42話 長野軍と関軍 降伏か、破滅か
天文9年(1540年夏)――9歳
戦意なき兵たちは、わずか一撃を受けただけで総崩れとなり、隊列は乱れ、陣形は音を立てて瓦解していく。
この好機を、藤堂と島が見逃すはずがない。
「今だ! 敵武将の首を獲れ! 総攻撃だ!」
怒号のような号令が戦場に響き渡る。
その瞬間、左右に控えていた槍隊が疾風のごとく展開。大きく弧を描くようにして敵の側面を突き、包囲殲滅の陣を構築していく。
逃げ場を失った敵兵たちは阿鼻叫喚の中で混乱し、もみくちゃになりながら後退しようとする――しかしそこに、容赦のない銃声が重なる。
ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン!
ライフル隊も追撃に加わり、射撃の間隔を詰めながら着実に前進。
焦りと恐怖に呑まれた敵兵は、なす術もなく倒れていく。
戦場には、悲鳴と銃声、そして怒号が交錯していた。
「ぎゃあああ!」
「うわっ、もうダメだ!」
「助けてくれぇ! 降参する」
中には、刀を捨て、両手を挙げて命乞いをする武将の姿すらあった。
「おい、それでも武士かっ!」
槍兵たちが怒声を浴びせるも、降伏されてしまうと、さすがに首を取ることはできない。足元にひれ伏す敵兵に槍を向けるが、そのたびに歯ぎしりを噛むしかない。
だが、逆にいえば――無傷での敵捕縛という理想的な成果ともいえる。
敵の当主、そして一門衆を含む主だった武将のほとんどを、生け捕りにするという戦果を前に、藤堂と島はしばし言葉を失う。
「……なんという体たらくだ。お前らが攻めかかってきたのだろうが!」
「自分から攻めてきて、不利になったらさっさと降伏とは! あまりにもバカすぎであろう! 呆れて怒る気にもならんぞ……いったい、なんなんだこいつら!」
藤堂と島は敵の不甲斐なさに呆れている。
(まあいい。関家や長野家との戦は、勝てば終わり――という単純な話ではないからな)
関家や長野家の領地をまるごと奪ってしまえば話は早い。
だが、そうすれば奴らの背後に控える六角家が黙ってはいまい。
いまは北畠との戦に集中すべきなのだ。
余計な火種を増やすわけにはいかない。
であれば、関家と長野家にはたっぷりと賠償金を背負わせ、二度と立ち上がれぬほどに骨抜きにしておく必要がある。
そんなことを考えながら、藤堂と島は、項垂れる捕虜たちを引き連れ、粛々と長野家の城へと向かっていった。
藤堂と島は、縄で縛られた捕虜たちを従え、堂々と敵城の前に姿を現した。
「――開門せよ」
声は低く静かだが、その一言には抗いがたい威圧が宿る。
しばしの沈黙ののち、重々しく門が開かれた。
城兵たちは顔を強張らせながら道を空け、藤堂と島は捕虜たちを引き連れたまま、一歩一歩、城内へと進んでいく。
同時に、関家へも使者を走らせ、留守を預かる一族や重臣らを長野家の城へと呼び出した。
やがて――
評定の間に通されたのは、かつてこの地を支配していた当主と一門、重臣たち。
後ろ手に縄をかけられたまま、一列に膝をつき、うなだれる彼らを見下ろす位置に、藤堂と島は無言のまま上座に陣取った。
刀を抜いて睨みを利かせるが、彼らの態度はどこかふてぶてしい。
自分たちには六角家の後ろ盾がある。
そう高を括っているのだ。
(こんな真似をして、お前らこそ……六角家に殺されるぞ!)
そんな思惑が顔に出ている。
藤堂はその油断を見逃さず、2人の当主の首に刀をピタリと当てる。
「賠償金として、それぞれの家より、5万貫ずつ差し出すよう申しつける!」
鋭く言い放つが、当然、返答はない。
すぐさま兵に命じ、城内にある銭、武具、衣類、掛け軸、骨董品、さらには米蔵の米まで、ありとあらゆる財を庭へ運び出させた。
「関の城にも兵が向かっている。あちらの財もすべてここに持ち込ませる。だが、それだけでは到底足りぬ。残りの五万貫ずつを用意いたせ。さもなくば、両家の当主とその一族、まとめて首を刎ねるまでよ!」
それでもなお、返ってきたのは「そんな銭は当家にはない」という決まり文句にすぎなかった。
***
その対応をどうするか、伊賀の俺のもとへ“忍者速達便”で問い合わせが届いた。
俺は即座に返す。
「両家お抱えの商人たちから、城と領地を担保に、限界まで借金させろ! 賠償金を払わせたら、人質は解放せよ」と。
……もう、俺は……ヤクザが伝染ってしまったのかな?
それとも戦国の世に順応して、この世界の立派な普通人になったのか?
ちょっと心配だ。あんまり戦国の世に染まりたくはない。
関家・長野家の国力を徹底的に削ぎ、いざ伊賀と六角家が戦になったとしても、彼らが援軍を出すことができないように——財布の底までしゃぶり尽くしておかねばならない。
できれば、足りぬ銭を六角家から借りてくれれば、言うことなしだ。




