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【改訂版】戦国時代の忍者に転生させられちゃいました  作者: ゲンタ


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68話 北畠の流儀と千代女の決意

天文12年(1543年 冬)――12歳


「甲賀では、蕎麦と小麦をたくさん作付けしてもらっている。それらは本来、飢饉の備えだが、今回のような食べ方もぜひ広めたい」


「千代女、今日の料理を実家の母を通じて、甲賀の母親たちにも伝えてほしい。鴨が手に入らなければ、鶏や猪でも十分に応用できるはずだ。醤油も、こちらから甲賀へ送っておくからな」


「それと、堺にある正直屋の近くで、うどんや蕎麦を食べさせる料理屋を開いているんだが、これがなかなか好評でな。様子を見て、今後は店を増やすつもりでいる」


「もし甲賀に、料理が得意な夫婦がいれば、その者たちに堺の新店舗を任せたい。我こそはという者がいたら、ぜひ知らせてくれないか」


「三蔵様、料理をなさっている時は、とても優しいお顔になりますね」

桔梗が嬉しそうに言う。


「料理は楽しいからな。今日はブツブツと呟きもしなかっただろ? 時間さえあれば、いつでも料理をする。楽しんでくれると、俺もうれしい」


「その……ブツブツとは、何のことでしょうか?」

千代女が首をかしげる。


「殿はね、国の問題をどう解決するか、ブツブツ呟きながら考えるのが好きなのよ」

桔梗が笑って答える。


「私たちも一緒に考えることが多いの。けっこう楽しいわよ」

桜が続ける。


「お互いに意見を出し合ったりしてね。殿はそれを“夫婦の寛ぎ時間”って呼んでるの。千代女さんも、ぜひ加わってね。そのおかげで、私たち、ずいぶん内政に詳しくなったわよ」


「北畠では、女性が国のことに口を出してもよろしいのですか?」


「“寛ぎ時間”の中だけね。でも私は思うの。妻である以上、国の内政くらいは理解しておくべきだと。何も知らずに殿を支えるなんて、できないでしょ」


――北畠という家は、どこか不思議だ。

すべてが新鮮で、毎日が驚きに満ちている。でも……それが楽しい。面白い。


それにしても、桔梗さんや桜さんと話しているとすぐに分かってしまう。

ふたりとも、とにかく頭の回転が速い。物事の本質を一瞬で見抜いてしまう。


私も、負けていられない。


まずは、計算の勉強から始めなきゃ。

この風変わりな北畠でやっていけるか、少し不安もあるけれど――それ以上に心を満たすのは、興味と楽しさ。


この家に嫁いできて、本当によかった。

千代女は、心からそう思った。


1ヶ月後、千代女との祝言を挙げた。

祝いの席では、次々と杯が交わされ、忍びたちの間で昔話や技術談義が花開いた。


「そういえば、お主……あの“風遁の術”を改良したと聞いたが、本当か?」


「従来の通りでは……煙玉の粉に乾燥ヨモギを混ぜて……目くらましの効果が格段に増した……」


「ほう、それは面白い。伊賀では……で足音を吸収させる工夫を……」


「いや、音を消すなら、甲賀では……を草鞋の内側に仕込む……しかも露地でもぬかるみでも……」


笑い混じりに交わされる会話の中にも、真剣な眼差しが覗く。互いの技を認め合い、刺激を受け、学び合う――そうした空気が心地よく広がっていた。


やがて盃を置いた甲賀の老忍が、しみじみと口を開く。

「……わしが若い頃は、伊賀と甲賀が同じ席で酒を酌み交わすなど、想像もできなんだ。三蔵様のおかげじゃ」


盃が再び交わされ、祝いの席はますます賑わいを見せていった。

今後は、技術交流をさらに活発にしていきたい。


そして俺は、甲賀衆による特殊部隊を作ることを決めた。

特殊部隊の数は、少しずつ増やしていくつもりだ。


この話をすると、甲賀衆は目を輝かせて喜んでくれた。

どうやら伊賀の特殊部隊とその装備は、甲賀の若い忍びたちにとって憧れの存在らしいのだ。


でもな――


本当にすごいのは、装備じゃないよ。

あなた達が持つ“忍び”としての技と心、それこそが誇るべき力なんだよ。


祝言の夜、千代女とともに一つの部屋に座っている。

もちろん、まだ子ども同士なので何もないけどね。


「側室として迎えていただけるなんて思ってもいませんでした。てっきり、妾として扱われるのだと……」


「気にすることはない。むしろ、ここまで待たせてしまってすまなかった。……それはそうと、読み書きはできるだろうが、計算のほうはどうだ?」


「簡単な計算くらいなら。でも、早く桔梗さんや桜さんのようになりたいです」


「計算は大事だぞ。物の売り買いに限らず、国の方針を決めるときにも必要になる。桔梗と桜に頼んでおくから、ぜひ教わってくれ」


「彼女たちには、兵の名簿作りや、戦で亡くなった者たちの遺族への補償も任せている。千代女も、その手伝いをお願いしたい。領地が増えたから、手が足りなくてな。それと……俺の“ブツブツ遊び”にも付き合ってくれ。あれは、俺にとって癒しなんだ」


「北畠では、表向きの仕事に、妻が関わってもいいのですか?」


「もちろんだ。妻たちには、国のことをよく知っていてもらいたい。俺と考えを共有してもらうことが、何より心強い。名簿作りに関われば、我が国の姿が自然と見えてくるはずだ。まずは計算をしっかり覚えて、次に内政も学んでくれ」


「はい。喜んで、お手伝いさせていただきます!」


(桔梗さんや桜さんが言っていたこと、今ならわかる気がする)

この殿は、ちょっと他の人とは違う。でもとてもあたたかい。


妻となったからには、子を産み、甲賀と北畠の結びつきのために生きる――それだけが自分の役目だと、どこかで思い込んでいた。


でも、この家では違う。いやこの方は違う。

勉強したい。もっと知りたい。殿の役に立てるようになりたい。


明日から、ちょっとずつ……がんばってみよう。

千代女の表情がふわっと明るくなった。


……やっぱり、彼女も美しいな。

でも……さすがにもうこれ以上、妻は増やせないぞ。


さて、そろそろ気持ちを切り替えよう。

六角家との(いくさ)が、すぐそこまで迫っているのだから。


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