40話 防衛戦 霧山城制圧
天文9年(1540年夏)――9歳
「全員、集合しろ!」
オヤジたちが特殊部隊を集める。
「あの立派な屋敷だ。一族が立て籠もっているはずだ。さっさと落とすぞ。ただし接近戦は禁止だ。遠くから拳銃で始末していくのだ。遺体を確認したいから榴弾は使うなよ」
立派な屋敷の門の前には篝火が焚かれ、50名もの武者を従えた嫡男の北畠具教が立っている。
「穢らわしき忍び風情が、北畠の奴隷として黙って働いておればよいものを……。ここに控えておるは、皆、剣の達人ぞ。貴様らごとき、ことごとく斬り捨ててくれるわ! 覚悟いたせ!」
若き具教は、自信に満ちた面持ちで言い放った。
さらに、拳銃を撃ちかけてくる忍びたちに向かって、声高に叫ぶ。
「飛び道具でしか戦えぬとは……所詮、下賤なる忍びどもよのう! 正々堂々と剣を抜くことすらできぬとは、実に哀れなり!」
その言葉に反応することもなく、特殊部隊は遠くから拳銃で次々に武将たちを始末していく。
剣士たちは口々に「飛び道具など卑怯なり。堂々と立ち会うがよい」と叫ぶ……
「戦に卑怯も、堂々もあるか。戦とは、ただ敵を殺すだけよ」とオヤジたちが冷静に言い返す。
やがてすべての武者が倒れる。辺りが静けさに包まれる。
それでも、北畠具教は剣を抜いたまま、一歩も退かずに立っていた。
「ほう……まだ息のある者がいたか」と影から俺のオヤジ、百道三太夫が姿を現す。
具教は血に濡れた地面を睨みつけながら、静かに息を吐く。
「身分卑しき忍び風情が……この我に挑むとは、面白きことよ。よかろう、貴様の相手、してやろうぞ。――かかってまいれ!」
オヤジは一歩も動かない。
「……断る」
「なに?」
「これから我々には、やるべきことが山ほどある。お前の相手などしてやる時間などないわ」
その言葉が終わるより早く、乾いた銃声が響く。
銃弾は正確に具教の胸を撃ち抜いた。
ぐらり、と具教の身体が傾く。
「まさか……我が……このような身分低き者に……」
最後の言葉を残し、北畠具教は音もなく崩れ落ちた。
火の粉がちらちらと舞うなか、彼の死を悼む者など、誰一人としていなかった。
特殊部隊の数名に命じ、屋敷の中の様子を確認させる。
屋敷の中を偵察した者たちから、子供を含め一族らしき者のすべてが自決していたと報告を受ける。
***
本丸への登り口では、服部が率いる精鋭200人が、狭い山道を固めていた。
そこへ、銃声と爆発音を聞きつけた農民兵600人が、武将の号令のもと、一斉に殺到する。
怒号と足音が山肌を揺らす。戦意だけは旺盛だが、訓練も不十分な彼らにとって、この登り口はあまりにも険しい。
「来たぞ……撃て!」
服部の指示とともに、前方の兵が一斉に火を噴く。狭い道に詰まった敵兵に向け、容赦なく銃弾と榴弾が浴びせられた。
パァン! パァン! パァン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
密集隊形の農民兵たちは、次々と撃たれ、爆風に吹き飛ばされて斜面を転げ落ちていく。
火薬の煙がこもり、あたりに硝煙の匂いが漂う。
前方の兵が倒れても、後ろから次々と押し出され、山道はまさに“血の渋滞”と化していた。
約600人いた兵は、半数以上が倒れ、400人を切ったあたりで、ついに陣形が崩れた。悲鳴が飛び交い、後退の声も届かず、我先にと山を駆け下りていく。
服部たちは即座に追撃に移る。
恐怖に駆られて逃げ惑う農民兵の中、数名の武将だけが必死に踏みとどまる。
だが、それも長くは持たない。
パァン! パァン! パァン!
1人、また1人と正確な狙撃に倒れ、最後の一人が斬り伏せられたとき――戦闘は終わった。
山には再び、静寂が訪れた。
***
オヤジたちは生き残りがいないか城内を確認させた後、100人程度の特殊部隊を山道の途中の郭に配置し、残りの300人とともに山道を下っていく。
山道を途中まで駆け下りたところで、北畠本体を見張らせていた“忍者調査隊”から、北畠軍敗走の知らせを受ける。
「聞け! 伊賀軍の勝利だ!」
伊賀軍勝利の知らせに、特殊部隊は歓声を上げる。
「俺たちは勝ったぞ〜! 北畠に勝った! 武士に勝った!」
叫びながら肩を抱き合う者、膝をついて天を仰ぐ者、感極まって嗚咽する者もいた。
これまでの訓練と犠牲の日々が、勝利という結果で報われたのだ。
「喜ぶのは早いぞ。まだ戦は終わっていない。俺たちは俺たちの仕事をするぞ!」とオヤジたちが特殊部隊に気合を入れる。
「北畠軍の残党がこの霧山へ敗走して来る! 山道の要所で待ち伏せろ! 敵を油断させて山道の上まで登らせよ。そこを一気に叩くのだ!」
「一門につながる武将は、ひとり残らず討ち取れ! 農民兵は相手にするな、逃がして構わん! 我らの手で北畠にとどめを刺すのだ!」
霧山城に向かって敗走してくる一門の武将を、要所要所に身を隠した特殊部隊が拳銃と榴弾で確実に始末していく。
パァン! パァン! パァン!
ズドーン! ズドーン! ズドーン!
一門ではない武将で降伏する者には縄をかけ、自決を望む者はその場で死なせたのだ。




