37話 防衛戦 峠の決戦
天文9年(1540年夏)――9歳
北畠軍の約3,000人の兵が青山峠に向かってきた。
こちらは街道に柵を設け、前衛にライフル隊、その後ろに槍隊、爆弾クロスボウ隊は左右の山の斜面に配置している。
北畠は剣術が盛んな家、剣術の猛者が多い。
確か剣聖の塚原ナントカさんが時々指導に来るらしい。
なんか少し羨ましい。
でも伊賀には剣聖はいないが忍聖がいるぞ!
それでよしとしよう。
それにこれからの戦は銃と爆薬だ。
そもそも、戦というのは決してカッコ良いものではない。
「や〜や〜、我こそは……の生まれ……いざ尋常に勝負……」とかの口上を、長い時間かけて名乗り合う。
満を持して両陣営を代表する武将が騎馬に乗って現れて一騎討ち。
その勝敗で戦の勝敗が決まる。
そういう、古式ゆかしい戦であるならば、お互いの武将が磨き上げてきた武術を披露する試合のようであり、格好いいのかもしれない。
しかし、銃が主力になってくれば、いかに低予算で、短時間に、たくさんの人を殺せるかに変貌していくはずだ。
効率がすべての戦に、美学なんて入り込む余地などない。
あるのは、人間の冷酷さを突きつけられ、ただ無惨に命を奪われる現実だけだ。
(やはり戦は、この国からさっさとなくさないといけないな!)
大将である森可行の脇には、参謀の勘助がいる。
勘助には、至高の匠スキルで作った“望遠鏡”を渡してある。
可行と勘助、忍者調査隊とで望遠鏡を交互に覗きながら、敵の大将と主な武将の顔を順に確認していく。
戦で、真っ先に首を刎ねるべきターゲット武将を確認する作業だ。
まあ、とんでも作業だよね。首狩族だ。
「北畠軍の指揮は北畠晴具。息子の北畠具教は城で留守番のようだな」と森可行が忍者調査隊に確認する。
そばに控える嫡男・森可成に向かい、父が力強く声をかける。
「我らを家臣としてお迎えくださった若殿に、森家の働きというものを、しかとお見せせねばならぬ。可成よ、若いだの、初陣だのと申してはおれぬぞ。――よいな!」
「はっ、父上。お任せくだされ。まずは、ライフル隊にて敵の突撃を食い止め、その後は郎党を率いて槍隊にて討ち入り、敵将の首、しかと挙げてまいりまする」
「頼んだぞ……わしももう歳よ。この戦が済み次第、森家の家督、おぬしに譲る所存じゃ」
「望遠鏡なる道具にて、敵将――田丸直政、吉田兼房、家城之清、木造具康――その顔、すべてこの目で確認つかまつった。きっちりと、全員の首を討ち取ってまいりまする」
***
北畠晴具は、忍び相手の戦などに、身分高き自分が時間を費やしていること自体に苛立っている。
伊賀軍などは、武士でもない下賎な忍者どもである。それに比べて、我が北畠は武士の名門。剣や槍の達人も沢山おる。
農民兵で脅かし、武術を極めた武将たちが切り込めば、こんな奴らなど……一目散に逃げ出すに決まっている。
北畠晴具は、伊賀軍を侮りきっているのだ。
(奴らなど……床に頭を擦り付け、殴られても、何をされても文句すら言えなかったような、うじ虫どもじゃ)
(片っ端から斬り殺してやればいいのだ)
周りを固める武将たちも同じことを考えている。
本来、戦前には、両軍の大将による“戦口上”がある。
しかし北畠晴具は、こんな下賎な奴ら相手に、そんなものは不要とばかりに、伊賀軍が見えた途端に「蹴散らせ」といきなり総攻めを命じたのである。
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