83話 チート戦船
天文13年(1544年夏)――13歳
志摩衆から「日本丸を乗りこなせるようになりました」との報告を受けた。
俺はウキウキしながら、ヨットハーバーへ向かう。
ちなみに、ヨットハーバーには俺の希望で、漆喰で白く塗られたギリシャ風の建物を建てさせている。
今は夏。海風が頬を撫でるように吹き抜け、潮の香りと共に肌に心地よい冷たさを運んでくる。髪がそよぎ、衣が揺れるその感覚が、まるで異国の避暑地にでもいるかのような錯覚を与えてくれる。
俺の髪型は総髪だ。元服の式はすませたが、丁髷や月代、髻といった髪型に変えるつもりはない。
現代人だった俺には、どうにもあの髪型は受け入れがたい……。
しかし、ありがたいことに“神童なんだから”好きにさせとけと思ってくれているようだ。
そんなわけで、俺の長めの髪は潮風を受けて、さらさらと気持ちよさそうに揺れている。
ギリシャ風の建物の中には、白いテーブルと白い椅子を並べさせている。
俺は妻たちと共に椅子にもたれてくつろぎ、重臣たちも同様に過ごしている。
皆、日本茶よりも麦茶派のようだ。夏の暑さのせいだろう。井戸でよく冷やしておいた麦茶を、大きな急須に用意している。もちろんお酒は出さないよ……。
ちなみに麦茶も蕎麦茶も、正直屋の売れ筋商品なのだ。
白い建物、白い家具、心地良い潮風……今が戦国の世であることを忘れてしまいそうだ。いかん、いかん。今日は志摩衆の晴れ舞台だ。
手旗信号の合図で、沖に浮かぶ船団が一斉に動き出す。
船たちは風を帆に受け、まるで水面を滑るように静かに進んでいく。
船と船、あるいは船と陸の連絡手段として有効だと思い、試しに志摩衆に手旗信号を教えてみたところ――
「これは便利ですね」と即座に取り入れてくれた。
忍びも海の民も、新しい技術に対して驚くほど柔軟。実にありがたい。
武将たちの間でも、戦における命令伝達に使えると評判となり、それぞれの戦場で工夫しながら活用しているようだ。
もしこれが旧北畠であれば、「奇妙なものを持ち込むな」と頭ごなしに却下されていたに違いない。
手旗信号は、望遠鏡と併用すれば遠距離通信も可能になる。
さらに、モールス信号を“光の点滅”で伝える方式を応用すれば、夜間でさえ連絡手段が確保できる。
だが――一度に詰め込みすぎても混乱を招くだけだろう。
今はまだ、静かに時を待つとしよう。
志摩衆を口説いたときの決め台詞――
「外国に行ける船を造ってやる。その代わり、海賊ではなく、外国との交易を生業にしてみないか?」
たしか、そう言ったはずだ。
そして、その“外国に行ける船”こそが――日本丸というわけだ。
俺としては、日本丸には交易船としての顔と、戦船としての力を、あわせ持っていてほしい。
つまり、交易だけでなく、戦にも使える船にしたい、ということだ。
では、戦に必要なものとは何か。
言うまでもなく、“武装”である。
西洋の大型帆船――
たとえばキャラック船やガレオン船には、当たり前のように大砲が搭載されている。だから日本丸にも、大砲を積もうかと考えた。
――が、結論としては「大砲は搭載しない」という決断に至った。
なぜか。
理由は、実に単純だ。
まず、大砲というのは、とにかく重いのだ。
木造の帆船にそれを載せれば、当然、重心が高くなって船は不安定になる。
安定性を取ろうとして船底にバラスト(オモリ)を増やせば、今度は積載量が削られてしまう。
さらに厄介なのが、大砲の砲身の向きだ。
キャラックやガレオンに載っている大砲は、基本的に側面、つまり船の横腹に向けて固定されている。
仰角の調整はできても、砲身の向き自体は動かせない。
言い換えれば――敵の船と横づけ状態にし、至近距離で一斉に撃ち込まない限り、有効なダメージを与えることができないのだ。
見た目は派手でも、実戦では使い勝手が悪い。
それがこの時代の船に積む“大砲”という武器の現実だ。
では、日本丸にどんな武装を搭載するのか――
結論として、重たい大砲はやめ、その代わりにグレネードランチャーを主力武装として配備することにした。
この武器は、口径40mmのグレネード弾を、放物線を描いて撃ち出す仕組みになっており、有効射程は150m、最大射程は400mに達する。
とくに敵船が密集しているような場面では、炸裂弾の効果が存分に発揮され、大きな戦果が期待できる。
加えて、このグレネードランチャーは構造が極めてシンプル。だから“至高の匠スキル”で、問題なく量産できる。
弾薬の製造も同様に容易で、維持・運用コストの面でも極めて優秀だ。
全長は737mm、重量わずか2.7kg。
小型軽量ながら威力は十分。
この時代の木造船など、命中さえすれば、一発で木っ端微塵だろう。
俺はこのグレネードランチャーを、日本丸1隻あたり30丁、配備することにした。
しかもこの武器、海上戦だけでなく、上陸戦や城攻め、あるいは防衛戦といった陸戦でも、その破壊力と機動性が大いに役立つはずだ。
ただし――グレネードランチャーはあくまで“中距離用”の兵器だ。
より遠くを射程に収めるには、もう一手が必要になる。
そこで俺は、“長距離攻撃用”として迫撃砲の搭載を決定した。
この迫撃砲もまた、構造が非常に単純で、“至高の匠スキル”による量産が可能。
全長は1,280mm、重量は約38kg。大砲と比べればはるかに軽量で取り回しが良い。
砲弾は、直径81mm、重量4.2kgの炸裂弾。
その最大射程は、驚異の5.65kmにも達する。
もちろん、揺れる船上で精密な命中精度を出すのは難しいだろう。
だが、相手が静止した大きな標的――たとえば“敵城”や“布陣中の軍勢”といった対象であれば、実戦でも使えると判断した。
さらにその軽さはメリット大だ。
1隻あたり20門を搭載し、“数撃ちゃ当たる”方式で面制圧を狙う。
つまり陸への艦砲射撃に代わる攻撃手段となりうるのだ。
こうして日本丸は――
“近距離攻撃にはライフル”
“中距離攻撃にはグレネードランチャー”
“長距離攻撃には迫撃砲”
距離と用途に応じた武装を備えることができたのだ。




