66話 情報戦で北伊勢を取る
天文12年(1543年冬)――12歳
“忍者撹乱隊”を北伊勢の各地に派遣し、あちこちでこうアジっている。
「当主一族はアホだ〜! 自分たちだけで贅沢三昧しやがって〜! このまま俺たちだけが貧乏でいいのか〜! よくないよな〜! 許せねぇよな〜!」
――農民たちの煽動は順調そのもの。“潜入・撹乱”、まさに教科書通りの動きだ。
つくづく思うけど、忍者って何でもできるんだよな。炊事洗濯から国家転覆まで。ほんと便利だわ。
ついでに、風刺漫画付きのビラも、あちこちの壁にベタベタ貼らせている。
“長野家当主が米俵の上で昼寝してる絵”とか、“関家の家臣が銭を頬でスリスリしてる絵”とか……うん、いい出来だ。
“バカ領主追放キャンペーン”は大成功。
これでもうすぐ、長野家や関家の領地で一揆が発生するだろう。
で、いざ一揆が起きた時の北畠の公式コメントは――
「北畠もびっくりよ。一揆が勃発してさ。長野家と関家の一揆衆が我が領土に雪崩れ込もうとしきたわけね。しかたないから北畠はやむなく出陣」
「ほんとね〜。やむなくね! 長野家や関家は、なにやってたのかな? 迷惑な話」
「それで〜、出陣したらね。“長野家と関家の一揆衆“が泣いて頼むわけ。”悪逆当主をなんとかしてくれって“。可哀想でしょ。ほっておけないよね! だから奴らの成敗に協力したわけ。民からは涙ながらに感謝されたけどね……」
――という予定。
悪いのは、全部……長野家と関家のせい。
そしてこの大失態は、もちろん六角家による長野家と関家の“指導ミス”、“管理怠慢”、“仕事放棄”のせいだとする。
よっしゃ、台本通りに頼むよ。“忍者撹乱隊”の諸君!
そんなことして、六角家が怖くないのか――って?
“目と耳と口”だった甲賀を失った時点で、ただの空っぽポンコツ大名。
――だからね。
そして――
予定通り、一揆勃発だ!
民衆の怒号が、領内のあちこちで大炸裂!
「当主一族はアホだ〜!」
「自分たちだけ贅沢しやがってよ〜!」
「こっちは腹ペコなんだよ〜!」
――ってな具合、もう怒りの大合唱だ。
まあ、当然だよね。だって、その台詞、俺が“忍び撹乱隊”に言わせてるやつだから。
まさに予定通り。仕込みバッチリ!
一揆の発生を、我が軍は“忍者速達便”で情報キャッチ。
すぐさま北伊勢へ――そして電撃進攻!
“疾きこと風のごとし”ってやつ!
で、どうなったかって?
……討伐完了まで、たったの2日。マジでね。
これには俺も、「え、もう終わり?」って感じ。
長野家も関家も、見る影もない。
銭なし、武具なし、気力ゼロのトリプルコンボ。
いつもの農民兵? そんなの来るわけないだろ〜っていう不人気っぷり。
……で、当主はきっちり自決。
自決しなかった一族や家臣は、大慌てで国外に脱出。
だって残ってたら、一揆勢に八つ裂きにされるだけ。あの状態の民衆、もう止まらんよ。あれは鬼より怖い。
じゃあ、興奮した一揆勢をどうしたのかって?
暴徒の群れに囲まれて命からがら逃げた――なんて展開には……ならないのだよ!
だって簡単なんだよ、こういう時の対処法って。
動けなくなるまで飯を食わせりゃいい。
腹が膨れりゃ、みんな自然と黙るんだよ。人間ってそういうもんだぞ〜。
……で、全員が「もう無理……く、くるしい……」ってなった頃を見計らって、俺はビシッと立ち上がり――演説ターイム!
「これからは北畠が君たちを豊かにする。安心しろ、未来は明るいぞ!」
「北畠の領民を見てみろよ。みんな腹いっぱい、笑顔いっぱいだろ?」
「だから俺を信じろ! どーんと任せとけ!」
……と、熱弁を何度もリピート。
しかも満腹状態だから、誰もヤジらない。動けない。もう聞くしかないわけ。
結果……一揆、即収束!
全員ニッコニコ。
腹いっぱいの人間は怒らないの……。
どんな立派な法や説教より、白米の力は偉大だってこと!
さあて――ここからは、北畠の世論工作タイムだ!
***
京の都……
「長野家と関家の悪逆当主が、民を苦しめ、私腹を肥やし……飢えた農民たちはついに立ち上がった……」
「非道な当主が一揆勢を鎮圧しようとしたが、北畠が哀れな領民を助け、正義の鉄槌を下した……!」
……というような、わかりやすいストーリーを、一目でわかる風刺マンガに仕立てて、都中にペタペタ貼りまくった。
文字が読めない人でも「あっ……これ長野と関という悪いやつなんだな」とわかる超親切仕様だぞ!
そしてもちろん、噂も大拡散中!
“忍者撹乱隊”、大忙しだよ。
悪は“長野家と関家”。
正義は“北畠”。
無責任なのは“六角家”――という、完璧すぎる三段構え!
京の民の非難は、自然と六角家に向かっていく。
いや、“自然と”じゃないな。仕向けてるのは俺だけどね!
「長野家も関家も六角家の配下だろ?」
「なら、監督責任あるよな? 民が飢えてたのにさ、何してわけ……この六角! このボケが!」
――という怒りの声がどんどん大きくなっていく。
“忍者撹乱隊”、大忙し。
民の声が膨らんで、朝廷も知らんぷりできなくなる。
これで「北伊勢の介入は正義の行動」と誰もが納得する構図が完成!
いやあ、世論操作って楽しい。
忍者優秀、最高!
なんで朝廷からお叱りを……?
理由もわからないまま、どんどん追い詰められていく六角家。
ついに朝廷や幕府に対して、こう言い始めた――
「長野家や関家の不手際につきまして、当家は一切関知いたしておりませぬ! また、長野家・関家とのことにつきましても、六角家は古より、なんの関わりもございませぬ!」
……はい、苦しい! 実に苦しい答弁!
ありがとう、六角家! そのいいね、大好きだよ!
「関係ないなら、北伊勢は俺がもらっておくからね!」
(もうとっくに頂いてるけどね!)
しばらくして六角家は、派遣した家臣の報告で、“京都の状況”、“事の成り行き”をようやく把握できたらしい。
え、今頃!? ……まあ仕方ないか。
だって六角家の“目と耳と口”だった甲賀衆は、今や俺の仲間。
スパイ網は根こそぎ持っていかれてるんだもんね。
残された三雲家は人手不足。
しかも、甲賀衆が三雲家の動きを完封ブロック。
ついでに、三雲の下忍たちもまったくやる気ナッシング。
これが情報戦の敗北というものだよ。
あ、でももうすぐブチ切れそうだよね、六角家。
でもね――ブチ切れても、怖くないからね。
どうぞ、どうぞ。




