81話 感謝と信仰
天文13年(1544年冬)――13歳
そういえば――忙しさに紛れて見過ごしていたが、
いつの間にか領民たちの間では、
「自分たちが豊かで、穏やかに暮らせているのは、神童様のおかげだ」
という声が広がってきたらしい。
かつての混乱と貧しさを思えば、その反動もあるのだろう。
俺のことを“現人神”のように敬い、崇める者さえ増えているという。
中には、感謝の念を込めて、毎朝城の方角へ向かって手を合わせ、
深々と拝む者もいるらしい――まるで、信仰のように。
今までの努力が評価されていることはうれしいとは思うが、俺は神ではない。
それに、この状況、絶対まずい! ほっておけば、豊穣神様が気分を害される。
『三蔵! 勘違いしてはならないぞ……』とかね!
そもそも俺のスキルは、豊穣神様からもらったものだし、
そのスキルがあればこそ、なんとか今があるのだ。
(何といっても、豊穣神様は本物の神様!)
『本物の神様の豊穣神じゃ。お前のことはずっと見ておるぞ』
突然、頭の中に響いてきたのは、どこか懐かしいあの声だった。脳内で鮮明に再生されるその語り口に、思わず背筋が伸びる。
『豊穣神様。大変ご無沙汰しております。いただいたスキルのおかげで、なんとかやっています。領民たちが豊かで幸せに暮らせるようになったことに、心より感謝しております』
『フフ、そう言ってもらえると嬉しいわね。ちょっと照れるじゃないの』
『感謝の意味で、村ごとに祠を作って豊穣神様を祀りたいと思います。そこで、ひとつお願いがあります。神様の像を1つ、いただけないでしょうか?』
『あらまぁ、そんなこと言ってくれるの? うれしいわ〜。じゃあ、あなたの目の前にポンっと像を出しておくからね。はい、これね』
突然、足元に淡く光る神像が出現する。やや小ぶりだが、品のある面差しと神々しさが漂う。
『これを祠の中に祀ってくれるとうれしいわ。この像に感謝の祈りを捧げてくれる人が増えれば増えるほど、私の力はグングン上がるのよ』
『なるほど、信仰……支持率が力に繋がるんですね』
『そう。そしてね、それに比例して……弟子でもある、あなたのスキルのパワーも、ちゃ〜んと強化されていくわよ! がんばってお祈り、広めてね』
『神様! 今、“弟子”っておっしゃいましたか?』
『……聞き間違いよ。弟子じゃないわね。ただ、付き合いが長くなったから“弟子見習いの心得”くらいの気持ちかな〜、って意味ね。うふふ』
……豊穣神様、どうやら相当うれしかったらしいな。
『ありがとうございます。頑張って民を幸せにし、神様の評価が上がるよう努力します。“弟子見習い心得”にしていただいたことに感謝いたします』
『もう一つお願いがあります。豊穣神様の像に感謝の祈りを捧げてくれる村には、ご褒美として作物の収穫が少し増えるようにしていただけないでしょうか?』
『豊かな実りをもたらすのが、豊穣神、本来の仕事ですからね。収穫を2割アップぐらいで良いかしらね』
『ただし、5割アップまでが上限ね。あとは自助努力することね。もちろん、祈りをやめて、私の支持率が下がれば、それに比例して収穫も下がるわよ』
『十分でございます。ありがとうございます。感謝の祈りを捧げれば神の加護により豊作となることを、民に伝えます。これで豊穣神様を祀る人がさらに増えること間違いなしです』
神様の気配が消える。
俺は神からいただいた像を見ながら、
『創造 豊穣神像 100体』と念じる。
神様の像が100体出現する。
すぐに小姓の藤吉郎を呼び出す。
「豊穣神様からのお告げがあった。豊穣神様から頂いたこの像を、領内の村々に祠を作って、村人が豊穣神様を祀るように取り計らってくれ」
「民には“今の豊かさがあるのは豊穣神様のおかげであること”。 “像に感謝の祈りを捧げれば神の加護により田畑が豊作となること“をしっかりと説明してくれよ。
そして、“俺”にではなく、この“豊穣神様”の像に手を合わせるようにと伝えてくれ」
「その説明は大事だからな。神様に怒られるからな。
字の読めない領民に説明するために、必要ならわかりやすい絵は俺が用意するぞ」
「万事わかりました。すべて、藤吉郎にお任せください。
像を運ぶ人夫と黒鍬衆を連れてきます」
と、藤吉郎が走っていく。
さすが藤吉郎、テキパキしているな。
信長のお気に入りになれるはずだよ。




