48話 北畠伊勢守三蔵
天文10年(1541年春)――10歳
「血筋を変えたいんだ〜。そうなんだ! そうなんだ! うん! うん!」
「銭しだいだよ〜……羽林家もいけちゃうからね……希望は何かあるかな? 高いのから安いのまで、いろいろあるから、目移りしちゃうよね……」
山科のおっさんのセールストークが炸裂している。
熱血営業マンかよ!
「こういうのは麿の得意分野だよ! 他の公家に話を持っていったら絶対ダメね! わかるよね!」
「麿に任せれば安心だからね! 麿の専任契約ってことにてくれる? 頼むよ! いい仕事するからさ……」
「何なら過去の事例一覧とか、相場一覧表も見せようか?」
まだ続くんかい……
「で……肝心な話だけど……いくらまでなら出せるのかな?」
ようやく銭の話にたどり着いたか……長かったセールストークも、ようやく終着駅が見えてきた。
いやもう、山科のおっさんの営業力、さすがとしか言いようがない。
まさに“しゃべる打出の小槌”。
言葉の一振りで銭をどんどん引き寄せるその姿、神々しい!
俺は、ただただ圧倒されるばかり。伝統芸の凄みを見たぜ!
(正直なところ、血筋ロンダリングなんて、もっと命がけの大仕事だと思ってた)
「何という不敬な発言」と怒鳴られるかと身構えていたら、むしろノリノリで話が進んでいく。
……で、結局、いつもの値引き交渉という名の心理戦を経て――5,000貫で手を打ってもらった。
ああ、これぞ“山科流”か。
こっちはヘトヘトなのに、あの人、最後まで顔色一つ変えなかった……。
一流だぜ。感動した。
その後の仕事は――早い! 実に早い! まるで手品か。
さすが山科のおっさん、手慣れすぎてて逆に怖い。
適当にでっち上げた家系図が、気づけば立派な“公式書類”に昇格していた。
あの“知る人ぞ知る名将”、北畠顕家の血を引くという、由緒正しき公家の家柄がなぜか登場。
しかも俺、その家にサクッと婿入りする手筈になってるらしい。
え、婿入り済みの家系図まで用意済み? 早すぎない?
なんなら婿入り披露宴のニセ席次表まで出てきそうな勢いだ。
こうして俺は、“北畠三蔵”に華麗に変身したのだ。
“血筋ロンダリング”、まさかのスピード完了。
……こんなんでええのか? 本当に?
かくして――
俺は正式に「従五位上 北畠伊勢守三蔵」を襲名したのである。
事前に説明しておいたから、オヤジたちも喜んでくれる。
母や嫁候補たちも大喜び!
もちろん家臣たちもだ。
けど、“従五位上 北畠伊勢守三蔵”に至るまでの過程を知っている俺は、素直には喜べない……。
主上には、米焼酎と麦焼酎、蕎麦焼酎のほかに、椎茸なんかもいっぱい送っておこう。
オヤジたちから「この機会に、許嫁たちと祝言を挙げろ」と言われる。
北畠の名をもらうために元服は済ませているので、10歳だけど結婚はOKなのだそうだ。嫁はもっと子供だよ!
「どちらが正妻になるかで揉めないかな?」と思っていたら——
オヤジたちの評定の結果、正室の座は“空席のまま”にしておくことになったらしい。
桔梗と桜は、それぞれ側室として祝言を挙げる手筈だ。
理由は簡単。
将来、どこかの有力大名と婚姻同盟を結ばねばならないヤバい局面が来るかもしれない――という、実に戦国流リスク管理だ。
正直、俺としても正室の座は“戦略カード”として残しておいたほうがいい気がしていた。
前世みたいに、恋愛して結婚して、幸せになって――なんて流れは、
この時代にはそもそも存在しないんだな。
ここは戦国時代。
愛よりも、地位と家名と同盟の話が先に来る。
……ロマン? そんなもん、戦で吹き飛ぶ。
ちょっと悲しいね。
このままいけば、もう1人くらいは嫁さんが増えるだろうな。
現代人の感覚では、嫁3人は多すぎると思うけど、この時代では当たり前なのかな?
結婚すると、3人の嫁それぞれに気を使わないといけないから、現代人の俺は、正直、疲れそうだ。
この時代にも夫婦喧嘩とかあるのかな?
式は秋に行うことになる。
その前に、国のいろんな用事を終わらせておかないとね。




