぎる足取りだ。
榊は指先で画面を拡大した。
猫は急速に痩せた。動きも鈍い。にもかかわらず、まだ追跡対象たりえている。処理が遅れた。自分でもそう思う。だが、それだけで何かを起こせるはずもない。資産価値が残っている異常個体だ。あるいは、余計なものを引き寄せる釣り針だ。
「念のため処理するか。まだ使い道があると思っていたんだがな」
独り言のように言い、榊は端末を閉じた。
感情ではない。工程を一つ前へ送るだけの判断だった。




