91話 信長をゲットだぜ
天文13年(1544年夏)――13歳。
信長は尾張から付いてきた侍女2名と、松坂城の城内でゆったりと過ごしてもらっている。
数日が経ち、気持ちの整理もついて人生を達観できたのか、顔色が少し良くなってきた。しかし表情は暗い。そりゃそうだ……実家の織田家に捨てられて気分がいいはずないよ。
別れ際に信秀から小さい声で「手に余れば、病死としていただいてもかまいませんぞ」と言われた。
戦国時代は人としての、親としての、感覚がおかしくなるみたいだ。俺の中のイケオジの評価は大暴落。この話は信長には言えないな。
俺と信長は、部屋で2人だけで向かい合っている。
凡人と英傑……何をどう話すべきか?
「信長殿。この先どう生きていくつもりだ」
「織田家に捨てられ、目も見えないとなれば、もはや坊主でもなる以外に道はない」
「目が見えていて、織田家の嫡男のままだったら、自らの人生をどう使うつもりだったのだ」
「戦国の世を終わらせたかった」
お〜、さすが英傑。言うことが違う。
「尾張のわずかな領地を治めるだけの織田家嫡男の割に大きなことを言うじゃないか」
「そうかもしれぬな」
「俺は神様と、“戦をなくし民を幸せにする”という約束をした。約束したからには、このくだらない戦国の世を終わらせないといけないのだ。しかしこの先に起こるだろうことを考えると、正直、気が滅入る」
「神童殿は神の使いであるか。であるなら使命を果たされるがよい」
(であるか……でたな……ホホホよりいいぞ)
「信長殿は、そんな厄介な面倒事を、誰からも頼まれてもいないのにやろうとしていたのだな。すごいことだと思う」
信長の見えない目から涙が流れる。さぞかし悔しかったろう。
天から授かった自らの才をわかっているからだな……。
「必ずではないが、俺はお前の目を治してやれるかもしれぬ。しかし、この“病を治す力”は神が下さったもの。俺は、この力をいただく代わりに、“戦をなくし民を幸せにする”という約束を背負った」
「この力を使うということは、お前は俺の家臣として“戦をなくし民を幸せにする”という使命を、共に背負う運命となるが、どうする! 共にこの使命を背負う覚悟はあるか?」
信長に“神との約束は破れないぞ”と言ってみたわけだ。
果たして、英傑は俺の家臣になってくれるのか?
「戦国の世を終わらせることは、我も目指したことだ。神の加護により、我が目が治るのであるなら、家臣となろう。そして、我が人生を“神よりの使命”に捧げる。男に二言はない」
「絶対に破ることにできない神との誓いとなる。良いのか!」
信長が俺に平伏する。
「これより我は、北畠三蔵殿の家臣となる。よろしくお頼み申す」
「信長! 目を治す。目の近くに手を近づけるが動かないでほしい」
俺は信長の目に手を当てる。俺の手が光り輝く。
光が消えたところで信長が目をゆっくりと開ける。
「見えまする。殿、ありがたき幸せ。この御恩は生涯忘れませぬ。もちろん男の誓いを違えることもありませぬ」
「内臓の弱っているところもついでに治しておいた。元気になった体で、まずは藤林保正とともに伊賀と伊勢を回れ」
「藤林保正は俺の弟みたいな者だ。一緒に俺の進めている“富国”と、“強兵”、それぞれの仕組みと、“国の運営”を見て回るのだ」
「富国と強兵の両方がなぜ必要なのかも理解せよ。“学校による教育”が果たす役割についても理解せよ。いろいろあるが頼むぞ!」
信長の顔が生き生きし始める。
その後、“家臣に領地を与えないで、仕事に見合った俸給を支払うやり方”と、その理由についてじっくりと説明していった。
信長は、一を聞いて十を知ることができる人間だった。優秀なやつ!
うれしくなる。
(とうとう信長をゲットしたぜ! 丸投げできる人材のゲット)
(しかも、戦国時代最強の人材。取ったぞ〜)
勘助と幸隆、信長の最強の頭脳で、“戦をなくし民を幸せにする”を最短で終わらせてやる。早く楽になりたい!
ところで……信長と言えば、明智さん。
「明智って名前の人には気をつけろ」と知らせておいた方が良いのかな?
どうするかな……。
せっかくゲットした最強の人材を殺されたのでは、絶対に困るぞ。
明智さんを、“忍者調査隊”に調べさせておくか。
ひょっとしたら、以外に良い人かもしれないからね。
***
ところで各地に派遣している“忍者調査隊”や、“忍者リクルーターに”、声をかけてくる地元の人が増えきているようだ。
そのほとんどが、地方の地域ごとに活躍する小規模忍者集団だ。
ご多分に漏れず、どの忍者集団も、昔の伊賀と同じような地獄の生活をしている。
彼らから「毎日が地獄なんです。お願いです。伊賀に臣従させて下さい」と土下座されて、泣きつかれているそうだ。
「毎日が地獄です」と言われると、忍者調査隊や忍者リクルーターも、自分たちの数年前の姿を思い出しウルっとくるみたいだ。
当然なんとかしてあげたいという気持ちになる。
「そっか〜。そっか〜。わかるよ。わかる。任せておけ!」
オヤジたちに許可を得て、ほぼ全員が伊賀や伊勢にお引越ししているらしい。
その数がだんだんと増えている。
もちろん俺は有能な忍者をどんどん増やしたいと思っているので大歓迎だ。
オヤジたちにもどんどん受け入れてほしいと伝えている。
今後も、こんな形で全国の忍びが俺のところに集まってくるのかな。俺のところは忍者の仕事がいっぱいあるから、いっぱい来てもらって大丈夫だ。
それほど危なくない仕事なら、“忍者調査隊”、“忍者リクルーター”、“忍者撹乱隊”、“忍者速達便”、“忍者宅急便”がある。戦うのが好きな人向けには “特殊部隊”だ。頭が良い人は、“商社正直屋”で働いてもらう。
その分、全国の大名や寺社から目と耳と口が消えていくから、北畠家がさらに有利になる。もう言うことないね。




