44話 人材なき組織の末路
天文9年(1540年夏)――9歳
北畠では、長年にわたり“上意下達スタイル(トップダウン方式)”が組織運営の基本だった。
当主の決めた方針に、家臣たちはただ黙って従えばよかったのだ。
このやり方が長く続けばどうなるか――
家臣たちはリスクを背負って意見を述べる必要もなく、忠誠心さえ見せていればそれで良しと考えれば良かったのだ。
だが、適度な“ボトムアップ方式”を取り入れなければ、トップは現場の状況や問題点を知ることはできないし、自ら考えて行動し、提案できる人材も育たない。
結果として、北畠に残ったのは、
“剣術は達者でも、考える力を持たぬ家臣”、
“勉強を厭い、新しい知識を身につけようとしない家臣”、
“忠義の型ばかりに秀でた家臣”ばかりだった。
そうして――
ポット出の新興勢力・伊賀に、老舗の名門・北畠はあっけなく滅ぼされた。
結局のところ、“人”こそが最大の資産であり、滅びる組織には、それがいなかったということだ。
ボトムアップ方式を取り入れなかった北畠の内政はどうだったのだろうか?
領内の状況や問題点は当然把握できないし、自ら考えて行動し、提案できる人材が育たないとなれば、結果は推して知るべしだ。
もちろん、トップダウン方式でもうまく内政を回せるケースはある。
自前の情報網を持ち、領内すべての動向を把握し、的確に判断・処理できる“スーパー有能な当主”が存在する場合だ。
しかし、そんな領主など、戦国時代に存在するはずもない。
ましてや、北畠晴具……! 無理、無理。
じゃあ、内政どうしてたの?
当主ポンコツ、家臣もポンコツ。
よくまあ、ここまで国が潰れずに持ちこたえてきたもんだ。
いや、たぶん……
“回っていた”んじゃなくて、“止まっていたことに気づいていなかった”だけじゃないか?
たとえば、土地や水利権の調整なんて、その場その場の“気分”で、適当に処理してきたんだろう。
理屈も先も読まずに、“今日うるさく言ってきたヤツの肩を持つ”――そんなノリだ。
当然ながら、新しい産品の開発なんてしていないはず。
「国を豊かにするにはどうするべきか?」なんて発想は、最初からなかったに違いない。
ただ、兵糧が欲しいからという理由だけで、農民に“米を作れ”と命じる。
売るためでも、民のためでもない。
“昔からそうしてきたから米を作るのだ〜”程度だろうな。
話にならん!
考えてみたら、当主も家臣も銭を増やす能力なし。
ただ消費しているだけ!
給料高そうな武芸達者な家臣もたくさんいたはず。
当然、財政は苦しくなるよな。
苦しくなれば、何も考えず年貢の税率を上げたのだろうな。
まったく……バカとしか言いようがない。
はっきり言って、統治能力はゼロだ。
伊勢の民にしてみれば、たまったものじゃなかっただろう。
そのうえで、“敵陣に突っ込め農民兵!”なんて命令を出された日には……やってられないにも程がある。
家臣たちに、塚原なんとかさん直伝の剣術を習わせて――
“これで我が北畠は盤石ぞ!”なんて、鼻高々になってたんだろうな。
……笑わせるなよ。武芸だけで国が守れるなら、誰も苦労はしない。
そんな幻想を信じて悦に入ってたなら、いっそ豆腐の角にでも頭ぶつけて、目ぇ覚ませ。
武芸達者な家臣なんて鉄砲でズドン、それで終わりなのだよ。戦のやり方は常に変わっていく。武芸達者な家臣を主力にしても意味がないのだよ。
常に新しい技術を取り入れないと兵は強くならない。
新しい技術を取り入れれば、当然戦のやり方も変わる。
武将には、新しい技術を受け入れる柔軟性と、新しい技術に基づいた戦術構築能力が必要なのだよ。
内政も軍事も、常に努力し、進化・発展させないとダメ。
そのためには、自分で考え、いろんな事にチャレンジできる家臣が、そして考え方の異なる色々なタイプの家臣が必要なのよ。
そうでなければ、富国強兵なんて無理だ。
ボトムアップで人を育てろ!
ちなみに俺はというと、忙しいのもあるが、家臣に仕事をバンバン丸投げしている。
(自慢にはならないか……もちろん意見交換、進捗状況のチェックはしているけどね)
でもそれが、結果的に家臣たちの人材育成に役立っているかもしれない。
学校も作っているし。良いように解釈しておこう。
しかし、領地が増えると、またまた人手不足になるな。
学校で文官教育をしてきた子供たちに、そろそろ戦力になってもらおう。
すごく期待しているぞ……。
とにかくまずは文官を早く補充しないと、俺が疲れ果てる……。
とりあえず北畠領の土地や水利権の調整に関する仕事は、オヤジたちにやってもらう。
これは経験がいるし、年を取っていることも重要なんだ。
3人もいるのだし、大丈夫でしょ。
その他の内政は、俺が文官教育で育てた子供たちで回そう。
伊勢神宮とかとの調整は後回し。面倒そうだからね。困ったら何か言ってくるでしょ。
「3人で伊勢をよろしく。特に土地や水利権に関する調整ごとを頼みます。その他の内政は文官教育で育った子供たちで回すからね。安心してください」
「面倒な土地や水利権に関する調整も、その子供たちが育ってくれば、やってもらえるようになるからね」と明るくオヤジたちにお願いした。
「なんじゃと……絶対嫌じゃぞ〜。俺たちには無理! 無理! 無理!」とオヤジたちは拒否してきた。
「霧山城をあげるから、忍者の修練場でも何にでも改造して良いよ」と言ったら、すごくニコニコしている。やる気になったか!
あんな山城、何に使ってもらっても結構だ。はっきり言って、いらん!
だってね……霧山城、すごい山城なんだよ。
俺の認識としては、何の役にも立たないポンコツ城だ。
北畠は何でそんな城を作ったのだろう。何がしたかったのかな?
山に自分たち一族が籠もって、安心していても意味がないのに。
とりあえず、これでしばらくは伊勢を回していけるはずだ。




