88話 信長をどうする?
天文13年(1544年 夏)――13歳
ところで――
戦国時代のスーパースター、信長はどうしているのだろう?
年齢的には、もうそろそろ11歳くらいのはずだ。
当然ながら父親の織田信秀さんは、まだまだ健在のはず。
ところが、“忍者調査隊”からの報告によれば――
信長……やけにおとなしくしているらしい。つまり、まったく情報が入ってこない。
本来なら、織田家の家臣の中の元気のいい次男・三男たちを引き連れて、
領内のあちこちで暴れ回っている年頃のはず。
つまり、良くも悪くも“めちゃくちゃ目立ってる”はずなのに……?
……何かがおかしい。病気……か?
引き続き、調査は続行中……。
それにしても――
将来的に、信長とどう向き合っていくか。これは避けて通れない重大な課題だ。
選択肢は、おそらく2つに絞られる。
ひとつは――力を蓄える前に、“六天魔王”となる前に、こちらから手を打ち、始末してしまうこと。
もうひとつは――親友になるか、家臣にして、“日の本から戦をなくし、民を幸せにする”という理想の実現に、思いきり力を貸してもらうこと。
このどちらかを選ぶことになるだろう。
ただし、どちらの道を選ぶにしても――
肝心の信長という人間が、どんな人物なのか。判断材料が決定的に足りていない。
歴史書や大河ドラマを鵜呑みにするなんて、できるはずもない。
歴史の登場人物なんて、権力者が自分に都合のいいように書き換えている可能性が大きいからだ。
それなのに、いきなり“プラン1”を実行して、信長に密かに“退場”してもらうとか、さすがに気が引けるよな。もしかすると、天才とかではなく、平凡な“いい人”なのかもしれないし。
***
さて――史実を振り返ってみるか……。
信長が桶狭間で今川義元を討ったのが1560年、
そして本能寺で明智に討たれるのが1582年。
この約20年間で、信長は日本の中央部をほぼ掌握した。
もちろん、その前に尾張をまとめ上げるまでにも長い年月がかかっている。
そのバトンを受け取ったのが秀吉。
彼はそこから約10年、1590年までに全国統一を成し遂げた。
そして最後に登場するのが家康。
幕府を開き、朝廷さえも取り込むかたちで支配体制を確立し、徳川による盤石な世を築き上げる。
完成といえるレベルまでとなると……たぶん家光の時代。つまり、そこまで含めると、ざっと50年はかかっている。
……長い。長すぎる……!
信長・秀吉・家康。
この三人がかりでようやく成し遂げた国家統一という“超過酷プロジェクト”。
(これ……まさか俺がひとりでやれって話じゃないよね……?)
(だとしたら、それはさすがに……うん、いや、断っていいですか?)
このプロジェクトの一番の難点は、とにかく“期間が長すぎる”ということ。
つまり、何十年も、人を殺し、人に裏切られ、また殺して……
ずっと血だまりの中に身を置き続けなきゃならない。
そりゃ心も壊れるんじゃね!
実際、信長も限界、一杯一杯だったんじゃないかな。
命令を遂行できない能無し家臣、裏切り家臣、いつ裏切るかわからない大名・公家・寺社……。そんな連中を相手に、怒りと失意を抱えて、それでも前に進み続ける――
その精神消耗……想像を絶するぞ。
支えてくれる誰かがいれば、信長だってもっと違う結末を迎えていたかもしれないな。そういう人材がいてあげればね……。
しかし、信長と同じレベルで頭が切れて、人格も信頼できて、信長を心の底から支えてくれる無欲な存在……いるわけないよな……。
……苦しかっただろうな。信長。
――さて。
信長パートだけでも“超過酷プロジェクト・地獄の最難関第一工程”ってレベルなのに、ついでに「秀吉と家康パートもよろしくね♪」って……そういうことだよね。
今の俺の立ち位置は!
「昔は50年くらいで終わったみたいだぞ〜」って言われてもね――
50年もやるとか……ありえん……?
ムリムリムリムリ! 無理に決まってんだろ!!
……いや、ほんと逃げちゃダメかな?
全力で! ご辞退申し上げます!!
――断固、拒否だ。
俺の未来を軽く想像してみたら、とんでもない未来だったぞ。




