4話 特典なきゃ、死んじゃうぞ
頭の中に、女性の声が響いてきた。あのときのテレパシーだ。便利っちゃ便利だが――今はそれどころじゃない。
確認したいのは、ただ一つ――特典は、あるのか。ない……はなしにしてくれ。
『転生おめでとう。私はこの世界を管理している神の1人。この国の言葉で言うなら……“豊穣神”ってところかしらね』
お、おう……まずは状況整理からだな。
『この世界って、いったいどんな場所なんですか?』
神様は淡々と語り出す。その説明によれば――どう聞いてもここは日本の戦国時代。
“で、あるかの信長”とか出てくる、あの物騒極まりない時代っぽい。
(……ちょっと待て。俺、人助けして死んだよな!?)
せめて、せめて平和な時代に生まれ変わるべきじゃないのか!?
その資格はあると思う。自信を持って思う。
それともなにか? この転生システム、エラー起こしてる?
いやいやいや、納得できるわけがない。
ていうか――俺の“特典”はどこいった!?
“人助けで死んだら特典がある説”、よく聞くやつだよ!
あれはただの幻想だったのか?
いや、命かけて善行を果たしたのに報酬ゼロって、おかしいだろ!
この流れからしておかしい。絶対おかしいぞ。
『すみません。この転生先なのですが、どういう理由で選ばれたんですか?
人助けして死んだ身としては、もう少しこう……なんかですね……優遇措置的な……何かかですよ……』
『ごめんなさいね。そういう“特典”的なものは、実は何もないの。転生先は完全ランダムなのよ。ルーレットみたいなもの……わかる?』
……はい、特典なし確定。転生先ランダム宣言、いただきました。
俺は、ルーレットの玉……?
その言葉が、頭の中でリピート再生中。
ぐるぐるぐるぐる、∞ループ状態。
(……マジかよ。俺、けっこう壮絶な死に方したのに……?)
期待度MAXで挑んだ転生ガチャ。
引き当てたのはまさかの――“戦国時代☆餓死&戦死のデスロード!”
なんだこれ、どんな罰ゲームだよ!
はいはい、大ハズレ引いたってことで了解……納得できるかい!
(……くっそ、誰か時間を巻き戻してくれ)
あの瞬間に戻れるなら――人助け? 全力でスルー一択だわ!
あんなもん、即Uターンで現場離脱してるね。
命張ってこの仕打ちとか、どう考えても“死に損”じゃねぇか!
そして神様がこのまま「じゃあがんばってね〜♪」とか言い出したら――
俺の転生人生、即終了。
ここで引いたら終わりだ。
生き残るための――最後の、命がけの交渉だ。
理屈で押し切るしかない。論破だ。論破!
『神様。記憶が確かなら、この時代の乳児って、成人前に半分は死にますよね?
原因は――
“不衛生な環境による疫病”、
“農業知識皆無による飢饉”、
“無知と権力争いによる戦乱”……。
つまり、生き残れる要素ゼロなんですよ?
……ちなみに、ちなみに、この時代に転生した人たちって……無事に人生を全うできたんですか?』
『全員、死んでるわね〜』
(……なんですとォ!?)
え、今の一言で全部終わった感あるんだけど……?
体の芯からスカスカになる感覚……これ、まさか“絶望”の実感ってやつ……?
じっと神様を睨みつけてみる。
俺は怒ってるんだ、という意思表示くらいしないと。
……ん? 神様の表情、ほんのちょっと変わった?
(おぉ……効いてる!)
さすがに転生者全滅はヤバいだろ。
ここが勝負どころだ。ここで引いたら――一生、苦い雑草食って生きる羽目になる!
『それはさすがに……転生者にとって酷すぎるのでは?』
言ってやった。もうどうにでもなれ。
俺の命、魂、そして転生後の人生、すべてこの一言に賭けた!
『――実はね、“秘密だけど”。この世界への転生者には、前世の記憶を持つ者を優先的に選んでるの。
だって、歴史知識があれば有利じゃない? その知識を使って、戦乱の時代を早く終わらせてほしいわけ。できるわよね? 簡単よね?』
(できるわけねぇだろ! 年表と戦国武将の名前がなんの役に立つ!)
『でもね、なぜか……死ぬのよね〜。長生きしないの。不思議だわぁ。
“治癒スキル”なんかを与えた人も何人かいたんだけど、結局……全滅。な〜んでかしら?』
(……ってことは、俺みたいに粘ったヤツ、前にもいたのか……この情報は助かる)
この交渉、完全に命懸けだ。ここで負けたら、マジで二度目の人生が即終了。
(にしても、この神様……)
秘密だっつってペラペラ話すし、
“優先的にランダムで選んだ”って、論理破綻してるし、
なにより――テンションがズレてる。
……なんかこの神様、おかしくないか!?
神様ってもっとこう、神々しくて荘厳で……いや、もういい。これは、残念神だ!
(これは……逆にチャンスかもしれない)
俺の“粘り勝ちルート”、ここから始まる!




