51話 北畠の旧臣との対話
天文10年(1541年夏)10歳
伊勢を領地とした後、旧北畠の生き残りの家臣30人ほどを集め、“俺が目指す国づくり”と“家臣に土地の領有をさせず、役職と仕事に見合った収入を銭で払う仕組み”について説明を行った。
ちなみに、役職と仕事に見合った収入は、他家の家臣たちの収入実態を調べ、その平均的な額の2倍を基本にしている。
また、良い仕事をした家臣には、ボーナスとして一時金も支給している。
太っ腹じゃなきゃ、いい家臣は集まらないのだよ。
俺は貧乏大名とは違うからね。
この仕組みを導入する目的は“土地の領有をさせないこと”なのだ。収入額については、当世の感覚と乖離しすぎないようにしつつ、家臣のやる気が落ちないよう、重臣たちとも相談しながら慎重に調整しているのだ。
説明の後に“新北畠の家臣となりたい者”、“帰農したい者”、“国外に出たい者”に分かれてもらった。割合としては6:2:2くらいだった。
はっきり言って、俺は北畠の家臣はあまりほしくはない。晴具さんが人を育てることをしていなかったからだ。
領民には尊大、当主にはイエスマン。
これでは役に立たないどころか害悪でしかない。
とはいえ、伊勢国の独特なローカルルールを知る者が、少しはいてもいいかなくらいに考えている。
ぜひ新北畠の家臣となりたいと早々に意思表示してきた鳥屋尾満栄を、旧北畠臣団の取りまとめ役に命じた。
旧家臣団に謀反など起こされては面倒なので、満栄には旧家臣たちとじっくり面談してもらい、新北畠の方針に納得できない者や、やる気のない者は、なるべく国外に出るように仕向けるよう指示しておいた。
必要であれば、多少の支度金を出してもよいと伝えてある。
お金は余っているからね。
満栄には、前世で言えばTOBで買収した会社の社員への意向確認と、転職希望者への転職斡旋をさせているようなものだ。
それでいて俺、新社長は買収した会社の社員の能力をまったく評価しておらず、全員に転職してもらいたいと望んでいるっていう感じ。
なんか回りくどいかな。戦国時代なんだから、スパッとまとめて放り出すとかでも良かった気がしてきた。失敗だったかな? でも始めちゃったしね。
満栄には、この面倒な仕事を今年中に終えるよう命じておいた。実のところ、北畠の家臣なんてどうでも良かった。
だが、前世の記憶では満栄は仕事ができる奴だったはず。
だから今回、力量を試してみたのもある。これも回りくどいね。
できれば満栄には、伊勢の内政の要になってほしい。
内政の基本アイデアは俺が考えるとしても、補佐しつつ創意工夫を凝らしながら、アイデアを実現に導いてくれる内政統括官が必要だ。
そういう、タフ・ネゴシエーターとしての資質も求めたい。
これから伊勢では、各種産品の開発、港や道路整備、村々で発生する諸問題の裁定など、やることが山積みだ。
部下をまとめ、領民や寺社とタフな交渉を行いながら、交渉事を上手くまとめ、内政を少しずつでも前進させてほしい。
伊賀では村井貞勝が実に上手くやってくれている。やっぱり貞勝はすごい。
それにしても、伊勢という国は海があって港があるのが良いね。
伊賀では無理だった塩の生産ができるし、魚も獲れる。前世では滅多に食えなかった伊勢海老も獲れる。
魚は干物に加工すれば高値で売れるし、日持ちもする。
気候も温暖だから農作物もいろいろ作れる。
お茶や綿花など、現金化できる作物も育てられるはずだ。
北畠は米しか考えてなかったのだろうが、農作物は焼酎のように加工してこそ儲けが大きくなるのだ。
綿花もそのまま売るつもりはない。
加工して衣類や布団、帆船の帆などに仕立てて販売し、大儲けするつもりだ。
商品の運搬も重要だ。急坂の狭いデコボコ峠道を荷物背負ってトコトコ歩いていたのでは、大量輸送なんてできやしない。
だが港を整備すれば、船を使って貿易ができる。船を使えば商品を大量に運べる。つまり、商売の儲けが桁違いになるということだ。
いろいろ考えていたら、“北畠は、いったい何してたの?”という結論にしかならない。こんなに儲けるチャンスに溢れた国はそうそうない。
しかも伊勢神宮は参拝者が絶えない大観光スポット。観光資源だってある。
……こんな恵まれた立地条件は、そうそうありません……。
そんな話を、意向確認に呼んだ旧北畠の家臣たちにしたつもりだったが、彼らの顔を見る限り、理解できているようには見えなかった。
“そんなの、出来るわけない”、“やったことないから分からない”、“今までと同じで何が悪い”、“やることを具体的に言ってもらえば従うのに”──彼らの心の中の声は、そんなところだろう。
(ダメだわ、こいつら!)
教育って大事だね。
それに人が育つまでには、時間もかかるのだ。




