47話 血筋ロンダリング
天文10年(1541年春)――10歳
幕府と六角家が、俺たちを敵視している。
別にいいけどね。元々敵だしね。
ザコの朝倉義景は放っておくとして、三好家とは防共協定みたいなのを結べないかな?
……でも、戦国時代に“協定”なんて意味あるのかな?
たぶん人質交換とか婚姻とかがセットでないとダメなのだろう。
やっぱ、両方とも嫌だね!
三好家は、“悪逆非道な管領はヘソ噛んで死んでしまえキャンペーン”をやったのが俺たちだと、薄々気づいている。
少しはシンパシーを持ってくれているといいのだが。
前世の記憶では、三好長慶という人は室町幕府や公家、寺社といった旧体制の枠でしか思考ができなかったのだと思う。
若い頃に苦労して成功したすごい人だと思うんだけど、肝心なところでは俺とは話が合わないかもね。
三好との協定だけど、“敵にならないよう仲良くお付き合いしようね”ってくらいでいいのかな? 口約束レベルだ。
六角家は、当主の六角定頼が死ねば、ザコ大名家に転落する……だけど死ぬのはたしか12年後だ。
長いよね……。早く死ねと言ってるわけではないぞ!
この先、何があるかわからないから、早めに六角家を弱体化させておきたい!
六角陣営の“目と耳”――つまり、甲賀忍者をまるごとこっちに引き込めんでおこう。
情報が命の戦国時代。
どんなに定頼が優秀でも、リアルで正確な情報がなけりゃただのハゲだ。
そしたら六角家なんて、“チョロ大名”にランクダウンよ。
こっちからの欺瞞情報で、大混乱させることもできるしね。
あるいは――全然関係ない相手と、戦させてもいいし。
でもその前に、ひとつだけ――解決しておかねばならぬ重要な問題がある。
それは……俺の経歴だ!
気がつけば、伊賀と伊勢、2カ国の領主になっちゃってるわけさ。
これから先、他の大名たちとの外交を考えると、”忍者の倅”って肩書きはちょっとマズい。
というわけで、ここらで――血筋ロンダリング、やっちゃおうか!
変〜身☆ だよ!
「実は忍者の子じゃありませんでした! 先祖をたどれば、なんと高貴な血を引いていたのです!」
そんなありがちな展開で、俺のプロフィールをバージョンアップしたい。
具体的には……北畠の名前を拝借できると、これがいろいろ都合がいいのだよ!
サクッとできそうでもあるけど、戦国時代といえども、さすがにそれは無理じゃないかという気も少しする。
ダメ元で山科のおっさんに聞いてみるか。
あのおっさん、銭さえ払えば何でもしてくれそうだしね。
でもね、あのおっさんも朝廷の財政のために頑張っているわけだから、あまり悪く言うのも良くないな!
いろいろ動く前に、オヤジたちには「なぜ血筋ロンダリングが必要なのか」を説明しておかないとダメだ!
そうしないと「おまえは忍者の血筋が嫌なんだな! この野郎!」と怒られるかもしれない。
これから先、いろんな大名と渡り合っていくには、それなりの“肩書き”ってものが必要になる。外交ってのは、理屈より形式が大事なときがあるのだよ!
だからこそ、ちゃんと説明しておかなきゃいけない。
これは、未来のための、“戦略的血筋ロンダリング”なのである!
仁木に命じて、山科のおっさんに連絡とってみるか……
さすが、おっさん、動きが早い……
山科のおっさんの脚力は忍者並みだと思うぞ。
京から伊賀上野城まで、なんでこんなに早く移動できるのだろう?
“山科流忍術”とかあるのかな?
……またかよ……山科のおっさん、いつものパターン。
例によって、長〜い沈黙からスタートする。
それ……必要?
しかし、もはやこれ、不動の公家流古典芸能なんじゃないのか?
こっちはその間に別件の段取りを考えられるから、別にいいけど。
……時間の有効活用ってやつだ。
で、ようやく口を開いたと思ったら、話がまた長い。
内容はまあ、毎度のごとく煮え切らない物言いだけど――
要するにこういうことだ。
「戦にも勝ってるし、景気もいいらしいじゃない」
「商人の噂でも“伊賀はずいぶん儲かってる”ってよく聞くよ」
「で、いくら銭出せんの? ん?」
……ってとこか。
はいはい、要は“どれだけむしり取れるか”を少しずつ探ってるわけね。
公家ってほんと、やり口がエレガントなだけでヤクザだ。




