78話 飲み放題、食べ放題の居酒屋じゃないぞ!
天文13年(1544年冬)――13歳
平井の読み通り、百合は定頼の養女とはならなかった。
義賢が狂ったように反対したからだという。
よくやった、義賢! ありがとう。
百合との婚姻は、伊賀上野城で行うことになった。
祝言用の料理は本膳料理である。
本膳のメニューの中に伊勢海老まで登場するので、見た目がすごく豪華だ。
伊勢海老の運搬は“忍者宅急便”が、おがくずコンポで運んでいるのでとても新鮮だ。
茹でエビはタルタルソースで、刺身は醤油で食べてもらっている。
また猪肉を使った猪カツや、鳥の唐揚げなども希望する人にはふるまっている。
祝言には定頼さん、後藤さんと平井家の家族一同、進藤さんも出席している。
義賢や目賀田さんは留守番のようだ。
義賢……お前は来なくていいぜ。面倒くさくなるだけだ。
北畠家からはオヤジたちに母と重臣たちが出席している。
式の最中は“忍者警備隊”が、城内と城の周辺警備をしている。
料理に毒でも盛られたり、祝言の席に暴漢に乱入されたら、北畠家の信用問題になる。
『ウチはもう慣れているけど、六角家の人たちは肉を食べていいのかな?』
そんな心配は――完全なる杞憂だった。
遠慮どころか、全員ガツガツ、ムシャムシャ、すごい勢いで食べている。
美味けりゃなんでも食う! しかしなあ……ちょっとガッツキ過ぎだろ……?
そして、どさくさに紛れて公家の連中まで来てやがる。
誰も呼んでないんだけど!?
案の定、例のホホホ妖怪――山科言継の愉快な仲間たちだろうな。クソッ……勝手に連れて来んなよな!
どうせ「美味いもの食わせてやるから、この山科に任せろ! 大丈夫、大丈夫~」とか偉そうに誘ったに違いない。
しかし見事に釣られて、ホイホイ付いてくるか? この公家たち……どいつもこいつも図太い神経だ。メンタルがもう、鋼通り越してダイヤモンド製だな。
ちなみに、将軍とお友達の“太閤さん”近衛稙家は、さすがに来ていない。
代わりに息子の近衛前久くん、まだ9歳がしっかり便乗して来てる。なんなんだ、食わしてもらってないのか……。
ついでに、山科のおっさんの義弟で、元・太政大臣の久我晴通も来てるし……。元・太政大臣だよね、あんた! 恥ずかしくないの?
もう宴会じゃなくて、なんか“貴族宅の、気楽なお食事会”にしてないか、これ。
正直、公家の知り合いなんて山科のおっさん一人で十分なんだよ。
いやまあ、そもそも“知り合い”っていうより、“銭で繋がってるだけの関係”だけどね。
あれ? そのおっさん、今日はやたらと小綺麗な装束を着てるな……?
なんか光沢が違うぞ、まさか――
おいおい……
いろいろピンハネしてないよな……?
“ホホホ”の裏で、ちゃんとホホホしてるだろ……?
それにしても、公家の奴ら――
まるで飢えた獣だぞ。ひたすら食べてやがる。
少しずつ、上品に口に含む食べ方じゃないのか?
貴族って“高貴な存在”じゃなかったのか?
普段、食わせてもらってないだろ!
呼んでもないのに図々しく乗り込んできて、この食べっぷりは……
口の周り、唐揚げの脂でテカテカ光ってるぞ。
うん、やっぱり――
公家とは極力関わらないようにしよう。
間違っても「心の友」にはならん。なりたくもない。
そんな中、俺と百合は、ちゃんと上座に並んで行儀良く座ってる。
あくまで“主催者側”としての威厳を保たねばならぬ。
あいつらとは違うんだよ。
だが――
その俺たちの目の前で、“猪カツ”やら“鳥の唐揚げ”やらに、まるで群がる猿のごとく。ウッフォ、ウッフォと料理と酒に取りつく連中……。
特に公家! お前ら、節度ってもんがないのか⁉︎
……まあ、いいさ。猿になったものは、しょうがないだろ。
そうだ呑兵衛ちゃんのために、ちゃんと酒も揃えてあるのだ。
米焼酎、麦焼酎、蕎麦焼酎、樽でどーんと用意。
しかも“柄杓ですくってご自由にどうぞ”方式。セルフサービス、気前良いでしょ。
好きなだけ飲め。後で後悔するまで飲め。
澄酒(清酒)は用意してない。
焼酎で十分だ。酔えればいいんだろ! 酔えれば。
俺は立ち上がって、酒樽の前に移動する。
酒樽を柄杓でコンコン。
呑兵衛の皆さんが注目している。




