35話 防衛戦 作戦会議
天文9年(1540年春)――9歳
勘助が、俺から指示された注意点を、集まった諸将に順番に説明してくれている。
「まず第一に、雨天においても鉄砲や爆薬の使用は可能にござりまする。されど、なるべくならば雨中での戦は避けるよう、心がけてくだされ。装備品の管理と手入れは念入りになされ、戦の前後においては、装備の盗難・紛失の防止を厳にお願い申し上げまする」
「第二に、北畠家の一族には、官位を賜った者が多くおり申す。迂闊に生き延びさせれば、朝廷や幕府より横槍が入ることも想定されましょう。ゆえに、全滅させる覚悟をもって臨んでくだされ」
「第三に、敵を総崩れといたしたのち、速やかに伊勢を制圧いたします。電撃的な攻勢を強く意識してくださりますよう」
「第四に、関家および長野家については、今しばらくは六角家との衝突を避けたく存じますゆえ、彼らの領地を占領することはいたしませぬ。ただし、多額の賠償金を申し受け、以後二度と我らに戦を仕掛けられぬよう、厳しく圧をかけてくだされ」
(本当に一番注意しないといけないのは、ほとんどの兵が初陣であるということ)
(兵を率いる将も指揮するのが初めてということ。軍師も同様ということ)
これが、伊賀軍最大の弱点なのだ。
皆な、それを理解している……だからこそ……この緊張感なのだ。
こんな時に――
「大丈夫なのだろうな」
「負けたら終わりだからな」
「絶対失敗するなよ」
――といった類の言葉がダメなのは、素人の俺でも分かる。
(さて……なんて言って励まそうかな?)
「皆、聞いてくれ! 俺は神と約束した。この世から戦をなくし、民を幸せにすると」
「だから、この戦の責任はすべて俺にある。諸将よ、この戦に、諸将の力のすべてを出し切ることのみに専念してほしい」
「伊賀軍には、神の加護があるのだ! 俺たち伊賀軍は絶対に負けない!」
……こんなところでいいのかな?
(ダメでも、もう言っちゃったし……)
伊賀の当主をやることになるのなら……前世で起業して社長でもやっておけばよかった。それなら、もう少し気の利いたセリフが言えたのにね……。
(神童と呼ばれるとはいえ、まだ幼い殿が、我らを励ましてくださっている)
(我らは、いったい何をしておるのだ)
この伊賀に招かれ、期待され、信じて軍を任された身でありながら……不安げな顔を見せるなど、言語道断だ。
今こそ、我らは気合を入れねばならぬ。
兵の士気を、我らが高めねばならぬ。
その決意が、自然と家臣たちの胸に火を灯した。
空気が変わったのだ。
一同の目に、確かな闘志が宿り始めたのだ。
その後、勘助は戦術計画の詳細を説明し始めた。
「まずは、阿波口より伊賀街道を通り、長野峠へ至る道筋を進んでくるものと見られる、長野家・関家の連合軍、約1,000人にございます。これを長野峠にて待ち伏せし、奇襲をもって迎え撃ちまする」
「次に、伊勢地口より青山峠へと至る道を通る、北畠本隊、約3,000人。これもまた、青山峠にて迎撃いたしまする」
「そして、霧山城の攻略にござりまする。北畠家の一族郎党が、わずかばかりの兵をもって籠城しておると見ておりますゆえ、特殊部隊が霧山城を急襲し、これを落としていただきまする」
「また、特殊部隊以外の忍び衆には、北畠・長野・関、それぞれの軍勢に密かに貼り付き、その動向を逐一調べ、速やかに報告していただきまする」
この戦、オヤジたちが一番張り切っている。
北畠に対して思うところ大ありだからな。
特殊部隊には、アメリカの特殊部隊仕様の迷彩服やブーツ、ヘルメット、迷彩ペイント、ナイフ、登山用のロープや装備などを渡してある。
すべて至高の匠スキルで作り出したものだ。
迷彩服と迷彩ペイントには、特に食いつきが良かったな……。
ミリタリー仕様のナイフは、見本を作って村正一族に作らせておいたしね。
これも大好評。伊賀組み打ち術にナイフ術も加わった。
(どう見てもこれは忍者隊じゃなくて、前世の某海軍特殊部隊みたいになってるぞ)
お金に余裕ができたら、常備兵も全部こういうスタイルにするのもアリかも?
近代装備を忍者たちは喜んで取り入れてくれたが、武将たちはどうなのか……。
西洋甲冑の方を喜んだりしてね。
とにかく特殊部隊の訓練はすごかったらしい。
「よく死人が出なかったものですよ」と道順が漏らしていた。
この装備を身につけた特殊部隊は、きっと無敵だ。
(やっぱり、忍者って面白いな)




