56話 ヨットで始める海軍作り
天文11年(1542年春)――11歳
伊勢では、何を基盤にして儲けていこうか。
やはり、伊勢といえば“真珠”だろうか。真珠といえば志摩が有名だが、今の志摩国はどうなっているのだろう?
確かこの時代、志摩には10人ほどの地頭がいて、彼らが寄り合いのような形で統治していたはずだが――実情はどうなのか。
志摩は、陸よりも“海”にこそ価値がある土地だ。仮に俺たちが攻め込んで、わずかな平地を占領したとしても、正直まったく意味がない。
そして何より、志摩に根を張る“海賊”たち。
実は彼らこそが、極めて貴重な人材なのだ。
彼らは将来の海軍の核になり得るし、貿易船の船員としても重要な存在となるだろう。そんな彼らを戦で潰してしまったら……それこそ、取り返しのつかない損失になる。
では――志摩の海賊たちを、どう取り込むか?
伊賀と同様、志摩も平地が少なく、作物もあまり採れない。だからこそ、彼らは生きるために“海賊”という手段を選んできたはずだ。
ならば、“海賊をやらなくても豊かになれる道”を示せば、彼らも耳を傾けるはずだ。
まずはヨットの練習機を作るか。
ヨットって、要は小型の帆船だよな?
つまり“これを操れる=南蛮船もイケる”って思わせれば勝ちだな!
“ヨットの次は南蛮船! 南蛮船クルー、急募!”
これ、かなりキャッチーじゃないか? きっと耳に残る。
“創造の匠スキル”を使えば、ヨットくらいは作れるだろう。
でもな……俺自身が船に乗って操船指導するのは無理だ!
実は俺、泳げないんだよ。そんな俺がヨットなんて、乗るだけで命懸けになる。
しかしほんと俺は何にもできないな。
ヨットの操船――特に風上に“切り上がる”テクニックなんて、文章じゃ伝わらないし……ここはやっぱり、ガリ版刷りのマンガに活躍してもらおうかな。
やっぱマンガってすごいな。字が読めない人が多いこの時代でも、絵なら伝わる。
奴らは海の民なんだから、マンガさえあれば操船くらいは慣れていくだろう。
要は“習うより慣れろ”だ。
仮に海に落ちたとしても、彼らならそう簡単には溺れることもないはず。
操船をマスターしてくれると信じてる。
とはいえ、いきなりヨットを作っても停める場所がない。
まずは“ヨットハーバー”を作らないとな。
それができてから、至高の匠スキルで何艇かヨットを作る――順序は大事だ。
その建設を任せるのが、我らが黒鍬衆。
今まで上野城はじめ、様々な施設を建ててきた信頼の建設集団。
棟梁には“黒鍬”の苗字を与えていて、今では「黒鍬善右衛門」を名乗っている。
俺が描いた、浮き桟橋タイプの現代風ヨットハーバーのスケッチをもとに、善右衛門の指揮で松坂の港の端に建設が進められていた。
……ただ、出来上がったものは、俺のイメージしてたヨットハーバーとはちょっと違うんだな。が、そんな細かいことは気にしない!
本当は至高の匠スキルで一発で建設できるが、あえて黒鍬衆に任せたのには理由がある。彼らにさまざまな建設経験を積ませて、彼らの建設技術を進化させたいんだ。
失敗したら作り直せばいい。それくらいの気持ちで取り組んでほしいと、善右衛門にも伝えてある。
そんなある日、善右衛門から「ヨットハーバー完成!」の報告が届いた。
さっそく、小姓の藤林保正と木下藤吉郎、それに参謀の真田幸隆を連れて、完成したヨットハーバーへと向かうことにした――。
俺は、ヨットの設計図を頭に思い浮かべながら、静かに念じた。
「創造、ヨット、5艘」
その瞬間、海面に――ふわりと、5艘のヨットが現れた。
波間に揺れるそれらの船は、どれも精巧な造りで、今この場で作られたとは思えないほどの完成度を誇っていた。
重臣たちは“至高の匠スキル”の存在を知っているから、さほど驚かない。
だが、真田幸隆だけは違った。
彼は、目の前の光景をしばし呆然と見つめていた。
(……な、な〜んだこれ……まさかの目の錯覚か?)
いや、そんな生やさしい話ではない。
さっきまで何もなかった海面に、突如として現れた5艘の見事な船――それを、ただの幻だなどと片づけることはできない。
(これが“神童”と噂されるお方の……本当の力なのか……?)
幸隆の驚きは無理もない。
もっとも、この“スキル”のことを他家に漏らすのは厳禁としている。……とはいえ、たとえ話したところで、信じる者はまずいないだろうけどね。




