45話 将軍への宅急便
天文9年(1540年 夏)――9歳
まったく――どいつもこいつも、ろくなことを言いにこない。
あのアホ将軍・足利義晴の奴め。
言うに事欠いて「伊勢を幕府に寄越せ」と来たもんだ。
何を血迷ったか、幕臣に伊勢の土地を配りたいということらしい。
おいおい、誰の土地だと思ってんだ?
俺のものだぜ……!
しかも六角家の野郎が「そうだそうだ、それが筋というものであろう」などと追従しているとか。
お前ら……将軍のオウムか?
幕府なんぞ、今や名前だけの飾り野郎のくせに――何を寝言こいてるんだよ。
「幕臣です」とか名乗ってるけど、じゃあ聞こう。
お前ら、何ができるの? 薪割り? お使い? 城の掃除?
……何か一つでも役に立つことできるなら、言ってみろって話だ。
で、その“幕臣様”が、何度も上野城にノコノコやってくるんだ。
それで俺、言ってやったのさ――
「そんな奴には、“この狐憑きめ!”と怒鳴って、足元に数発ぶち込んでやれ」とな!
門番たちも実にいい仕事をしてくれている。
「この狐憑きめ!」と大声を張り上げたかと思えば、足元にパァン! パァン!と鉛玉をプレゼントしてくる。
伊賀のおもてなしを、堪能してくれてありがとう。
幕臣たち、毎回テンプレのように「狐憑きではない! 何度言わせるんだ!」と怒鳴りながら、足踏みダンスで退散していく。
足踏みダンスを“幕臣伝統芸”にしたらどうだ。
忘年会芸としてな。ウケると思うよ。
……バカの相手は疲れる。
最近ちょっと、俺もヤクザ病が酷くなってきた気がする……。
いかん! いかん! 上品にしないと、可愛い嫁たちに嫌われる。
さて――
幕臣と名乗る“狐憑き”の方々があまりにしつこいので、ついに将軍様へ“宅急便”をお送りすることにした。
伊賀の名産、“新鮮な地鶏”だよ。
ただし、首から上だけだけどね――。
下の方は、焼き鳥として、ありがたくいただくから。いらないやつね。
伊賀の“腕利きの忍者宅急便”にとって、京の警備など朝飯前さ。
お妾さんとご就寝中の将軍様の枕元に、そっとお届けしてまいりました。
ラッピングは不要、お届け希望時間帯は“明け方”ですね。
その晩、将軍の寝室から――
「ギャァァアアア!!!」
と、京の町中に響く悲鳴が上がったとか上がらなかったとか。
一説には、「コケ、コッコー」と鳴いたらしい、真相は闇の中。
そのまま鶏になってしまえば良かったのにねぇ。
将軍様はそのまま気を失い、しかも失禁したとか。
目覚めてからも、しばらく寝室から出てこられなかったそうです。
お隣で寝ていたお妾さん――ごめんなさい。
でも、一番悪いのは、しつこい将軍様ですのからね!
まあ、私だって朝起きて、枕元に“血まみれの鳥の首”がいくつも並んでいたら、多少は驚くかな……
でもね、武家の棟梁だよ! 失禁はダメでしょう。
これで将軍様には、十分おわかりいただけたことだろう。
「いつでもおまえの首も、スパッとできるよ!」――という丁寧なメッセージ。
しばらくは静かにしてくれることを願いたい。
幕府? あんなものね、どこかに捨ててこい。
こちらは忙しいのでね。
幕府なんか、こんなもんで良い。無視、無視。
俺が部屋でお茶をすすりながら、ひと息ついていると――
道順が満面の笑みで部屋に現れた。
「どうした? 妙に嬉しそうだな。いいことでもあったのか?」
「いや〜、色々とございましてな〜!」
道順が、もったいぶった様子で腰を下ろし、話し始める。
「幕府だか六角家だか分かりませんが、まあいわゆる刺客どもが、上野城の城下町をうろうろしておりましてな。ざっと10組。うっとおしいので、すべて返り討ちにしてやりましたぞ!」
「……俺を狙ってか? 確かに最近、頻繁に領内の視察で外に出てたからな。仕留める機会を狙ってたのだろう。まったく、ひどい連中だな。道順、ご苦労だった」
「いや〜、殿もすっかり有名人でして!」
「いや〜、それほどでもないぞ」
「それにしても、仕掛けてきた連中、どれも剣術の達者な武芸者ばかりで。おそらく“幕府に仕官させてやる”とでも甘言を囁かれたのでしょうな」
「そんな連中と立ち合って、大丈夫だったのか?」
「いやいや、面倒な立ち会いなんぞ、しませんよ。殿からいただいた拳銃で――
遠くからズドン! それで一巻の終わですぞ。」
「それはで……武芸者も浮かばれないな」
「ええ、“卑怯なり……”とか、毎回律儀に言い残して倒れていきますな」
「おいおい、暗殺に来ておいて“卑怯”とは、どの口が言うのだ……」
「まったくです。しかし、この拳銃――本当に優れものですな!」
「そうだろう! 引き金を引いておいて、こうしてこのレバーを手のひらでポンポン叩くと連射もできるのだぞ! 面白いだろ!」
「おお〜、面白いですな! 今度試してみます」
「殺し屋を送っている間は、六角家も動かないだろうな! しかし幕府と六角家は、“忍者調査隊”にしっかり見張らせておけよ」
「六角家が動きますかな?」
「そうだな、六角家が動いても、そんなに怖くはない。戦に勝っても六角家は残しておきたいと思っている。六角家を残しておけば、公家や幕府、寺社に対する防波堤として役立つ!」
「公家や幕府、寺社の相手なんかしてられないからな。六角家を残しておいてやる代わりに、そいつらの世話係をやってもらうつもりだ」
道順は思う……
この方と話していると、俺の方が年下なのではないかと錯覚してしまう。
2カ国の領主となったにもかかわらず、まったく気負いがない。
しかも、自分で決めたことを、淡々と実行されていく。
戦国時代はいずれ、どこかの国に覇王が育ち、天下を統べていくのだろうが。
自分は、この方が治める日の本が見てみたい。
この方といると、本当に楽しいのだ。
俺を見てニヤニヤしないでほしい。
不気味だぞ、道順!




